台風10号の進路を気にしながらの開催となった8月最終週の競馬。その中で、北海道シリーズのフィナーレを飾るのが、出世レースの札幌2歳Sである。レース当日は天候が目まぐるしく変化したものの、発走30分前には晴れ。ただ、馬場状態は終日「重」で、ややパワーを要するコンディションだった。
そのような条件下でおこなわれる出世レースにエントリーしたのは12頭。上位人気が予想されていたキングスコールが回避したことで混戦となり、5頭が単勝10倍を切る中、最終的にファイアンクランツが1番人気に推された。
良血ロパシックを破って初陣を飾ったファイアンクランツは、父ドゥラメンテと同じ堀宣行調教師の管理馬。4コーナー先頭から上がり最速タイで押し切った初戦の内容は秀逸だった。
しかも、今回は初戦と同じ重馬場。道悪を経験していることも評価され、デビュー2連勝での重賞制覇なるか注目を集めていた。
票数の差で2番人気となったのが、同じくドゥラメンテ産駒のアスクシュタイン。函館の新馬戦を完勝したアスクシュタインは、続くコスモス賞でも逃げの手に出ると2着に7馬身差をつけ圧勝。デビューから2戦2勝とした。
鞍上の北村友一騎手は、この日、通算900勝を達成。札幌2歳Sは、史上7人目の全10場重賞制覇が懸かる一戦だった。
そして、3番人気に推されたのがマジックサンズ。デビュー戦を2馬身差で完勝したマジックサンズは桜花賞2着コナコーストの半弟で、ダービー馬フサイチコンコルドや、皐月賞馬ヴィクトリー、アンライバルドらと同じ名門一族の出身。
管理する須貝尚介調教師は、札幌2歳Sで3勝2着2回と相性が良く、リーディング首位を快走するキズナ産駒から今年もクラシック候補が誕生するか、期待されていた。
以下、イントゥミスチフ産駒の外国産馬マテンロウサン。ワールドエース産駒で、東京の新馬戦を勝利したモンドデラモーレの順で人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、内2頭が僅かに立ち後れたものの、ほぼ揃ったスタート。その中から、予想どおりアスクシュタインが飛び出し、バセリーナとマテンロウサンが続こうとするところ、2コーナーでこれら2頭を交わしたトップオンザヒルが2番手に上がった。
4番手となったマテンロウサンの1馬身後方にモンドデラモーレが位置し、これら5頭が先団を形成。一方、中団にはアルマヴェローチェ、ショウナンマクベス、マジックサンズが固まり、以下、それぞれ1馬身半差でニシノタンギー、レーヴドロペラ、ファイアンクランツと続いて、離れた最後方にローレルオーブが控えていた。
1000m通過は1分1秒0と平均的な流れ。先頭から最後方までは13馬身ほどの差となり、レースは3、4コーナー中間へ。ここで、トップオンザヒルとバセリーナの手応えが怪しくなり、替わってモンドデラモーレが2番手に上がるも、大外から一気にポジションを上げたマジックサンズが先頭のアスクシュタインに並びかけた。
さらに、マテンロウサンや後方に控えていたファイアンクランツもこの争いに加わり、アルマヴェローチェがポッカリと開いた内に進路を変更する中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入るとすぐマジックサンズが先頭に立ったものの、残り200mを切ってからは、内ラチ沿いを伸びるアルマヴェローチェとの一騎打ちに。その後、一旦はアルマヴェローチェが前に出たものの、もう一度伸びたマジックサンズがゴール寸前でこれを捕らえ1着でゴールイン。アルマヴェローチェがハナ差2着となり、1馬身1/2離れた3着にファイアンクランツが続いた。
重馬場の勝ちタイムは1分50秒3。キズナ産駒のマジックサンズがデビュー2連勝で重賞制覇。管理する須貝調教師は当レース4度目の勝利となり、JRAの重賞通算50勝を達成した。
各馬短評
1着 マジックサンズ
僅かに立ち後れるも、鞍上の佐々木大輔騎手が少し促して馬場の中央へ誘導し、1コーナーでややゴチャついたものの中団を確保。ある程度ペースも流れていたため、結果的に最も良いポジションにつけることができた。
直線、先頭に立ったところでふわふわするなど幼い面はあるものの、将来性は十分。良馬場での走りを見ていないのでなんともいえないが、おそらく長く良い脚を使うタイプで、ダービーよりもホープフルSや皐月賞で能力全開となりそう。
2着 アルマヴェローチェ
マジックサンズには僅かに及ばなかったものの、勝ちに等しいといってもいい内容。特に、4コーナーで一度は外へ行きかけるも、ポッカリ内が開いていることに気付いた横山武史騎手が瞬時に進路を切り替え直線でも一度は先頭に立つなど、大いに見せ場を作った。
父ハービンジャー×母父ダイワメジャーの組み合わせは、マイルCSを勝ったナミュールと同じ。本馬もまたクラシック路線に乗ってくるだろう。
3着 ファイアンクランツ
スタートで出遅れかけるも何とか堪えたが、1コーナー進入時に内からマジックサンズとその影響を受けたレーヴドロペラに寄られ、位置取りが後ろになってしまった。結果的にこれが響いた格好だが、それでも中間点付近から長く脚を使って2頭に迫り見せ場を作った。
前走に続いて重馬場のレースとなったため、良馬場での走りを見てみたいところだが、この馬もまた長く良い脚を使うタイプではないだろうか。
レース総評
前半800m通過が48秒8で、12秒2をはさみ、同後半が49秒3とほぼイーブン。重馬場かつ2歳戦であることを考えれば遅いペースではなく、終始トップオンザヒルやモンドデラモーレに突っつかれたアスクシュタインにとっては、やや厳しい流れ。結果的には、中団に位置していた差し馬が上位を占めた。
その中で注目したいのが、前述した1コーナーの攻防と4コーナーの進路取り。見た目には少し強引な形になったものの、ルールの範囲内で1コーナーの攻防を制した佐々木大輔騎手&マジックサンズと、4コーナーで瞬時に進路を内へと切り替えた横山武史騎手&アルマヴェローチェが、直線では3番手以下をやや引き離して一騎打ちに。マジックサンズがふわふわしたことでよもやの一騎打ちになったともいえるが、日本を代表するジョッキーになりつつある横山武騎手と、その後を追うように勝ち星を量産している若武者・佐々木騎手の叩き合いは、大変見応えのあるものだった。
勝ったマジックサンズはキズナの産駒で、母父はキングカメハメハ。前者は現在リーディング首位を快走し、後者は2020年から3年連続ブルードメアサイアーランキング首位を獲得(2023年は2位)しているものの、この組み合わせでJRAの重賞を勝利したのは意外にも本馬が初めて。ただ、現3歳世代からノーザンファームが積極的に自社の繁殖牝馬にキズナを種付けしており、今後も重賞ウイナーが続々と誕生するだろう。
ちなみに、ノーザンファーム生産馬はこのレースに3頭出走し、それら3頭が上位を独占。生産者ランキングでは相変わらず他の追随を許していないものの、今春のGⅠ勝利数は社台ファームを下回っていただけに、この秋、そして来春の巻き返しに向けて、着々と準備を進めている。
また、管理する須貝尚介調教師は札幌2歳S4勝目。故・伊藤雄二調教師の記録(当時のレース名は札幌3歳S)に並んだ。ゴールドシップやレッドリヴェール、ソダシなど、当レースで連対した管理馬の中から後のGⅠ馬が複数出ており、マジックサンズにも同様の期待が懸かる。
写真:@gomashiophoto