![[重賞回顧]これぞマジックマンの真骨頂! 競馬に絶対がないことを証明したミュージアムマイルが、逆転の一冠奪取~2025年・皐月賞~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/04/IMG_4893.jpeg)
近年の出走動向の変化を踏まえ、GⅠとの間隔を広げるために複数の前哨戦の実施時期が見直された2025年。ところが、いざGⅠが始まってみると、前哨戦が例年より前倒しされた3レースの勝ち馬は、すべて前哨戦やトライアルに出走しなかった馬だった。さらに、サトノレーヴとベラジオオペラに至っては、GⅠが今季初戦。桜花賞もトライアル不出走組が掲示板を独占した。
そして、牡馬クラシック第一弾の皐月賞には、「直行組」の真打ちともいうべきクロワデュノールが登場。絶対的な軸馬がいなかったここまでのGⅠ4戦とは対照的に一強の様相を呈し、単勝オッズ10倍を切ったのは僅か2頭だけ。中でも、クロワデュノールの最終的なオッズは1.5倍で、断然の支持を集めた。
6月東京の新馬戦を好タイムで完勝したクロワデュノールは、5ヶ月の休養をはさんだ東京スポーツ杯2歳Sで重賞初制覇。さらに、年末のホープフルSも連勝し、GⅠ初制覇を成し遂げた。
今回は4ヶ月ぶりの実戦となるものの、これまで負かした相手が次々と重賞を勝利しており、それもこの馬の評価を大きく高めた理由のひとつ。世代一強の証明とGⅠ連勝へ。クラシック初戦は負けられない戦いとなった。
大きく離れた2番人気にサトノシャイニング。
9月中京の新馬戦を勝利したサトノシャイニングは、2ヶ月ぶりの実戦となった東京スポーツ杯2歳Sで2着に好走。クロワデュノールが完調手前だったとはいえ0秒1差まで迫り、さらに2月のきさらぎ賞を完勝したことで、自身の強さをしっかりと証明した。
それ以来の実戦となる今回は、クロワデュノールに雪辱を果たす一戦。リベンジ完遂でクラシック制覇なるか。大きな期待を背負っていた。
そして、3番人気に推されたのがミュージアムマイルだった。
初戦こそ3着に敗れたものの、未勝利戦と黄菊賞を連勝したミュージアムマイルは、距離短縮で挑んだ朝日杯フューチュリティSで出遅れながらも2着に好走。十分に見せ場を作った。
シーズン初戦となった前走の弥生賞ディープインパクト記念は4着に敗れるも、今回は、この春すでにGⅠを2勝している「マジックマン」ことジョアン・モレイラ騎手との初コンビが実現。初対決のクロワデュノールを撃破し、逆転でクラシック制覇なるか。注目を集めていた。
以下、共同通信杯を快勝したマスカレードボール。デビューから3戦3勝でラジオNIKKEI杯京都2歳Sを制したエリキングの順で、人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、キングスコールが若干アオったものの、大きく出遅れた馬はいなかった。その中から飛び出そうとしたのはジュタで、これにピコチャンブラックとジーティーアダマンが競り掛け、最終的にピコチャンブラックが先手を奪った。
一方、注目のクロワデュノールは好位4番手を確保。ニシノエージェント、ドラゴンブースト、ジョバンニ、ミュージアムマイルが半馬身から1馬身間隔で続き、向正面に入るところで隊列は決まったかと思われた。
しかし、ここでファウストラーゼンが伝家の宝刀マクりを敢行。これについていったアロヒアリイとともに、前は3頭が横並びとなった。
1000m通過は59秒3で、この日の馬場を考えればやや遅い流れ。先頭から最後方のマジックサンズまでは15馬身弱で、さほど縦長の隊列にはならなかった。
その後、3~4コーナー中間でクロワデュノールが進出を開始すると、サトノシャイニング、ミュージアムマイル、ジョバンニ、エリキングら、中団から後方に構えていた上・中位人気勢もスパート。前は10頭ほどが固まる中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入ると、ジュタとクロワデュノールがファウストラーゼンに並びかけ、坂下でクロワデュノールが単独先頭。後続を引き離しにかかるも、坂を上りきるところでやや脚色が鈍ってしまった。
替わって馬場の中央から勢いよく伸びてきたのはミュージアムマイルで、残り100mで一気にこれに並びかけると、最後は1馬身1/2突き抜けて先頭ゴールイン。圧倒的人気のクロワデュノールがこれに続き、直線だけで猛追したマスカレードボールがクビ差3着となった。
良馬場の勝ちタイムは1分57秒0のレースレコード。弥生賞ディープインパクト記念4着から見事に巻き返したミュージアムマイルがGⅠ初制覇。鞍上のジョアン・モレイラ騎手は桜花賞に続く2週連続のクラシック制覇で、4週間で3度目のGⅠ勝利となった。

各馬短評
1着 ミュージアムマイル
道中はちょうど中団、クロワデュノールを3馬身ほど前に見る位置でレースを進め、3~4コーナー中間から進出。ゴール前でライバルを差し切った。
勝負を分けたのは向正面の攻防。マクった馬の動きにつられることはなかったものの、内にいたニシノエージェントがやや外へ斜行(鞍上の津村明秀騎手に過怠金3万円)したためにゴチャつき、バランスを崩してポジションが下がりそうになった。それでも、モレイラ騎手が促して位置をキープしたのはマジックマンの真骨頂ともいうべきファインプレーで、最後はしっかりとクロワデュノールを捕らえてみせた。
スタートがあまり得意ではないものの、前走と今回は五分以上。また、父リオンディーズのような激しく難しい気性、折り合いを欠く面などは今のところほぼ見られず、ダービーでも好走が期待される。

2着 クロワデュノール
スッと好位を確保し、勝負所からポジションを上げる王道の競馬。しかし、坂を上りきるところでやや脚色が鈍り、勝ち馬に差し切られてしまった。
この馬も勝負を分けたのは向正面の攻防。ファウストラーゼンと一緒にマクってきたアロヒアリイが先頭に並びかける直前にやや内へと斜行し(鞍上の横山和生騎手に過怠金3万円)、その影響を受けたドラゴンブーストと接触。ブレーキをかけざるを得なかった。
これが北村友一騎手の心理面に及ぼした影響は小さくなく、このあと迎える勝負所や直線で再びゴチャつくことを懸念したか、早目に進出を開始。ところが、前述のブレーキとここで脚を使ったこと、さらに休み明けも影響したか、最後の最後で脚色が鈍ってしまった。
多くの馬からマークされる立場で、不利を受けても強い競馬をしているのは間違いなく、ダービーでも1番人気に推される可能性は高い。ただ、ダービーは瞬発力が要求される舞台。ノーザンファーム育成馬でそれも杞憂に終わるといいが、大崩れが考えにくい反面、ミュージアムマイルをはじめとするライバルたちにキレ負けする可能性はある。
3着 マスカレードボール
スタートがあまり良くなく、両隣の馬に挟まれて後方に。そこからすぐ挽回を図ったものの、エリキングとの激しい攻防に敗れて外に弾かれ(マスカレードボール鞍上の横山武史騎手に過怠金5万円)、中団より後ろに位置せざるを得なくなった。
それでも、4角13番手という絶望的な位置から直線では素晴らしい末脚を披露。勝ち馬にこそ及ばなかったものの、クロワデュノールにクビ差まで迫り、十分見せ場を作った。
2走前のホープフルSは、あまりにも不利な大外18番枠が響いて大敗を喫するも、それ以外はすべて3着内をキープ。大箱の東京で五分のスタートを切り、父ドゥラメンテ、二代母ビハインドザマスク、母父ディープインパクト譲りの瞬発力が爆発すれば、一気に世代の頂点に立ってもなんら不思議ではない。
レース総評
皐月賞史上初めてCコースを使用して開催がおこなわれたこの週は、非常に良い馬場状態。前日の土曜日時点で3コーナーから直線にかけて内柵沿いに蹄跡があったものの、それ以外は開幕週のような状況で、クッション値も10.3とやや硬めだった。特に、5レースの3歳未勝利戦は、芝1600mで1分32秒0という驚異的なタイム。超がつくほどの高速馬場だったが、日差しが思った以上に届き芝が枯れる可能性もあったため、レース後に散水がおこなわれた。
そして、皐月賞当日もクッション値は10.6とやや硬めで含水率も前日とほぼ同じ。引き続き高速馬場だったが、皐月賞の前におこなわれた3つの芝のレースで1、2枠の連対は0(その後の皐月賞と最終レースも連対なし)。8枠もやや苦戦傾向で、中枠の好走が目立った。
そのようなコンディションでおこなわれた皐月賞は、前半1000m通過が59秒3。高速馬場であることを考えればやや流れは遅く、2ハロン目以外の4ハロンはすべて12秒台だった。ただ、2ハロン目が10秒2と非常に速く、後半1000mもすべて11秒台で57秒7。天皇賞(秋)のようなラスト5ハロンの勝負となり、18頭立てでもさほど隊列は縦長にならなかったため、なおさら先行馬は苦しくなった。
また、4コーナーの位置取りを見ると、18頭中の半分、9着以内に入った馬のうち6頭は4コーナーを10番手以下で回った馬たち。そんな中、2着に惜敗したクロワデュノールは4コーナーを2番手で回っており、最も強い競馬をした一頭といって間違いない。
それでも2着に敗れてしまったのは、向正面の不利と、おそらく休み明けがあまり得意ではないのだろう。現に、5ヶ月の休み明けとなった東京スポーツ杯2歳Sも、勝ったとはいえ新馬戦のパフォーマンスと比較するとやや低調な内容だった。そのため、次走のダービーは上積みが期待できるものの、舞台は極限の瞬発力が要求される東京芝2400m。同じくキタサンブラック産駒で、後に世界最強馬となったイクイノックスでさえ皐月賞とダービーは2着に敗れており、大崩れは考えにくいものの、キレ負けする可能性も十分にある。
一方、勝ったミュージアムマイルはリオンディーズの産駒。2000mの黄菊賞から距離短縮で朝日杯フューチュリティSに臨んだミュージアムマイルと同じく、現役時のリオンディーズもまた、2000mの新馬戦から距離短縮で朝日杯フューチュリティSに出走し、大本命のエアスピネルを差し切って優勝した。
ところが、マイル戦を使ったことでスイッチが入ってしまったのか、シーズン初戦の弥生賞でやや折り合いを欠き2着に敗れると、ハイペースを追走した皐月賞では、早目先頭から失速し5着(4位入線→降着)と連敗。一転、スローとなったダービーは折り合いを欠きながら後方を追走してまたも5着に敗れ、秋にケガのため引退を余儀なくされてしまった。
ただ、ミュージアムマイルやテーオーロイヤルなど、少なくとも重賞で勝ち負けするような産駒に、著しく折り合いを欠く馬、激しすぎる気性の持ち主はさほどみられない。それに加え、ミュージアムマイルは父の最大の武器だった素晴らしい瞬発力と末脚も持ち合わせている。
一方、母方に目を向けると、まず母父はハーツクライで、おそらく2400mは問題なくこなしそう。また、4代母は名牝ハッピートレイルズで、この一族からは、シンコウラブリイ、ロードクロノス、チェッキーノ、ムイトオブリガードなど、両手では足りないほどの重賞ウイナーが誕生。2024年の二冠牝馬チェルヴィニアも、このファミリーの出身である。
そんな名門出身のミュージアムマイルも、ノーザンファームのイヤリング部門から空港牧場に入場した際に歩様が思わしくなく、原因も掴めなかったそう。ただ、焦らず一度イヤリングに戻したことが結果的に吉と出た。

また、牝馬クラシックが「消耗との戦い」であるのに対し、「成長との戦い」になるのが牡馬クラシックの特徴といえる。ミュージアムマイルも、弥生賞ディープインパクト記念は案外な結果に終わってしまったものの、管理する高柳大輔調教師によると、そこからノーザンファームしがらきに放牧に出し、帰厩したときに一気に良くなっていたとのこと。さらに、皐月賞が前走と同じような展開になったこともこの馬にとってはプラスだったのかもしれない。
その前走、弥生賞ディープインパクト記念は、複数の前哨戦の日程が見直された中でも、これまでどおり本番までの間隔は中5週と据え置かれた。ただ、かつて最も重要な前哨戦だった弥生賞ディープインパクト記念組からは、ほぼ毎年1頭が3着内に好走しているものの、近年、皐月賞馬は誕生しておらず、2010年のヴィクトワールピサが最後。今回が、実に15年ぶりの勝利だった。
対して、クロワデュノールのようなホープフルSからの直行組は、同レースが重賞に昇格して以降[2-1-0-4/7]。そもそも数が少ないとはいえ、コントレイルとサートゥルナーリアのイメージが強すぎるせいか、必勝ローテといえるほどでもない。また、ホープフルS勝ち馬で、前哨戦を経由して皐月賞に出走したタイムフライヤーやダノンザキッドは、ともに本番で大敗。絶大な信頼を置けるとまではいえず、ローテーションを重視するのであれば、まずは共同通信杯組だろう。
さて、皐月賞が終わり、クラシック第二弾のダービーまであとおよそ40日となった。そのダービーは、ミュージアムマイルとクロワデュノールが人気を二分するだろう。ただ、今回は出入りの激しい競馬で見ているほうとしては面白かった反面、3名の騎手が過怠金を課されるなど、不利を受けた馬も相当数いた。図式としては二強対決でも、この世代でずば抜けた馬はまだいない。
さらに、アルアインやディーマジェスティ、ジャスティンミラノなど、早いタイムで皐月賞を勝った馬は、ダービーを勝てないというジンクスも存在する。しかも、2025年は青葉賞が1週前倒しで開催されるため、同レースから史上初のダービー馬が誕生してもなんら不思議ではなく、まだまだこの先も楽しみは続いていきそうだ。

写真:s1nihs