[重賞回顧]1枠1番の白毛馬が、どろんこ馬場を味方に二刀流を証明~2022年・函館記念~

サマー2000シリーズの第2弾、函館記念。夏場にローカルで行なわれるハンデ重賞のイメージどおり、波乱の決着はもはや当たり前。3連単が10万円を超えたのは、過去10年で実に8度と、最も荒れる重賞レースといっても過言ではない。

荒れるということは、上位人気馬が期待に応えられていないことの裏返し。とりわけ、1番人気馬が苦戦しているのは有名で、過去10年でわずか1勝。しかも、その他の9頭はすべて4着以下に終わっており、前走1着馬や前走1番人気馬も、同様に苦戦している。

そんな荒れる重賞を象徴する結果となったのが、2020年のレース。勝ったアドマイヤジャスタは16頭立ての15番人気で、2着も13番人気のドゥオーモが突っ込み、3連単は340万円を超える高配当。函館競馬の掉尾を飾るには、あまりにもハードな結果となった。

2022年も、フルゲートの16頭が参戦。例年どおり混戦模様で、単勝オッズが70倍を超える馬は不在。逆に、4頭が単勝10倍を切り、その中で1番人気に推されたのがマイネルウィルトスだった。

ここまで重賞勝ちは無いものの、前走の目黒記念を含め、GⅡで2着2回の実績は上位。また、不良馬場で行なわれた2021年の福島民報杯では、2着に1秒8もの大差をつけて圧勝しており、道悪も苦にしないとみられていた。

僅かの差で、2番人気となったのがアラタ。こちらも重賞勝ちはないものの、1年前に当地で連勝しており、コース相性は抜群。この時点で、既に3年連続の函館リーディングを決めていた横山武史騎手との初タッグで、重賞初制覇が期待されていた。

3番人気に続いたのが、7歳の古豪サンレイポケット。2021年の天皇賞・秋とジャパンCで連続して4着に好走するなど、この馬も明らかに実績上位の存在。オープンに昇級してからは、大半のレースで掲示板を確保しており、最低着順は7着と、相手なりに走れる安定感が魅力。新潟大賞典に続く、重賞2勝目がかかっていた。

そして、同じオッズながら、票数の差で4番人気となったのがスカーフェイス。この馬もまた重賞勝利はないものの、確実に伸びる末脚が武器。毎レースのように上位の上がりを繰り出しており、前走のGI大阪杯も、上がり最速で勝ったポタジェから0秒5差の6着に健闘。念願の重賞制覇が期待されていた。

レース概況

ゲートが開くと、マイネルウィルトスが少し出遅れた以外は、きれいなスタート。その中から、レッドライデンが出鞭を入れてハナを切り、ジェネラーレウーノが2馬身差の2番手。さらに、1馬身半差でギベオンとタイセイモンストルが続き、以下、アドマイヤジャスタ、フェアリーポルカ、ハヤヤッコ、アラタまでが中団。

上位人気馬では、サンレイポケットが11番手。スカーフェイスは後ろから4頭目。そして、出遅れたマイネルウィルトスは、後ろから2頭目を追走していた。

前半の1000m通過は1分0秒1で、この日の馬場を考慮すれば速いペース。それでも、3コーナー過ぎからはレースが動き、道悪適性がなかったか、ギベオンとアドマイヤジャスタは早々に後退。

続く3、4コーナー中間では、ジェネラーレウーノとタイセイモンストルがレッドライデンを捕まえにいくも、ハヤヤッコがこれら3頭を馬なりでかわし、後方から一気に差を詰めたマイネルウィルトスとともに先頭へ。さらに、後方各馬も前へと押し上げてきたところで、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、コーナリングで前に出たハヤヤッコが単独先頭。それをマイネルウィルトスが懸命に追い、残り150mで一度は並びかけた。ところが、ハヤヤッコがそこから二枚腰を発揮して再びリードを取ると、今度は馬体を併せることすら許さない。

結局、ゴールまでその差はほとんど変わらず、ハヤヤッコが1着でゴールイン。4分の3馬身差の2着にマイネルウィルトスが続き、後方から差を詰めたスカーフェイスが、3馬身差の3着に入った。

重馬場の勝ちタイムは2分3秒6。芝のレースでは、実に4年ぶりの勝利となったハヤヤッコが、芝ダート双方での重賞制覇を達成。二刀流を証明してみせた。

各馬短評

1着 ハヤヤッコ

2歳秋からダート路線に転向。3歳時には、重賞のレパードSを勝利するなど活躍したが、2走前から芝に再転向していた。

馬場を味方につけたのは言うまでもないが、芝のレースでは4年間未勝利にも関わらず、ハンデは2位タイの57kg。かなり見込まれたが、自身より斤量が1kg軽いマイネルウィルトスを最後は突き放し、文句なしの完勝。芝ダート双方で重賞を制し、路線再転向が間違っていないことを証明した。

白毛でお馴染みのシラユキヒメ一族で今年重賞を勝ったのは、メイケイエール、ソダシに続いて3頭目。次走は、そのソダシと同じく札幌記念を予定しているとのことで、夏場最大のレースで白毛馬が競演するか、またひとつ楽しみが増えた。

2着 マイネルウィルトス

スタートで両方から挟まれ、僅かに出遅れ。前半のペースを考えれば後方追走で良かったが、この出遅れが最後に響いてしまった。

前走目黒記念組は、過去10年で[2-1-0-10/13]。相性が良いとはいえないが、好走した3頭は、目黒記念で一桁着順だった馬。1年も先の話だが、来年、同じローテーションで臨む馬がいれば注目したい。

3着 スカーフェイス

勝ち馬と同様、道中はラチ沿いを回り、ロスを最小限に留めた。しかし、勝負所で前にスマイルがいたため、外に持ち出すのが遅れ、最後は末脚を伸ばすも、時すでに遅し。前2頭の争いに加われず、賞金を加算できなかったのは痛かった。

息の長い末脚が持ち味で、大半のレースで上がり3位以内をマーク。ただ、34秒を切ったのは3回だけで、瞬発力タイプではない。持久力勝負になりそうなローカル小回りの重賞、小倉記念や福島記念などに出走してきた際は注目したい。

レース総評

前半1000m通過が1分0秒1で、同後半は1分3秒5と、完全な前傾ラップ。それでも、3コーナー過ぎから各馬が続々とスパートを開始し、勝負所で先頭が常に入れ替わるサバイバルな展開となった。

馬場状態、そして道悪の巧拙の差が勝敗を分けたのはいうまでもないが、終わってみれば、ダートで実績を積み上げてきた馬と、1年前、不良馬場を苦にせず大差勝ちを収めた馬によるワンツー。そして3着のスカーフェイスは、ダートの名馬を多数輩出してきた、名門グランド牧場の生産馬だった。

ハヤヤッコに騎乗した浜中騎手は、これが今年重賞5勝目。通算では、区切りの50勝目となった。JRAのGI勝利こそ、2019年の日本ダービー以来遠ざかっているものの、6月末には、メイショウハリオで交流GIの帝王賞を制覇。かつての勢いを取り戻しつつある。

また、5月末にはボッケリーニとのコンビで目黒記念を制したが、同馬を所有しているのもハヤヤッコと同じ金子真人オーナーで、同オーナーが所有する現役馬の代表といえばソダシ。ソダシの主戦騎手といえば、吉田隼人騎手である。

ソダシとコンビを組む以前の吉田騎手が手にしたGIは、ゴールドアクターで制した有馬記念の1勝。もちろん、GIジョッキーになるだけでも十分に素晴らしいことだが、ソダシとのコンビでGIを2勝した吉田騎手は、一気に飛躍。関西に拠点を移したことも大きいが、過去2年、91勝、87勝を挙げてリーディングの常連となり、さらに今年は同オーナーが所有するポタジェに騎乗して大阪杯も制覇。さらに、1ヶ月後のヴィクトリアマイルで、ソダシに3つ目のGIタイトルをプレゼントしている。

一方、金子オーナーと浜中騎手のコンビで思い出すのが、2015年の天皇賞・秋。主戦の川田騎手が騎乗停止となったため、急遽の乗り替わりでラブリーデイ(ボッケリーニの全兄)に騎乗した浜中騎手は、そのハンデをものともせず、完璧な騎乗で大一番を制してみせた。

13日には、大井のジャパンダートダービーも制し、また一つビッグタイトルを積み重ねた金子真人オーナー。関わる人馬に及ぼす影響はあまりにも大きく、浜中騎手とのコンビで久々のGI制覇なるか。今後も注目したい。

写真:@pfmpspsm

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