今年のJBC競走(レディスクラシック、スプリント、クラシック)は、大井競馬場での開催でした。
前回の大井開催との違いは「砂」。オーストラリアアルバニー産の珪砂で、白く見えるのが特徴です。
「排水性を確保できることで馬場状態の悪化を防ぐことや騎乗者の視認性確保が期待されます」と大井競馬のホームページに記載されている通り、ライトに照らされた白い砂は、より競馬場全体を明るくした印象を受けました。
今年のJBCスプリントは、この真っ白な砂の上を、スピード自慢の15頭が駆け抜けることとなりました。前哨戦の東京盃で競った6頭に加え、コリアスプリントから帰国したリメイクとバスラットレオン、ダートのスプリント戦に初めて挑むモズメイメイらがゲートイン。最後に昨年の勝ち馬ダンシングプリンスが収まって、各馬スタートを切りました。
レース概況
スタートの一完歩目、大外枠のダンシングプリンスが躓いて鞍上の岩田望来騎手が落馬するアクシデントからレースが始まります。
最内枠のギシギシが矢野騎手と共にハナに立つと、2番手集団にラプタス、イグナイター、モズメイメイ、ジャスティンが横並びに。中団の内にケイアイドリー、外はバスラットレオン。リュウノユキナは先行各馬が飛ばしたことでいつもの位置より一列後ろの8番手あたりに収まります。アルカウンがインの9番手で、リメイクはその後ろで末脚を溜める展開となりました。
後方にはマックス、ジュランビル、スタードラマー、離れた最後方ゴッドセレクション。カラ馬のダンシングプリンスも勢いよく先行馬群に突っ込んでいきながら、3コーナーへ向かいます。
ダンシングプリンスがバスラットレオンに馬体を寄せ、更にインに切れこんだことでケイアイドリーと藤岡康太騎手がブレーキを入れて後退。これを見ていたリメイクと御神本騎手は進路を外に切り替えます。ダンシングプリンスも結局外に進路を切り替えますが、コーナーでのせめぎ合いから先行馬群がそのまま直線に入って最後の攻防へ。
逃げていたギシギシが最初に脱落し、古豪ラプタスが残り300mで先頭に変わります。
その隣からイグナイターが抜け出しを図って残り200mで先頭が変わると、馬場の真ん中からリュウノユキナ、大外からはリメイクがイグナイターを捉えようと末脚を伸ばし、残り100m。
リメイクの末脚で1完歩ずつイグナイターを追い詰めましたが、イグナイターが1馬身半粘り切って1着。
あと少し届かなかったリメイクが2着、先行馬群を抜け出したリュウノユキナが3着、続いてジャスティン、ラプタスと、この路線で走り続ける古豪たちが先行粘り込みで掲示板入りを果たしました。また、カラ馬のダンシングプリンスはレースを走り切ると、向こう正面の外埒を破ったところで係の方に裏へ誘導されていきました。
各馬短評
1着 イグナイター
イグナイターは各地を転戦した経歴のある馬で、中央所属で新馬戦を勝つと、2戦目の1勝クラスでの敗戦後に南関東に移籍。京浜杯で2着に入りますが、南関クラシックを勝つことは叶わず、3歳8月から園田の新子厩舎に所属変更します。
3歳秋以降のイグナイターは安定したレースを続け、2022年の黒船賞、かきつばた記念で交流G3連勝、続くマイルチャンピオンシップ南部杯でも4着に好走。このときの回顧ではイグナイターを深堀りしていませんでしたが、「Jpn1クラスでも中央、地方の垣根を超えた熱戦が続く」という予感は、1年経って現実のものになりました。
鞍上の笹川翼騎手とのコンビは今年のかしわ記念からでしたが、交流G2さきたま杯を勝ち、2度目の南部杯ではレモンポップにちぎられたものの後続の追撃を凌いでの2着。5回目の交流G1挑戦で、遂に頂へ手が届きました。
ギシギシ、ラプタスの刻んでいたペースを追走し続けて最後までしっかり走り切った姿には、各地で地方・中央関係なく強いメンバーと戦い続けたこの馬の意地が垣間見えます。これまでの走りから1600mまでは好走範囲内なので、次走どこを目指すのか注目したいですね。
2着 リメイク
アメリカ三冠競走に挑んだラニの産駒ながら、父とは異なりスプリント路線で追い込みを武器にするリメイク。
末脚が繰り出せる展開では常に後方から上位争いに食い込んでくる馬で、リヤドダートスプリント、ドバイゴールデンシャヒーン、そして前走のコリアスプリントと、海外経験も豊富です。
ドバイでコンビを組んだ武豊騎手との参戦予定でしたが、怪我の為、御神本騎手に乗り替わってのレースでした。
カラ馬のダンシングプリンスをやり過ごしながら仕掛けどころを狙う難しいレース運びでしたが、残り300mで大外に持ち出されてからイグナイターに迫った末脚は流石と言えます。
御神本騎手の見事な手綱さばきも印象に残りました。外からダンシングプリンスが来たときはその内でやり過ごし、バスラットレオンらに突っ込んでいった際は外、ごちゃついてダンシングプリンスが外へ行ったと見るやコーナーではリメイクをインに誘導して直線では大外一気…。結果的にはリュウノユキナのポジションが理想的でしたが、末脚を止めないために安全な進路を探した御神本騎手は、これが初コンビとは思えない騎乗ぶりでした。
適距離がマイルより短い馬なので、来春は再び海外G1に挑むのではないでしょうか。地方のスーパースプリントシリーズで再び御神本騎手とコンビを組むことも将来あるかもしれませんね。
3着 リュウノユキナ
出走馬のなかで最年長の8歳で挑んだリュウノユキナ。2020年以降、大崩れすることがほとんどない安定した走りを続けています。
先行馬群の後ろで抜け出すタイミングを狙い、バテた馬の間から抜け出すスタイルで、ライバルたちの隙を狙う老練の走りを続けています。ダンシングプリンスの件で最内に押し込められるものの、結果的にイグナイターの真後ろを確保。勝負に徹する横山武史騎手が懸命に追って上り3位の末脚を繰り出しました。先行馬群からはきっちり抜け出しての3着確保でした。
普段より少し後ろの位置にいたことで差し切るには至りませんでしたが、走りに衰えは見えないので、9歳になる来年も現役続行するのではないでしょうか。スピードそのものは全盛期には及ばずかもしれませんが、力の要る地方の砂なら勝負可能なので、まだまだ交流重賞を賑わせて欲しいですね。
競走中止 ダンシングプリンス
スタートで躓くと、首が地面つきそうなほどバランスを崩して岩田望来騎手が落馬。その後立ち上がったダンシングプリンスは、単身レースに戻らんと勢いをつけて先行馬群に駆けていきます。スタートから15秒でリメイクとリュウノユキナの間に追いつき、その後直線まで脚を残していた走りを見ると、「ゲートを無事に出ていたIF」を語りたくなります。
2022年のクラスターカップでもスタートの出遅れを巻き返せずに敗戦したことがあり、被されない逃げでこその馬。今回の大外枠は歓迎だったはずですが、残念な結果に終わってしまいました。
次こそはその背に鞍上を乗せて…と、元気に走る姿を期待していたのですが、このレースをラストランに種牡馬入りする予定とのこと。パドトロワの後継種牡馬として、自らのようなスピードと闘志溢れる産駒の誕生に期待しましょう。
レース総評
園田競馬に所属しJBCスプリントのタイトルを獲得したイグナイター。かつてオオエライジン、タガノジンガロらが果たせなかった悲願を達成しました。
JRAでデビューし、南関東、園田競馬と転籍しながら一歩ずつ実力をつけて、JRA所属馬と差のない接戦を続けてきた走りは、私の「予感」をも「現実」に叶えてしまいました。
8歳のリュウノユキナが第一線で走れるように、実力が伴えば長く走れるのがダート競馬の良いところ。現在5歳のイグナイターは更なる高みを目指して、これからも各地で戦いを繰り広げることでしょう。
イグナイター、笹川騎手、新子調教師、武田厩務員、野田善己オーナー、春木ファームの皆様、優勝おめでとうございます!
写真:かぼす