「そうだ、高知へ行こう」
私は船橋競馬の英雄ともいえるフリオーソ号の大ファンである。
彼は引退後、ダーレージャパンにて種牡馬となり、種牡馬1年生としては褒められるのに十分な成績を残している。
そんな彼の初年度産駒に「フリビオン」という牡馬がいる。
彼の主戦場は高知競馬場。
中央でいう皐月賞に位置付けられる「黒潮皐月賞」を勝ったフリビオンの次走が「高知優駿」に決まったことを知り、私はいてもたってもいられなくなった。
そして、冒頭の言葉に立ち返る。
「そうだ、高知へ行こう」
私が住んでいる千葉県から、成田空港発の飛行機1時間半ほどで、高知竜馬空港に着く。
出迎えたのは「高知といえば」で、まず最初に思い浮かぶであろう坂本龍馬である。
到着したのは朝の11時。
だが、お目当てのレースは18時発走である。
私には行きたい場所があった。
桂浜である。
ご存じの方もいるだろうか。「たいようのマキバオー」に出てくる、桂浜である。
(※土佐闘犬センターは廃業しており、今は中に入れない)
ここで文太がつばけに……と漫画のワンシーンを思い浮かべながら、干渉にひたる。
のんびりした空気が流れる桂浜。波うち際で遊んでいたら、足元が濡れてびしょびしょになる。
カップルや子供連れが沢山いる中、ひとりは私だけだった。
そんな中でのビショビショなひとりの女。不安でしかない旅の始まりだ。
桂浜を堪能した後、いよいよ高知競馬場へ。
空港から換算すると、約30分ほどの移動時間を想定しておけば、余裕で着くだろう。
競馬場の入口すぐ近くの駐車場は満車であった。
道路一本隔てた第2駐車場に車を止める……が、そもそも車止めの線が掠れ、どこに止めるべきかも謎である。
周りは節度を保ちながらも自由に止めていたので、マネしてみた。
そうしたのんびりとした空気が流れる中、いよいよ高知競馬場の入口へ。
入口のすぐ横に場外馬券場がある。
川崎競馬場と同じ、コインをいれてガシャンとゲートが開くタイプ。川崎競馬で何度も体感したハズなのに、既にウキウキが止まらない。
子供の遊具を左手に、すぐ右を向くと、4コーナーが見える。
まっすぐいけばパドックである。
レースまでまだ時間がある。しばらく場内を歩くことにした。
パドック近くにあるこじんまりとした売店。
おばあちゃんと孫だろうか。のんびりしたおばあちゃんとお客さんのやりとりをサポートする孫。ナイスコンビである。
思わず、牛すじと玉子をオーダー。しっかり味が染みていて、おいしい。
高知競馬といえば! の代表格、アイスクリン。
ソーダ、バニラ、チョコ、ストロベリーの中から3段重ねられるらしい。
「初めて来たんですよ。名物のコレが食べたくって。オススメなんですかね?」
と、そんなたわいもない会話を振ってみたら、
「全部乗せちゃう?」
との返答。
魅惑の言葉である。
4段なのに、250円。
安い。
安すぎる。
途中、パドックに誘導馬が現れる。
日曜の三レース後にのみ行われるふれあいイベントらしい。なでなでし放題。おやつあげ放題。
こうやって、ゆるく交流を楽しめるのが地方競馬の良いところであると思う。
そんなこんなで、お目当ての「高知優駿」のパドックが始まった。
パドックは、中央や南関のそれと比べると半分程しかないのではないか、と思うくらいの広さである。
周回する馬たちの息遣いが聞こえる。
ちょっと声の大きいおじさんたちの、あの馬はああだ、こうだ……が、よく聞こえる。
騎乗する騎手たちが出てきて、隣の騎手と交わす声も少し聞こえる。
人でぎゅうぎゅうではないから、風がよく通って気持ちがいい。
レースが始まってみると、フリビオンの圧勝ともいえるレースだった。
ライバルと思われていた佐賀のスーパーマックスが落馬のあおりを受けて競争中止となってしまった。もし無事なら、2頭がどうレースをしたのか。
それだけが残念なレースだった。
しかしフリビオン自身も、スタートで不利を受けていた。
にも関わらず、それを感じさせない圧勝だった。
つい先日、調教師になることが発表された中西騎手にとって、最後の高知優駿である。
そんなこともあってか、ゴール直前に聞こえてきたのは中西騎手の雄叫びともいえる声だった。
レースが終わり、周りにいる人達から「何時から表彰やるんだろう?やるよね?」という声が聞こえてきた。
表彰式は〇時から、という確証的なものはないのかもしれない。(ある!!!という情報がありましたら教えてください)
高知駅21時前発車の夜行バスだったため、まだ時間はあるけど……と不安になりながら、表彰式を待つ。
中央ほど人がいるわけではないが、高知競馬が大好きな人が集まる表彰式。
表彰される人も、見守る人も、暖かい拍手で包まれる。
ここにもまた、地方競馬の魅力があった。
馬主様から(偶然のきっかけで)花束を貰い、その後レンタカーを飛ばして高知駅へ。
高知の滞在時間は朝11時から21時まで、ほんの10時間ほど。
それも夜行バスで帰って、すぐ仕事である。
なぜそんな無茶をするのか、と自分でも思う。
馬が好きだから、競馬が好きだから。競馬に係る全てのものが、大好きだから。
ただその一言に尽きる。
現在も、地方競馬は苦しい財政状態にあるという。
現地にいくことが、最良の策とは思わない、
が、自分にできることといったら、競馬場に行ったという実績を作ること。そしてそれを示すことで、誰かの後押しになることなのではないかと信じている。
この機会に、行ったことのない地方競馬へ足を運んでみてはいかがだろうか。
写真:s.taka