[連載・クワイトファインプロジェクト]八戸騎馬打毬応援コラム 見せましょう、馬好きの底力を!

この表題に元になった言葉は、ご記憶の方も多いかと思いますが、2011年の東日本大震災の際、被災地仙台を本拠地とする東北楽天ゴールデンイーグルスの主将(当時)嶋基宏捕手が、復興支援チャリティーマッチの開会スピーチにおいてコメントした言葉「見せましょう、野球の底力を」です。

さて、私は2019年以降トウカイテイオー後継種牡馬を残そうという活動に取り組んでおります。これは、再三再四このコラムでも述べてきたように、単なる夢やロマンではなく、バイアリーターク系やゴドルフィンアラビアン系などの異系の血が途絶えることが、サラブレッドの今後に悪影響を及ぼすことを懸念し、それを守り育て行こうという信念のもと取り組んでおります。現在は、実積十分なもう1頭のバイアリーターク系種牡馬パールシークレットとともに、この血の継続・発展を日々模索しております。

それと同時に、いや、本人の志としてはそれ以上に、少子高齢化の抗い難いトレンドの中で加速している都市部への人口集中、地方における過疎化・高齢化の急速な進行について心を痛めております。すでに公共交通や医療など、地方における生活インフラの縮小は始まっております。サラブレッドの生産に広大な牧草地を必要としたり、競走馬の流通の観点からも中央・地方の競馬場のこれ以上の閉鎖・廃止は避けなければならない(本来はむしろ増やしたい)競馬界にとっても、決して他人事ではない深刻な課題であると考えております。

そしてもう1つ、競馬を守り育て行くには、「馬事文化」の側面も欠くことはできません。馬と人が昔から親しみを持った関係性であるからこそ、人は競走馬の戦いに己の人生を投影させながら応援を惜しまず、また無垢な馬の瞳に愛おしさをおぼえるのでしょう。そして、それはサラブレッドには限らない、いや、むしろ「馬事文化」という意味ではサラブレッドは後発組であり、日本の伝統文化に溶け込んできた「在来種」の馬たちの存在にこそ目を向ける必要があるということを、今回「八戸騎馬打毬」との出会いを通じ私は学びました。

きっかけは、7月のYouTubeチャンネルでの青森ロケで、「地域おこし」につながるような何かいい「ネタ」がないかなということで、今回動画にも出ていただいた、旧友の山内卓(やまのうち・たかし)氏に数年ぶりに連絡を取ったことでした。その際に、山内氏が「八戸騎馬打毬会」幹事長として今年の開催に向けて奔走しておられること、また様々な理由から存続の危機に瀕しており、あと2年後に迎える200年記念ですら予断を許さないこと、等の状況を伺いました。

本件が直接「地域おこし」につながるかどうかは別として、馬に関わる伝統行事であること、サラブレッドではなく在来種(道産子)の利活用というサラブレッド以上に難しいテーマであること、また地域の伝統行事を守るための「人的資源・金銭的資源」の確保というおそらくどの地方でも頭を悩ませているであろう課題を共有していること。それらが私に突き刺さりました。

ハッピーエンドにはならないかも知れない。しかし、私のYouTubeチャンネルとして今後も何らかのメッセージを世間に訴えていこうと思うなら、このテーマから逃げるわけにはいかない、という使命感で、私はこのテーマを取り上げることを決断しました。

そんな思いを胸に、たまたま1回目の青森ロケ(7月5日)の前の週に、ウマフリ編集長の緒方さん、V-Tuberの唐沢さん、漫画家の坂崎ふれでぃさんと飲む機会がありました。そこで、八戸騎馬打毬の話をしたところ、皆さん大いに関心を持っていただき、また私が騎馬打毬当日に「毬奉行(まりぶぎょう)」というお役目を仰せつかったこともあり、私が対応できない分の撮影や取材対応を皆さんに担っていただくことになりました。

騎馬打毬の詳細は、唐沢さんのYouTubeチャンネル(KOKURI-TV)で近日中に公開いただけると思います。

おそらくかなりの力作になると思います。実際、いろいろな方々がXなどで書かれておりますが、「八戸騎馬打毬」、私の事前の想像をはるかに上回り(ごめんなさい)、迫力があり大変面白かったです。乗り役さんの技術もすばらしく、競技としてのクオリティーも非常に高いものだったと思います。年2~3回の開催でもいいくらいで、周知さえされれば馬事文化としてかなりの人気は出ると思います。

ただ、逆説的に言えば、このクオリティーの高さ、そのクオリティーを維持することが存続にとっての足かせになってくるのも事実です。今年参加した道産子6頭のうち5頭は20歳以上の高齢馬で、今後若い道産子馬をどのように導入するか(そもそも市場があるのか)、そして年1回の祭りのために誰がその面倒をみるのか、維持費を寄付等に頼るのか、誰かが身銭を切るのか、あるいは商業ベースに乗せて何かを展開するのか…。

また、今後の存続に向けた活動を誰が主導するのかも大きな課題だと感じました。南部家当主、八戸騎馬打毬会、(普段の馬を繋養している)Poloライディングクラブ、募金活動を行っている「南部打毬を支援する会」、また文化財支援としての県・市といった行政、いろいろな当事者がいる中で、山積している課題、発信・広報や資金調達・馬の繋養のためのインフラ整備、等々を各当事者がバラバラで行うのは効率性の面で疑義があり、体外的にも窓口は一本化されたほうがわかりやすいと思います。

それらは追々、関係者の皆様にも直接提言したいと思います。

しかし、まず我々が出来ることは、一人でも多くの「馬好き」の皆様に「八戸騎馬打毬」の魅力を伝えること、そして、応援団になっていただくことかと思います。

我々「馬好き」の底力を結集して、「八戸騎馬打毬」を200年、300年とつないでいきましょう。

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