[重賞回顧]凱旋門賞に縁のある血が、マラソンレースを制覇~2021年・ステイヤーズS~

国内の平地競走では、最長距離のステイヤーズS。年に1度しか行なわれない条件ゆえスペシャリストが生まれやすく、このレースを2回以上勝利した馬は6頭。中でもアルバートは、ムーア騎手とのコンビで三連覇を達成している。

2021年の出走頭数は13頭。ただ、連覇を目指したオセアグレイトは故障が判明し、残念ながら回避となってしまった。そのため、確固たる軸馬が不在となり、単勝オッズ5~8倍の間に6頭がひしめく大混戦。その中で、1番人気に推されたのはカウディーリョだった。

父がダービー馬のキングカメハメハで、母は重賞3勝のディアデラノビアという良血。昨年2月にオープン昇級後は連対がなかったものの、夏に長期休養から復帰すると、2戦目の札幌日経オープンで2着の後、丹頂Sを勝利。2600mで立て続けに好走して長距離適性を見せ、今回はそれ以来3ヶ月ぶりの実戦だった。

僅差の2番人気にトーセンカンビーナ。こちらはディープインパクト産駒の良血で、2020年の阪神大賞典が2着。続く天皇賞・春でも5着と好走している。カウディーリョと同様、10ヶ月の長期休養から今夏復帰し、初戦の丹頂Sで8着。続く前走のアルゼンチン共和国杯は、勝ったオーソリティから0秒7差の7着と善戦。重賞初制覇を目指し、このレースに臨んでいた。

3番人気に続いたのがヴァルコス。こちらは2020年の青葉賞で、勝ったオーソリティとタイム差なしの2着に好走している。ただ、屈腱炎により、この馬も長期休養を経験。前走、1年ぶりの復帰戦となったカシオペアSで7着とまずまずのレースを見せ、それ以来、中4週の間隔で重賞初制覇を目指していた。

以下、前走のアルゼンチン共和国杯で6着となり、トーセンカンビーナに先着したアイアンバローズと、同じオルフェーヴル産駒のシルヴァーソニック。さらに、3勝クラスの古都Sで4着に敗れたものの、上がり最速の末脚を使ったディバインフォースが、人気順で続いた。

レース概況

ゲートが開くと、人気のトーセンカンビーナが少し立ち上がるようなスタート。ディバインフォースも少しダッシュがつかず、後方からの競馬となった。

カウディーリョが先手を切り、1馬身差の2番手をシルヴァーソニックが追走。以下、セダブリランテス、アイアンバローズと続いたものの、早くもペースは落ち、それを見越したアイアンバローズが、向正面で先頭に立った。

中団は、ゴースト、ボスジラ、バレリオの芦毛3頭が固め、ディバインフォースは後ろから4頭目。その2馬身後ろにトーセンカンビーナが続き、最初の1000m通過は1分5秒3と、非常に遅いペースで流れた。

その後、隊列は4コーナーを回りスタンド前へ。ここで、逃げるアイアンバローズのリードは3馬身。2番手以下は、カウディーリョ、シルヴァーソニック、セダブリランテスの順で変わらず、先頭から最後方のアドマイヤアルバまでは、およそ15馬身差。

その後、2度目のゴール板を通過する直前に、トーセンカンビーナが5番手まで上昇。2000m通過は2分10秒2で、最初の1000mと変わらずスローのまま、レースは2周目に突入した。

ペースが上がったのは、残り1200mの標識を通過してから。それまで、12秒台後半から13秒台前半だったラップは、ここで12秒2に加速。最初にポジションを上げたのはゴーストで、後方待機組も、それに合わせて前との差を少し詰める。

3コーナーに進入するところで、全体が10馬身以内の一団となり、続く4コーナーでディバインフォースがスパートし、一気に4番手へ。そのまま、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に向くと、アイアンバローズがコーナリングで再びリードを広げ、シルヴァーソニックとの差は1馬身半。その後、坂の途中で2番手との差は開き、アイアンバローズの初重賞制覇が見えてきたように思われたが、ただ1頭、それを追うのがディバインフォース。

坂上から徐々に差を詰めると、最後の最後でアイアンバローズを差し切り、見事1着でゴールイン。惜しくも半馬身及ばなかったアイアンバローズが2着となり、シルヴァーソニックが1馬身半差の3着に続いた。

良馬場の勝ちタイムは3分47秒6。2頭出走していた前走条件戦組の1頭、ディバインフォースが格上挑戦を実らせ、重賞初制覇を達成した。

各馬短評

1着 ディバインフォース

前走は、芝3000mに様変わりした3勝クラスの古都Sで4着。勝ったメロディーレーンからは少し離されたものの、上がり最速をマークしていた。

長く良い脚を使えるのが武器で、今回を含めた全23戦で、上がり3位以内の脚を使えなかったのは過去4度だけ。3走前の天皇賞・春では15着に大敗したものの、2019年の菊花賞では、メロディーレーンやカウディーリョに先着し4着に好走。3000m以上のレースで、実績があった。

この後は、サウジアラビアの3000mのレースに登録予定とのこと。出走が叶えばもちろん好走が期待され、来年のステイヤーズSに再び出走した際も、有力馬の1頭となるだろう。

2着 アイアンバローズ

石橋騎手の好判断で途中から逃げ、最後の最後まで見せ場を作った。

半兄に、米国のベルモントSを勝ったパレスマリスがいる良血で、セレクトセールでは、税込1億円以上で取引された高馬。まだ4歳で、今後も長距離戦での活躍が見込め、勝ち馬同様、来年このレースに出走してきた際は主力となりそう。

3着 シルヴァーソニック

半兄キャプテントゥーレは、2008年の皐月賞馬。母エアトゥーレは、現役時に阪神牝馬Sを勝利し、その母スキーパラダイスは、1994年のムーラン・ド・ロンシャン賞を制覇。これは、武豊騎手の海外GI初勝利でもあった。

今回2、3着だったオルフェーヴル産駒は、昨年もワン・ツー。これまで、ステイヤーズSには6頭が出走し、1勝2着2回3着1回と好成績を収めている。来年以降も出走馬がいれば、無条件でマークする必要がある。

レース総評

1200mごとにレースを区切ると、1分18秒1-1分18秒4-1分11秒1=3分47秒6。超のつく長距離戦のため、もちろん後傾ラップで、最後の1000mは58秒9だった。

あまりにも特殊な距離で施行されるため、他のレース、特に3000m未満のレースでなかなか狙いを立てづらいステイヤーズS好走馬。ただ、そう言っていても仕方がないので、年明けに行なわれる長距離戦との関連を調べてみた。

この後に行なわれる長距離戦は、1月の万葉S(3000m)と2月のダイヤモンドS(3400m)。まず、万葉Sの過去5年を調べると、万葉Sに出走した前走ステイヤーズS組は15頭。その成績は[2-0-2-11/15]で、3着以内に好走した4頭は、すべてステイヤーズSで4着以下に敗れていた。一方、ステイヤーズSで2、3着に好走した2頭は、万葉Sで4着以下に敗れている。

続いては、ダイヤモンドS。過去5年、ダイヤモンドSに出走した前走ステイヤーズS組は[1-1-1-9/12]。万葉Sとは対照的に、3着以内に好走した3頭は、すべてステイヤーズSでも4着以内と好走いていた。

もし、アイアンバローズやシルヴァーソニックの次走がダイヤモンドSであれば注目。そして、今回は4着以下に敗れたトーセンカンビーナやゴースト。さらに、マンオブスピリットの次走が万葉Sであれば注目したい。

一方、ステイヤーズSを勝ったディバインフォースは、父ワークフォースに、産駒初のJRA重賞勝利をプレゼントした。

現役時、ワークフォースは2010年のイギリスダービーと凱旋門賞を勝利。特に、凱旋門賞では、日本から遠征したナカヤマフェスタとの叩き合いをアタマ差制し優勝している。2021年現在、日本馬が最も凱旋門賞のタイトルに近づいたのは、この時だった。

血統面でいえば、ワークフォースの父はキングズベストで、その父がキングマンボ。そして、母の父はサドラーズウェルズ。キングマンボ×サドラーズウェルズの組み合わせといえば、1999年の凱旋門賞でモンジューの2着に惜敗したエルコンドルパサーと同じ血統構成でもある。また、ワークフォースと同じ、2007年に産まれたキングズベストの産駒といえばエイシンフラッシュ。こちらは、日本ダービーと天皇賞・秋を制している。

残念ながら、ワークフォースは2017年にアイルランドへ輸出されており、現4歳世代が日本でのラストクロップ。他の産駒もディバインフォースに続けるか、注目される。

写真:あぼかど

あなたにおすすめの記事