有馬記念の激闘の興奮冷めやらぬなか、4日後におこなわれたホープフルS。正真正銘、中央競馬の一年を締めくくるGⅠで、前身であるラジオNIKKEI杯2歳Sの時代から数多のクラシック勝ち馬を送り出してきた。とりわけ、GⅠに昇格した2017年以降は、サートゥルナーリアやコントレイルなど1番人気馬が4年連続勝利(GⅡ時代も含めると5連勝)するなど、堅い決着が続いていた。
ところが、2022年は単勝90.6倍の14番人気ドゥラエレーデが優勝。2、3着にも7、6番人気が入り、3連単の配当は240万円を超えた。これは、同年におこなわれた重賞の中でも2番目に高い配当。それまで平穏に収まっていたGⅠは一転、大波乱の結末となった。
迎えた2023年のレースは、馬券発売直後から3頭に人気が集まるも、絶対的な軸馬はおらず混戦模様。そんな中、前述した3頭のうちの1頭、ゴンバデカーブースがスタートのおよそ2時間前に出走を取消。最終的に、それ以外の2頭がオッズ3.1倍で並び、票数の差でレガレイラが1番人気に推された。
アンモシエラとともに、牝馬として6年ぶりのホープフルS出走となったレガレイラは、7月函館の新馬戦でデビュー。直線半ばで一気に加速すると、後の重賞勝ち馬セットアップを瞬く間に差し切り、初陣を飾った。
前走のアイビーSは、メンバー中最速タイの上がりをマークするも3着に敗れたが、今回はデビュー戦と同じ小回りかつ右回りのコース。管理する木村哲也調教師とクリストフ・ルメール騎手といえばGⅠ6勝イクイノックスと同じで、このコンビから再び大物が誕生するか注目を集めていた。
僅かの差で2番人気となったのがシンエンペラー。フランス、アルカナ社のセールにおいて210万ユーロ(当時のレートで約2億8000万円)で落札された本馬は、全兄に凱旋門賞馬ソットサス、半姉に米国のGⅠ7勝のシスターチャーリーがいる良血。
東京の新馬戦を勝利してから中2週で臨んだ前走のラジオNIKKEI杯京都2歳Sは、直線で前が詰まりそうになるも、スペースを確保すると素晴らしい末脚を繰り出し優勝。デビューからの成績を2戦2勝とした。
スケールの大きな血統背景を持ち、対照的ともいえるコース形態で連勝している点は魅力。この馬もまた、大きな注目を集めていた。
以下、出世レースの東京スポーツ杯2歳Sで4着と惜敗するも、メンバー最速の上がりをマークしたショウナンラプンタ。JRAの平地GⅠ完全制覇が懸かる武豊騎手騎乗のセンチュリボンドの順で人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、レガレイラが僅かに出遅れ。アドミラルシップとテンエースワンもダッシュがつかず、後方からの競馬を余儀なくされた。
前は、ヴェロキラプトルとアンモシエラの逃げ争いとなり、最終的に2頭は並んで2コーナーを回った。やや気難しい面をみせながらショウナンラプンタがこれに続き、シンエンペラーは4番手の絶好位を確保。
その後ろはタリフライン、インザモーメント、サンライズジパングが並び、さらに3頭を挟んだ11番手にセンチュリボンドは位置。出遅れを無理に挽回しなかったレガレイラは、後ろから3頭目に控えていた。
前半1000m通過は1分0秒0の平均ペース。先頭から最後方のホルトバージまでは、およそ15馬身の隊列となった。
その後、3コーナーへ入ると、中団以下に位置していた馬たちが徐々に仕掛け、全体の差はやや凝縮。一方、先団にいたシンエンペラーは絶好の手応えで前との差を詰めると、4コーナーでやや外に膨れながらも2番手に上がり、そのまま直線勝負を迎えた。
直線に入ると、すぐにシンエンペラーが先頭。坂下でリードを2馬身に広げる。6頭横一線の2番手争いから追ってきたのはサンライズジパングで、さらに大外からレガレイラも末脚を伸ばし、坂の途中で上位争いはこれら3頭に絞られた。
その中で抜け出したのはレガレイラ。坂を上りきったところでもう一段加速し末脚を爆発させると、シンエンペラーをあっという間に捕らえ1着でゴールイン。3/4馬身差2着にシンエンペラーが入り、さらに2馬身差3着にサンライズジパングが続いた。
良馬場の勝ちタイムは2分0秒2。出遅れをものともしなかったレガレイラが、爆発的な末脚を繰り出して前をまとめて差し切りGⅠ初制覇。ホープフルSがGⅡ、GⅠと昇格して以降、牝馬の優勝は初めてで、JRAの2歳GⅠを2頭の牝馬が勝利したのも、グレード制導入以降では初の出来事となった。
各馬短評
1着 レガレイラ
ゲート入りを少し渋り、スタートで僅かに出遅れ。しかし、それを無理に挽回することなく後方を進むと、勝負所から徐々に進出。直線も、距離ロス覚悟で大外に進路を取ると末脚爆発。2番手争いをしていた6頭をまとめて交わすと、最後はシンエンペラーも差し切った。
この末脚はもちろん、タイトなコーナーで減速しない点も大きな強み。同じコースでおこなわれる皐月賞を目指してくれれば……と思っていたところ、所有するサンデーレーシングの吉田俊介代表が「皐月賞の選択肢をとる可能性が高い」と、レース後コメント。直行すれば、牡馬相手でも本命級の評価が必要となる。
2着 シンエンペラー
序盤にスムーズさを欠いた前走から一転、今回は早々に絶好位を確保。さらに、抜群の手応えで4コーナーを回り、このまま圧勝もあるかと思われたが、最後は勝ち馬のキレに屈してしまった。
4コーナーを回る際やや外に膨れ、直線もソラを使っていたそう。言い換えれば、これだけ幼い面を見せながら2着に好走しており、将来性は非常に高い。ただ、瞬発力タイプというよりは長く良い脚を使えるタイプで。ダービーよりも皐月賞に適性があるだろう。
3着 サンライズジパング
冬の中山は、パワーを要する馬場。そのせいか、2022年の覇者ドゥラエレーデに続き、ダートで勝ち上がった馬が好走を果たした。
道中はシンエンペラーの直後につけるも、ショウナンラプンタが外に張ったため、そのあおりを食って4コーナーではかなり外を回らされるロス。さらに、ゴール寸前でも進路をカット(シンエンペラー騎乗のムルザバエフ騎手に過怠金50,000円)される不利があり、これらがなければ上位2頭と僅差の接戦を演じていた可能性は高い。
管理する音無秀孝調教師によると、今後も芝とダートの二刀流でいくそう。そのとおり、1月17日におこなわれる船橋ブルーバードカップに登録申し込みがある。
JRAの三冠路線を進むのか、それとも2024年から創設されるダート三冠レースに駒を進めるのか。はたまたその両方に出走するのか。動向が注目される。
レース総評
前半1000m通過が1分0秒0、同後半1分0秒2=2分0秒2。これは、ホープフルSがGⅡ、GⅠとなってからの最速タイムだった。
内訳を見ると、4ハロン目と8ハロン目で少しペースが落ちたものの、全体的にはよどみない流れ。それでいて、最後の3ハロンは12.4-12.0-11.5と加速したままゴールしている。
これを、大外に持ち出すロスがありながら差し切ったレガレイラの、特に坂を上ってからの爆発力は凄まじいの一言。牝馬の皐月賞制覇は、1948年のヒデヒカリ以来70年以上達成されていないものの(中山の皐月賞では勝利なし)、扉が開かれる可能性は十分にあるだろう。
そのレガレイラ。父は新種牡馬のスワーヴリチャード。同馬は新種牡馬限定のファーストシーズンサイアーランキングで独走を決め、全種牡馬を含めた2歳ランキングでも3位と大健闘だった。
しかも、この世代の血統登録数は82頭。2歳ランキング1位のキズナが168頭、2位エピファネイアは160頭で、それらのおよそ半分ながら2頭とは僅差(中央限定)の成績。11月には、2024年の種付け料が、従来の200万円から7.5倍の1,500万円に上がることが発表され話題となったが、その中で早速GⅠ馬が誕生。2024年のセールにおいても、多数の産駒が高値で取引されるだろう。
一方、母ロカは2014年の阪神ジュベナイルフィリーズで1番人気に推されながら出遅れて8着。今回、スタートでレガレイラが出遅れた際、そのシーンが頭をよぎったが、母が成し遂げられなかった2歳GⅠ制覇を難なくやってのけた。
また、レガレイラの3代母は、ディープインパクトとブラックタイド(キタサンブラックの父)兄弟の母ウインドインハーヘア。この一族からは他に、ダービーと天皇賞(秋)を制したレイデオロが出ており、さらに5代母ハイクレアの一族からは近年、欧州のGⅠを6勝するなど11戦10勝のバーイードが登場。ただ、国内ではレイデオロ以来GⅠ馬が出ていなかったため、久々の大物誕生と言える。しかも、ダービーでレイデオロと激闘を繰り広げたのが、レガレイラの父スワーヴリチャードということも、ドラマを感じさせる。
現時点でこの一族最大の衝撃といえば、残した実績と馬名のとおり、ディープインパクトで間違いないだろう。ただ、2歳の中距離GⅠで、出遅れながらも牝馬が牡馬をまとめて差し切ったシーンは過去になく、レガレイラの今回のレース内容もまた衝撃。さらに、陣営のコメントどおり皐月賞に出走し、仮にも勝利することがあれば、ある意味それは三冠達成級の大きな衝撃となるだろう。
果たして、レガレイラは次にどんな衝撃を放つのか。そして、これまでにはなかった新たな景色を我々に見せてくれるのだろうか。
一年が締めくくられたばかりなのに、もう春が待ちきれなくなった。
写真:shin 1