[牝系図鑑]テーオーケインズ、レディパステルらを輩出。豊富なスタミナが武器のピンクタートル牝系。

サイアーラインや近親交配を中心に語られることが多い血統論だが、牝系を通じて繋がるDNAはサラブレッドの遺伝を語る上で非常に重要な要素を占める。
この連載では日本で繁栄している牝系を活躍馬とともに紹介し、その魅力を伝えていく。
今回取り上げるのは、テーオーケインズなどを輩出したピンクタートルの牝系だ。

扱いやすく、持続力があり、成長力もある、三拍子そろった名牝系

代表馬
・テーオーケインズ
・レディパステル

千代田牧場やシンコーファームで繋養されていたピンクタートルを牝祖とした一族。ピンクタートル自身もヴェルメイユ賞(G1・芝12F)で2着するなど競走馬としても一流の成績を残したが、直仔のレディパステルはロードサラブレッドオーナーズの所属馬としてオークスを制覇。その後も産駒は同クラブで募集されることが多かったから、クラブ会員の方にとっては馴染み深い牝系だ。

ピンクタートル

レディパステルの半姉にあたる米国産のピノシェットも繁殖としてノーザンファームが導入していて、こちらからは22年JBCクラシック覇者のテーオーケインズが出た。その他にも重賞級の産駒を多数輩出しているファミリーで名牝系の一つと言えるだろう。

ピンクタートルの牝系はいくつかの枝で勢力を伸ばしているのだが、父Blushing Groomの万能性はスパイスとして効いている。
Blushing Groomが強く主張するようなタイプは気性に難しいところがある馬もいるのだが、この一族の馬たちは素直で比較的扱いやすい馬が多いのも特徴だ。レディパステルなんかは生涯トップ戦線で走り続けたが一度も掲示板を外さなかった。
加えてピンクタートル自身が欧州の芝中距離を主戦場としたように豊富なスタミナやタフさも持ち合わせている。テーオーケインズが古馬になっていくにつれて徐々に強くなっていったように成長力もあって息の長い活躍を見せてくれる一族と言えるだろう。

勢力を伸ばす2つの分岐

牝系図

繁殖として活力を継続し勢力を伸ばした産駒はピノシェット(父Storm Cat)とレディパステル(父トニービン)の2頭。
ポップアイコン(父ダイワメジャー)なんかもOP2勝のアルサトワを輩出していて十分優秀なのだが、今回は活躍馬をより多く輩出している2頭に絞って特徴を紹介していこう。

①ピノシェット

ピノシェット

まず1頭目はピノシェット。

こちらは米国で現役生活を送っていて引退後にノーザンファームが輸入した馬だ。
ピノシェットの産駒では、スピリタス(父タニノギムレット)が京王杯オータムHと関屋記念で3着の活躍を見せた。特筆すべきはスピリタスの半姉カフェピノコ(父ジェイドロバリー)から繋がる枝で産駒にレディスプレリュード勝ちのタマノブリュネット(父ディープスカイ)、孫世代にチャンピオンズCなどG1級3勝のテーオーケインズが出た。

まず注目したいのはピノシェットの父がStorm Catだったということ。
ここでダート適性とスピードを獲得したのがこの枝の大きな特徴だろう。
またピノシェットの枝を更なる繁栄に導いたカフェピノコの父がジェイドロバリーだったことも考慮すべきだ。
ジェイドロバリーはストライドで走ってパワーでねじ伏せるようなタイプだからダート馬も出るし大箱適性も高い馬が多い。

ここまでくると後述のレディパステルとはかなり違った特徴を持ち合わせたファミリーと考えられる。
テーオーケインズはマンハッタンカフェや牝系からスタミナをしっかり受け継いで走り自体はまさにシニスターミニスター×ジェイドロバリーという馬で、戦績だけでなく特徴までもがピノシェットのひ孫として代表すべき一頭なのだ。

テーオーケインズ

②レディパステル

レディパステル

2頭目がレディパステル。

こちらはピノシェットとは対照的に日本の主流血統を掛け合わせ続けてきた。
レディパステル自身もそうだったが、トニービンの影響がとにかく強くて持続性能に特化したタイプのファミリーだ。
直仔の京都新聞杯3着の実績があるロードロックスター(父ロックオブジブラルタル)はデインヒルらしい迫力抜群のトモから繰り出すテンのダッシュ力で前に行って、牝系のスタミナとトニービンの持続性能で押し切るタイプだった。その半弟で神戸新聞杯2着のロードアクレイム(父ディープインパクト)にしてもジワリと差してくるタイプ。

最近では孫世代のマテンロウハピネス(父ダイワメジャー)が橘S勝ち、マテンロウオリオン(ダイワメジャー)がNHKマイル2着とまだまだ存在感十分。レディパステルから欧州的なパワータイプの血統を挟んでサンデーサイレンス系のスピード血統というのが今のこの枝のトレンドなのかもしれない。

マテンロウオリオン

クラシックもダート三冠も狙える万能ファミリー

今回は2頭の牝馬から伸びる枝に絞って紹介をしたが、それ以外の分岐も十分頑張っていて今後もピンクタートル牝系の発展は十分望めるだろう。
ピノシェットとレディパステルが全く違う方向性の特徴を獲得して繁栄している点からも、牝系が受け継ぐDNAの優秀さは間違いない。

また現在においても豊富なスタミナという点においてはピンクタートルらしさを感じとることができ、根っからのスプリンターという活躍馬は出ていない。
確かにレディパステルなんかはスピードを獲得するのが重要な項目だから短距離タイプの種牡馬をつけるというのは合理的かもしれないし、今後数代に渡ってそういった血脈を塗り重ねることでスプリントタイプも出てくるかもしれない。
しかし、現在はスピードを持った中距離タイプの種牡馬も多く、瞬発力を獲得する選択肢も豊富だ。
ピンクタートルやレディパステルのようにクラシックディスタンス、もしくはテーオーケインズのようにダートの頂点を狙えるファミリーの一つとして期待したい。

写真:shin 1

あなたにおすすめの記事