[重賞回顧]東京マイルは史上最高レベルの実績!大敗から三度巻き返したソングラインが、2つ目のビッグタイトルを獲得。~2023年・ヴィクトリアマイル~

ウオッカやアーモンドアイ、グランアレグリアなど、牡馬を含めても、現役最強クラスの牝馬が圧倒的な強さを誇示してきたヴィクトリアマイル。一方で、18番人気のミナレットが3着に激走した2015年や、12番人気のコイウタが勝利した2007年など、想像を絶するような大波乱も度々起こってきた。

そんなヴィクトリアマイルは、世代間対決も一つの見所。繁殖として第二の馬生が待っている牝馬の中でも、大レースで実績を残してきた一流馬が6歳になって現役を続行するケースはまれ。必然的に4歳vs5歳の図式になることが多く、それもまた、このレースを楽しむポイントといえるのではないだろうか。

そして、2023年のヴィクトリアマイルで1、3番人気に推された2頭も、過去に最優秀3歳牝馬のタイトルを獲得した、世代を代表する名牝。また、出走16頭中14頭が重賞ウイナーで、アクシデントにより直前で回避せざるを得なかったアートハウスとメイケイエールの不在を感じさせない、素晴らしい顔ぶれとなった。

その中で1番人気に推されたのが、4歳馬スターズオンアース。デビューから5戦、好走するもなかなか勝ちきれなかった本馬が、一変するきっかけとなったのは桜花賞。ゴール前の大激戦を制して一冠を獲得すると、オークスでも素晴らしい瞬発力を発揮。二冠牝馬に輝いた。近2走、秋華賞と大阪杯は惜敗が続いているものの、ともに先行馬有利の阪神内回りが舞台。それでも、大阪杯は一流牡馬と好勝負を演じており、牝馬限定戦の今回は、1年ぶりの勝利と3つ目のビッグタイトルが期待されていた。

これに続いたのが、同じく4歳馬のナミュール。3歳時は三冠レースに皆勤するも、オークスは3着、秋華賞も2着と惜敗。あと一歩のところで、栄冠に手が届かなかった。今回は、東京新聞杯2着以来3ヶ月半ぶりの実戦も、この臨戦過程は前年2着のファインルージュと同じ。また、2歳時にはこの舞台でスターズオンアースを撃破した実績もあり、二冠牝馬を再び破って待望のビッグタイトル獲得なるか。注目を集めていた。

僅かの差で3番人気となったのが、5歳代表のソダシ。無敗で阪神ジュベナイルフィリーズと桜花賞を制し、早くから活躍してきたこの馬も、オークスは距離の壁に泣き、札幌記念快勝後の秋華賞で大敗。3歳秋以降はスランプに陥ったかと思われた。しかし、前年の当レースを完勝し、現役最強牝馬の座に就くとともに完全復活もアピール。芝1600mは、5戦4勝3着1回と最も得意にする舞台で、レース史上3頭目の連覇が期待されていた。

そして、4番人気に推されたのがこちらも5歳のソングライン。東京マイルのGⅠは3戦1勝2着1回で、前年の当レースは道中で躓いたことが影響し5着に敗れるも、続く安田記念は、NHKマイルCで敗れたシュネルマイスターに雪辱。GⅠ初制覇を達成した。前走は、サウジアラビアの1351ターフスプリントで10着に敗れたものの、過去に喫した二桁着順後の次走は、いずれも巻き返して連対。得意舞台で2つ目のビッグタイトル獲得なるか、注目を集めていた。

レース概況

ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートから最内枠のロータスランドが飛び出し、リードは2馬身。サウンドビバーチェとソダシが続き、ルージュスティリア、ララクリスティーヌ、ナムラクレア、スターズオンアースと、4頭が一団。中団8番手にクリノプレミアムが位置し、直後にソングライン、ナミュール、イズジョーノキセキが続いていた。

逃げるロータスランドは、前半600mを34秒2で通過し、同800mが46秒2と平均ペース。先頭から最後方のサブライムアンセムまではおよそ12馬身と、そこまで縦長の隊列にはならなかった。

その後、3~4コーナー中間に差しかかっても大きな動きはなく、ペースが落ちたことにより全16頭はさらに凝縮。続く4コーナーで、スターズオンアースが持ったまま3番手に上がってソダシの直後まで迫ると、マッチレースの期待感が一気に高まり、そのまま直線勝負を迎えた。

直線に入るとロータスランドが再び突き放し、リードは2馬身。ソダシの後ろにスターズオンアースとソングラインが迫り、さらに外からディヴィーナが末脚を伸ばす。

その後、坂を駆け上がったところでソダシが先頭に立つも、外へと進路を取ったスターズオンアースは、手応えほど伸びがない。逆に、ソダシの内へと進路を取ったソングラインが差を一気に詰め、ゴール寸前で馬体を併せると、僅かに前に出て先頭ゴールイン。惜しくも連覇ならなかったソダシがアタマ差2着となり、5歳勢によるワンツー。3/4馬身差3着に、スターズオンアースが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分32秒2。またしても、大敗から巻き返したソングラインが2つ目のビッグタイトルを獲得。初コンビで結果を出した殊勲の戸崎圭太騎手は、区切りのJRAGⅠ10勝目となった。

各馬短評

1着 ソングライン

レース序盤は中団やや後ろに位置し、ペースが落ちた中間点付近でラチ沿いへ。本当は外を通りたかったそうで、意図した進路取りではなかったものの、コーナリングで前との差を徐々に詰め、直線入口ではいつの間にか4番手。そして、直線でも内をそのまま鋭伸し、最後の最後でソダシを捕らえた。

この舞台でおこなわれるGⅠ、ヴィクトリアマイルと安田記念を勝利したのは、ウオッカとグランアレグリアに続いて史上3頭目。ただ、ソングラインはNHKマイルCでもハナ差2着に惜敗しており、東京のマイルGIは準三冠ともいえる成績。また、このコースでおこなわれる唯一のGⅡ富士Sも勝利しているため、東京芝1600mの実績は、ウオッカと並び史上最高レベルといっても過言ではない。

この後はオーナーサイドと相談とのことで、連覇がかかる安田記念に出走するのか。そこで、シュネルマイスターやソダシとの再戦はあるのか。期待が高まる。

2着 ソダシ

枠入りが良くないこともあり、大外枠ながらゲートインは最初。それでも、ほぼ問題なく入ると、スタートも決まった。

その後、内に切れ込みながら先行したことで4頭ほどに影響が出てしまったが(騎乗したレーン騎手に過怠金50,000円)、道中は実にスムーズ。レース上がり33秒7の瞬発力勝負(自身は33秒6)も前年に続いて難なくこなし、大外枠ということを考えると、勝ちに等しい内容だった。

芝1600mは、6戦4勝2、3着が1回ずつと崩れておらず、脚元に問題がなければ安田記念に向かうとのこと。前述したとおり、ソングラインとの再戦や強豪牡馬との対決が楽しみになった。

3着 スターズオンアース

課題のスタートは問題なく決まり、道中も絶好位をキープ。4コーナーを回った際は、連対を外すことなど考えられないような手応えだったが、いつものようなキレ味鋭い末脚は見られなかった。

レース後、ルメール騎手がコメントしていたとおり、上位2頭とはマイル適性の差がもろに出た格好。結果論になるものの、今回のメンバーで持ちタイム1、2位はソダシとソングラインで、2頭はともに、3歳春時点で1分31秒台をマークしていた。

その点を考慮すれば大善戦といえる内容。天皇賞・秋やジャパンCでは、大注目の存在といえる。

レース総評

良馬場発表でも直前でかなりの雨が降り、稍重に近い状態でおこなわれたヴィクトリアマイル。スタートからのラップは、12.1-11.0-11.1、12.0-12.3、11.3-11.0-11.4=1分32秒2。敢えて変わった区切り方をしたが、前半と後半の3ハロンが速かった一方で、その間に挟まれた2ハロンはペースが緩むという、特殊なラップだった。

結果的には上がり勝負で、先行勢に有利な展開。上位入線馬の多くは4コーナーを6番手以内で回っており、その点を踏まえれば、後方から差してきたディヴィーナの4着は立派。また、序盤に大きな不利を受けながら7着まで盛り返したナミュールは、次走がGⅠであっても見直したい。

勝ったソングラインは、連覇がかかった前走の1351ターフスプリントで出遅れ。11頭中の10着と大敗を喫してしまった。それまでにも2度、15着から巻き返した次走で2、1着と好走しているが、管理する林徹調教師によると、前走後はこれまでで最も乗り込んだそう。

大レースを勝利するために強い調教は必須だが、その分、故障のリスクは高まる。それでもソングラインはしっかりと耐え抜き、なおかつレース前は自分で体を作るタイプとのことで、運動量は過去最高でも、2走前とほぼ同じ体重で出走してきた。

乗り込みを増やしても馬体重が変わらない。言い換えれば、それは成長の証し。また、今回初コンビの戸崎騎手が3週連続で調教に騎乗したことも、間違いなくプラスに作用したといえる。こうして、安田記念を勝利したときと同じくチーム一丸となって取り組んだ結果、三度、二桁着順からの巻き返しに成功。2つ目のビッグタイトル獲得が実現した。

一方、1番人気で3着に敗れたスターズオンアース。敗因は、ルメール騎手のコメントどおりマイル適性の差だが、こういった例は、過去のヴィクトリアマイルや安田記念でも度々あった。

例えば、2022年のヴィクトリアマイルで12着に大敗したレイパパレや、2015年6着のヌーヴォレコルト。また、安田記念では2018年の3着スワーヴリチャードや、スタート直後に不利を受けたとはいえ、2019年のレースで3着に敗れたアーモンドアイなど。

これら4頭は、すべて前走1800m以上のレースで連対していながら、今回1番人気に推されるも3着以下に敗れてしまった馬たち。その中でも、翌年のヴィクトリアマイルを圧勝したアーモンドアイはさすがの一言だが、僅か200mや400mの差でも、マイルと2000m前後のレースでは、要求される適性は大きく異なる。

先日のNHKマイルCを制したシャンパンカラーも、中山2戦0勝に対して、東京マイルは3戦3勝と抜群の相性。コース適性はもちろん、距離適性を見抜くことの大切さも教えてくれる結果となった。

写真:かぼす

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