[地方レース回顧]有終の美、名コンビは4度羽田を飛んだ~2021年・東京大賞典~

今年最後の交流G1競走、東京大賞典。
上半期のダート王決定戦である帝王賞と同じく、大井競馬場の2000m戦で争われます。
今年の注目点はなんといっても「オメガパフュームの東京大賞典4連覇」が達成されるか否か、という点に尽きるでしょう。
夏の帝王賞はこの馬にしては珍しくコンディションが整わずに5着敗戦。このレースがラストランの予定とのことで、有終の美を飾るべく、すっかり白くなった葦毛馬が再び大井のグランプリに挑みます。

4連覇を拒むべく集まったメンバーも多士済々。
まずは前走JBCクラシックでオメガパフューム、チュウワウィザードを抑えてG1ウィナーになったミューチャリー、今回は主戦の御神本騎手とのコンビ、地元大井競馬場で迎え撃ちます。
浦和記念で重賞勝ち馬メイショウカズサの2着に入ったタービランスも安定感抜群。3着には先日の名古屋グランプリを制したヴェルテックスがいましたので、メンバーレベルも悪くない1戦での2着は価値があります。
ベテランと言えばノンコノユメ。大井競馬への移籍後も元気いっぱいで、今年の帝王賞で2着に入る活躍を見せています。
地方の3歳馬からはJDDを人馬一体で逃げ切ったキャッスルトップ、黒潮杯を制してから世代重賞で安定して走っていたジョエルは初の古馬相手でのレースでした。

JRAからも良いメンバーが参戦。
年を重ねても活躍をつづけたサウンドトゥルーの半弟アナザートゥルース、前走チャンピオンズカップでも押し切りを狙った3着で今度こそのG1制覇を狙います。
オメガパフュームと幾度となく末脚勝負を繰り広げたウェスタールンド、浦和記念では捲り切れず4着でしたが、いつも最後方から勢いよく上がってくる姿からは、9歳という馬齢が感じられません。
重賞で馬券内に好走を続けるロードブレスは坂井瑠星騎手の鞍上、思い入れのある大井競馬場で一発を狙います。
年末の大井競馬場でパワー勝負ならクリンチャー、鞍上はこの馬と重賞3勝の川田騎手が香港から戻ってきました。帝王賞ではルメール騎手と3着しているので、コース実績も確かです。
驚いたのはサンライズノヴァの参戦。JBCスプリントを走った馬がその年の東京大賞典に挑むのはコパノリッキー以来でしょうか。こちらも良い末脚を持っているので距離をこなせれば差し切れそうです。

例年以上に冷え込んだ大井競馬場で、冬のチャンピオンを決めるレースが幕を開けました。

レース概況

キャッスルトップが慣れない観客の歓声の影響か、ゲート入りを嫌がりましたが、それ以外の人馬はすんなり収まり、大きな出遅れは無くスタートを切りました。

無事にスタートを出たキャッスルトップがいつも通りにハナに行きます。続く先行馬群には、最内から順にタービランス、ノンコノユメ、ジョエル、アナザートゥルース、ミューチャリー、クリンチャーの6頭がひしめき合う展開に。
この6頭の後ろにロードブレス、デルマルーヴル、ノーブルサターンが続き、末脚を溜めるオメガパフュームとサンライズノヴァは後方から。
更に後ろにシゲノブ、エイシンスレイマンが後方2、3番手で続き、ウェスタールンドはお決まりの最後方待機で1コーナーへ入ります。

2コーナーに入るところでキャッスルトップが後続を離し、アナザートゥルースが2番手、クリンチャーが3番手、ノンコノユメがインコースから4番手で続き、ミューチャリーが5番手あたりで追走。
中段にタービランスとデルマルーブルが続きますが、残り1000m地点で早くもオメガパフュームがミューチャリーをマークする位置まで押し上げてきます。

オメガパフュームが動き出したのを見てサンライズノヴァが外から、ロードブレスが内から追いかけ、最後方からはウェスタールンドの足音も聞こえてきました。

3コーナー入り口、残り800mのハロン棒付近で馬群が凝縮し、逃げていたキャッスルトップが馬群に飲まれます。
キャッスルトップの脚色が鈍ったのを察知してかタービランスはクリンチャーの後ろに入り、ノンコノユメは更にその後ろに位置を下げてしまいます。一方、外では既に2番手まで上がっていたミューチャリーをオメガパフュームが追いかけて勝負どころに差し掛かります。

ミューチャリーが持ったままの手ごたえで4コーナーを回り、アナザートゥルースを交わして先頭に。オメガパフュームもデムーロ騎手の鞭が入り、ミューチャリーを追います。

しかし、4コーナー出口でミューチャリーが外へ膨れ、オメガパフュームは更に外へと振られてしまいます。そこでインコースでロスなく進めたアナザートゥルースが最内で粘り、外の2頭が空けた隙間から川田騎手が力強く追ってクリンチャーも迫ります。

インからしぶとくクリンチャーが抜け出しをはかりますが、大外からオメガパフュームも末脚全開。残り200mでミューチャリーが先頭争いから脱落し、クリンチャーとオメガパフュームの一騎打ちに。

最後は決勝線目前でオメガパフュームがクリンチャーを差し切り、前人未到の東京大賞典4連覇を達成、クリンチャーはあと数完歩の差で2着でした。

先頭争いの中、ウェスタールンドが最後方からの大捲りを決めて、ミューチャリー以下を交わしきる3着。
ミューチャリーは最後もう一度末脚を使いましたが4着まで。5着ロードブレスと6着アナザートゥルースもハナ差の大激戦になりました。

各馬短評

1着 オメガパフューム

過去3年の東京大賞典を制しているように、大井2000m戦の成績が突出していて、今回の勝利で最終成績は(5-3-0-1)、今年の帝王賞5着敗戦以外は全レースで連対しました。
スタートがのんびりしている馬ですが、それを補う末脚の持ち主で、ほとんどのレースで上がりは上位を記録。450-460キロ台でダート馬としてはやや小柄な馬格ながら、ハンデ59キロでも勝ち星を掴み取るパワーもありました。

今回は、前走で敗れたミューチャリーを目標に置きながらレースを進め、残り1000m付近から追い出す競馬。最後は外に振られながらもそこから更に末脚を繰り出してクリンチャーを差し切る横綱競馬でした。

クリンチャーやミューチャリーが先行して不利を受けないポジション取りをしていたことを鑑みると、今回の展開で勝ち切れたオメガパフュームの力はやはり1頭抜けていたのでしょう。

このレースでの引退予定が惜しまれますが、おそらく東京大賞典4連覇の大記録は当分は破られないはずです。

2着 クリンチャー

クリンチャーの武器はパワーと豊富なスタミナ。3歳時には大雨の菊花賞で2着、4歳初戦は重馬場の京都記念を制して芝重賞を制覇すると阪神大賞典、天皇賞(春)で3着に好走し、秋には凱旋門賞にも挑みました。
フランスからの帰国後は成績が振るいませんでしたが、昨年からダートに戦場を移すと、持ち前のパワーを発揮して好走を続けています。
パワフルな反面、追い通さないといけない馬ですが、夏の帝王賞ではルメール騎手とのコンビで3着に好走していたことに加え、今回はダート重賞3勝を共にした川田騎手とのコンビでの参戦が叶い、3番人気に支持されました。

ミューチャリーとオメガパフュームが外へ膨れたのを見るや、一気に追ってアナザートゥルースを交わし、最後まで止まらずしぶとい末脚を発揮。上り3Fのタイムはオメガパフュームと並ぶ大健闘でしたが、最後の数完歩で差し切られてしまう本当に惜しい2着でした。

折り合いにも距離にも不安が無く、今回のキャッスルトップのように前でレースを引っ張ってくれる馬がいれば、3コーナーあたりからロングスパートでねじ伏せに行く強気の競馬が出来るようになったので、来年の帝王賞での走りも見逃せません。

3着 ウェスタールンド

この馬の武器であり最大の魅力である「最後方一気の大捲り」。
大回りのコースに限らず、小回りの浦和競馬場でさえもギアが一気に入ると、他の馬を文字通り置き去りにする走りを見せています。年が明けると10歳になりますが、残り1000mで最後方にいながら上り最速の36.7秒を繰り出していて、まだまだ健在のようです。

今年は夏からの始動になり、前残りの展開や脚質ゆえの差し切れない競馬で勝ち切れずにいましたが、秋初戦のシリウスSで58キロを背負いながら、先行したサンライズホープのアタマ差2着に突っ込み健在をアピール。前走の浦和記念では大外を回すロスがあり4着まででしたが、今回はそれ以上の超ロングスパートから馬群の一番外を回しての3着激走。オメガパフュームに勝るとも劣らない本当に強い走りを見せてくれました。

成績表を見ると意外にも川崎記念は未出走のようですが、チャンピオンズカップ2着の成績が示す通り左回りでもG1で通用する脚の持ち主なので、体調が整えばこの冬こそ捲りきっての勝利が叶うかもしれません。

高齢にはなりましたが、サウンドトゥルーやリッカルド等、近い世代の馬たちも今年元気に走っています。まだ現役生活は続きそうですが、引退まで怪我無く無事に頑張って欲しいですね。

4着 ミューチャリー

白山大賞典2着、JBCクラシック1着で晴れてG1ホースになったミューチャリー。
前2走はG1を勝つべく当地の名手・吉原騎手が鞍上でしたが、今回からは主戦の御神本騎手とのコンビが復活。南関の代表として迎え撃つ立場での参戦でした。

JBCクラシックの回顧でも触れましたが、ミューチャリーもまたロングスパートの末脚が効く馬で、ゆえに末脚不発のレースもありましたが、前走はスタートを決めると積極的に先行し、JRA勢よりも先にロングスパートを仕掛けてのG1戴冠と、戦術の幅が広がった5歳秋でした。

今回も御神本騎手が促さずともアナザートゥルース、クリンチャーに自然についていく競馬をミューチャリーが自らが展開。馬群が凝縮する中でも、ロスなく抜群の手ごたえで4コーナーを回ることが出来ました。

クリンチャーとオメガパフュームに交わされたときに止まってしまうかと不安になりましたが、残り100mあたりから再加速しての4着、ウェスタールンドとの着差を考えれば本当に惜しいハナ差でした。

来年は6歳になりますが南関ではトップクラスの実力であることに変わりなく、今後もJRA勢を迎えうつ戦いが続きます。この秋に習得した先行押切の競馬、これまで好走してきた捲り差しの競馬のどちらでも勝負できるので、再びのG1制覇に期待したいですね。

5着 ロードブレス

父ダノンバラード、母父ナリタトップロードという渋い血統。母母父がフジキセキなので、サンデーの3×4クロスの持ち主です。
芝では1勝クラスで頭打ちになっていましたが、ダートに矛先を変えると一気に3連勝。昨年の日本テレビ盃を制覇、勢いそのままに浦和記念も2着好走して5歳シーズンを迎えました。

重馬場のレースは苦手のようですが、良馬場であれば先行するも控えるも良しの競馬で受賞で連続して好走。
スワーヴアラミスとの底力比べに挑んだエルムS、メイショウハリオとの末脚比べになったみやこSと性質の全く異なるレースで好走を続けているところに能力の高さを感じます。

今回は前にいたキャッスルトップ、デルマルーヴルがバテて壁になってしまい差し遅れてしまいました。しかし、直線でインに戻ったオメガパフュームを見て、外まで馬を誘導した坂井瑠星騎手の好判断が光りました。粘っていたアナザートゥルースを差し、掲示板を確保しています。

3コーナー付近でのロスが悔やまれますが、そのロスを被っても掲示板に載せる走りを見せてくれたので、来年こそ日本テレビ盃以来の重賞制覇も叶うのではないでしょうか。テーオーケインズが昨年このレースから飛躍したように、ロードブレスも強いメンバーと戦った経験を糧にして、来シーズンを飛躍の年にして欲しいですね。

レース総評

ゴール寸前まで大激戦だった東京大賞典を、文句なしの勝ち方で4連覇したオメガパフュームとデムーロ騎手のコンビ。3歳新馬戦でデビューし、その年に東京大賞典を初制覇した時にはまだグレーが濃かった馬体も、今日のレースではすっかり白くなり、年月を感じずにはいられません。

デムーロ騎手は「出遅れないか緊張した」とインタビューで語っていましたが、今回は五分のスタートから終始外を回りつつ積極的に攻めた競馬での戴冠。昨年は後方にいたミューチャリーを今年は前に置いて追いかける戦いになりましたが、相手の勢いもなんのその、やはり大井コースは「オメガパフュームの庭」でした。

このレースで引退するのが惜しまれますが、種牡馬入りが決まっているので、亡き父スウェプトオーヴァーボード、母父ゴールドアリュールの血を後世に伝える大事な役目を無事に果たしてほしいです。

オメガパフューム、4年間の現役生活お疲れさまでした。産駒の登場を今から楽しみに待っています!
願わくば、産駒もまた大井競馬で活躍して重賞、G1を勝ってほしいですね。

写真:かぼす

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