[連載・クワイトファインプロジェクト] 第40回 南関で「本気」で勝ちに行く

血統の偏りをなくし、サラブレッドの遺伝的多様性を将来にわたって維持していくことは、サラブレッドに関わる人間すべての責務だと考えている。その考えは私が死ぬまで変わることはない。

しかし、現実問題として同様の考えを持つ人がサラブレッドに関する業界(競馬主催者、馬主、生産者、メディア等)のなかで多数派を形成することはなく、私の知りうる限りでは極めて少ないことも、よくわかっている。

日本だけでなく世界的に、バイアリーターク系、ゴドルフィンアラビアン系は絶滅の危機に瀕している。ダーレーアラビアン系が世界のサラブレッド父系の90%以上を占めているのはご案内の通りであるが、ダーレーアラビアン系の中でも非ファラリス系の例えばハイペリオン系、リボー系なども同様に絶滅寸前である。いまや世界中のサラブレッドは、ファラリス系のなかでもノーザンダンサー系とミスタープロスペクター系が過半を占め、それ以外では日本のヘイルトゥリーズン系、アメリカのボールドルーラー系などが辛うじて発展している程度である。血統の寡占化はここ30年で特に加速した感がある。

・・・ここまで読んで当コラムの読者の皆様は「またいつもの論調だな」と思ったことであろう。

私の考えは変わることもないし、正しいと信じることは常に主張し続けなければならない。しかし、正論だけでは多くの人の賛同は得られないのも世の常である。特に、「勝利を希求する欲求」がこの産業を支える人々のエネルギーの源泉である競馬業界においては、

「勝利のための血統寡占化」>「遺伝的多様性の維持」であることは否定できない現実である。

だから逆に言えば、「勝ち」さえすれば、私の考えにいくばくかでも賛同の意を表明してくれるホースマンもきっと現れるであろう。

本音を言えば、私はその役割を、このたび8月20日サマーセールに上場する「バトルクウ2023」が担うものと考えていた。

他のオーナーさんのクワイトファイン産駒1歳馬たちの情報をリアルタイムで把握しているわけではないのでそこは何とも言えないのだが、「バトルクウ2023」は当歳時の馬格では他の種牡馬産駒たちに全く引けを取らない好馬体の持ち主であった。その後も順調に成長を続けており、1歳夏の測尺値は当然ながら姉(初仔)を上回る。いい馬主さんとのご縁があれば、きっとヒロインになれる資格を有している馬だと思っている。セリで無事に取引成立すれば私の馬ではなくなるが、1ファンとして是非とも活躍してほしいと願っている。

一方で姉、つまりクワイエットエニフ号であるが、初仔であるし、どこまで成長してくれるか半信半疑であったのも本心である。南関東に入厩させますと宣言はしてみたものの、馬体が追い付かなければ実力に比してレベルの高い競馬場に入れるのは馬にも人間にも負担になるだけだし、どうか成長してくれますようにと祈るような思いで昨年夏からの日々を過ごしてきた。

そして現在、クワイエットエニフ号は、地方競馬トップクラスの施設を誇る大井競馬小林分場の真島大輔きゅう舎にて鍛錬を続けている。育成牧場出発時には462kgまで馬体は成長したが、デビューまでにはさらなる成長が見込まれるであろう。

私はこの馬の代表馬主として、またプロジェクトの主宰として、クワイエットエニフ号にはできる限りのベストな環境を与えたいと考えてきた。吉澤ステーブルで中央デビュー馬と鎬を削りながら成長してきたことも、開業4か月足らずで馬房が少ないにもかかわらず9勝・連対率41%(8/5時点)という極めて優秀な成績を誇る真島大輔きゅう舎の一員として迎えていただけたことも、もちろん私一人の力で実現できることではなかったが、他18人の共有オーナー様のご理解や多くのファンの皆様の応援の後押しのもと、なんとかここまでは大きな事故なく駒を進めてきた。

ここまで来た以上、この馬は当然のように勝ち負けを意識している。クワイトファインという種牡馬に対して能力を疑問視する声が多いのはわかっているが、それを見返します、とかいう反骨心とかではなく、1頭のサラブレッドとしてフラットな目で勝ち負けできると思っている。それだけの成長過程を踏んできている。もちろん、勝負の世界だから様々なレースの綾で負けることはあっても、そこに参加すらできないレベルの馬ではないと考えている。

「本気」で勝ちに行く。勝つことで、来年の種付け頭数を1頭でも多く増やしたい。そして、サラブレッドの遺伝的多様性の維持についての議論を少しでも深めていきたい。

そして、本音ベースで妹ほどには期待をしてなかったことを、クワイエットエニフ号には詫びたい…と言いたいところだが、それはまだ早いかな。最善は尽くした。あとは故障などのアクシデントがないよう何とか無事にデビューを迎えてほしい。そうすれば結果はついてくる。

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