[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]競走馬になれる!(シーズン1-6)

コメント主のべるさんは、南関東でも数多くの馬を走らせている馬主であり、信ぴょう性は高いと思い、「詳しく教えてください!」と返しました。その後、メッセージにて「南関東は規定が変わり、能力試験さえ合格できればレースに出走することができます」と教えてもらいました。

その後、裏取りをしようと何人かの調教師や関係者に確認をしたのですが、「そもそも片目の馬は能力試験さえ受けられない」という方もいましたし、「正確には分からないので主催者に聞いてみたら」という方もいました。たしかに片目の視力を失っても走っている馬は多くいるのですが、それらの馬は競走馬になった後に失明したケースであり、生まれつき片目が見えない馬が競走馬になれるのかどうかは、誰も知らないというのが現状でした。福ちゃんのような先天性の事例に今まで出会ったことがないから、誰も正確な情報を持っていないのです。中央競馬がダメなら地方競馬も同じだろうと、僕も思い込んでしまっていたところがありました。

そこで大狩部牧場の下村社長が動いてくれました。NAR(地方全国競馬協会)に聞いてみたところ、各競馬場でのルールがあるので、それぞれの主催者に聞いてくださいとのこと。それを統括して把握しているのがNARではないのかと思ったりもしましたが、続いて園田競馬に連絡してヒアリングしてみると、園田競馬としては目の不自由な馬は能力試験も受けられないそうです。他の主催者の担当とは結局、連絡がつながらず、そこまでの情報をいただいたとき、僕の中ではやはりなと思ってしまいました。おそらく他の地方競馬場もダメだろうと。中央競馬がダメとなっているルールに準ずるのが地方競馬らしくもあり、わざわざ中央競馬と異なるルールを運用するメリットはないと考えるのが普通というか日本的なのではないでしょうか。

最初に園田がダメだと分かると、僕は悲観的な気持ちになってしまいました。日本で競走馬になる道が閉ざされてしまうと、残る選択肢は繁殖牝馬になるのみ。繁殖牝馬になると簡単に言っても、繁殖牝馬になって子を産んで、その子がセリ等で売れるようになるまで、少なくとも4、5年はかかるのです。そこまでの預託費をざっと計算しただけでも500万円以上。それ以外にも病気をすれば獣医師代がかかりますし、怪我をすれば手術費がかかります。繁殖にするだけでも簡単ではないのです。

競走馬になれるのであれば、それまでの育成費や厩舎に入厩すれば預託費がかかりますが、レースで走れば賞金や手当などの収入も入ってきます。何と言っても、未出走のまま繁殖牝馬になるよりも、レースで活躍することができれば繁殖牝馬としての価値を高めることができます。先々、セリで福ちゃんの子を売るとしても、未出走の母よりも、地方競馬であっても何勝かしている母の方が買い手としては手を出しやすいはずです。

本来は僕が率先して、各競馬場の主催者に問い合わせをして確認すべきなのですが、どの地方競馬場もダメだと完全に分かると、望みがなくなってしまうのが怖かったというのが正直な気持ちでした。知りたいけど知りたくない、知らないままいさせてほしいという気持ち、分かってもらえますよね。いずれはきちんと調べなければならないのですが、今でなくてもよいと思っていたのです。希望を引き伸ばしたかったのでしょう。それでも周りが動き始めてくれたことで、僕も重い腰を上げました。

べるさんにもう一度、メッセージを送ってみました。

「こんにちは。リケアサブルの優勝おめでとうございます!祝勝会等でお忙しい中すいません。片目の馬でも南関東なら能力試験に受かればデビューできることの裏取りをしているのですが、調教師に聞いてもダメだという人もいれば、競走馬登録する前の生まれつきの失明の馬は分からないという人もいます。NARに問い合わせると、各競馬場に聞いてくれないと分からないとなります。べるさんが南関東の規定が変わったとおっしゃるのは、どこを調べれば(もしくは誰に確認すれば)正式に分かりますか?教えてください」

べるさんは「大井はいけました。競走馬なる前に失明してる馬でしたよ!大井はちょっと前に規定が変わったので、もしかしたら川崎とかは違うのかもですが…」、そう言ってサラブレッドオークションのリンク(https://auction.keiba.rakuten.co.jp/item/11254)を送ってくれました。

バランセラの21として繁殖牝馬として売りに出されているのをべるさんが購入されたようです。購入金額に驚きつつ(笑)、下の説明文(本馬について)を読み進めていくと、以下のように記載されています。

本馬は、中央競馬会入厩検査において左眼失明との診断で出走が叶わず引退となりました。ここまで放牧および調教において、問題行動は無く、繁殖牝馬供用に問題は無いと思われます。

なお、当歳時に外傷性の左眼眼房内出血と網膜剥離を疑った経過がありますが、1歳時まで視力を有していたことは、眼科専門医により確認しており、後天的に弱視が進行したと推察されます。※左眼を失明しています。

たしかにバランセラの21は競走馬登録前に失明が判明し、中央競馬では競走馬になれなかったようです。それでも血統は素晴らしいものがあるため、繁殖牝馬としてサラブレッドオークションに出されていたところを、べるさんが買い取り、競走馬として大井競馬場でデビューさせたということです。これは競走馬登録前に片目の失明が分かっている馬が大井でデビューできたという紛れもない事実ですね。

さらに「大井は要項にデビュー前の失明馬はダメとなっていたのが削除されて、競走馬として危険な馬はダメみたいな表記になったはずです。それで問い合わせたら、能力受けてOKならデビューできるという回答もらいましたよ」と大井競馬の要項を示してくれました。

大井競馬場に関しては、最近規定が変わり、眼が正常ではない馬でも、調教試験に合格すれば競走馬としてレースに出走できるそうです。上が平成30年、下が令和5年の大井競馬の要項。眼に関する記載がなくなり、「競馬に参加して他の馬又は騎手に危険を及ぼすおそれがあると認められる馬」になっています。いつから規定が変わったのか正確には分かりませんが、平成30年までは目が正常ではない馬が欠格事項に入っていたのですから、ここ最近で変わったということは確かです。

生まれるのが少し早ければ、福ちゃんが走る姿を見ることは日本では叶わなかったということですね。べるさんのおっしゃる通り、欠格事項に入っていないということは、たとえ片目が失明している馬でも、大井競馬場の能力試験に合格しさえすれば、競走馬として走ることができるということです。福ちゃんは間に合ったのです。

その後、浦和の要項を確認してもらったところ、欠格事項に目に関する記載はありませんでした。南関東は足並みを揃えているはずであり、そうなると川崎も船橋も大丈夫ということになります。それを裏付けるようなリXのポストが株式会社レッドマジックの五月さんよりありました。

ライジングキャノンのことを調べてみると、たしかに川崎でデビューして2連勝を飾っています。これで川崎も能力試験に受かればデビューできることは確定です。

ちょうど同じ日に、Xのフォロワーさんからの情報を元に、下村獣医が名古屋競馬に問い合わせをしてくれていました。主催者と電話がつながり、「片目が見えないだけで受け入れは拒否するつもりはなく、能力試験に合格すれば競走馬としてデビューできる」との言質を取ってくれました。やはり走る場所があっての競走馬ですから、主催者がそう言ってくださるのは嬉しい限りです。日本のどこかに走れる場所があれば良いと思っていましたので、南関東4場と名古屋、すでに5つの競馬場を確保できて安心しました。扉が少し開いた、希望の光が少し見えてきたという気持ちです。

もちろん、能力試験さえ合格できればと言っても、そう簡単には行かないことも分かっています。そこまで福ちゃんは無事に育ってくれるのか、人を乗せてまっすぐに走ることはできるのか、育成に入っても大丈夫なのか、他の馬たちに混じってレースができるのか、などなど。全てが普通の馬のように順調に運ぶかどうか分かりません。ただ、競走馬になる道が開けたのは事実です。

もし福ちゃんが競走馬になれて、活躍することができたなら、たとえ片目が理由でセリで売れなくても自分たちで走らせようとする生産者も増えるかもしれませんし、もしかするとセリで片目が見えない馬でも買うよという馬主さんも現れるかもしれません。そうすると片目が見えないという理由で処分されてしまう馬も減るのではないでしょうか。幸いなことに、福ちゃんの母ダートムーアは中央競馬のダートで4勝した馬ですし、父タイセイレジェンドは川崎ダート1400mのレコードホルダーですから、福ちゃんもダートで走らないわけがありません。南関東は最も適する舞台であり、母ダートムーアのエンプレス杯3着を超えてもらいたいものです。夢は果てしなく広がります。

(次回へ続く→)

★福ちゃんの幸せな毎日を動画でお届けしています。YouTubeチャンネル「片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS」はこちら!→ youtube.com/@fukuchan0229

あなたにおすすめの記事