3歳のマイル王決定戦「NHKマイルカップ」。

過去にはエルコンドルパサーやクロフネ、キングカメハメハといった日本競馬史に名を残す名馬が、このレースを勝っている。
このレースでは、多くの「G1初制覇」が見られる。近年でも藤岡康太騎手や秋山真一郎騎手、藤岡佑介騎手らがここでG1初制覇を達成。
今回の物語の主役である柴田大知騎手もまた、2013年のNHKマイルカップでG1初制覇を達成している。

苦節17年でのG1制覇は、多くの感動を競馬ファンに巻き起こした。

1996年にデビューした柴田大知騎手はいわゆる花の12期生の一人であり、弟の未崎騎手と合わせて「初の双子騎手」として注目を浴びていた。
デビュー年は27勝、翌年は29勝と勝ち星を積み上げ、2年目ながら早くも重賞制覇を成し遂げるなど順調なステップアップを見せていた。

しかしこの後、柴田大地騎手はスランプに陥る。
3年目は11勝と、前年度から勝ち星が半減。
8年目以降は勝ち星が一桁台の年が続き、1勝も挙げられなかった年もあった。
レースが開催されている土日でも、トレセンに残って調教をつける日々が増えてゆく。周囲からは、調教助手への転身を勧める声も聞こえてきたそうだ。

しかし結果が出ない中でも騎手を続けたい一心で必死に厩舎を駆け回り、障害レースへの挑戦など、試行錯誤を繰り返す日々を過ごした。
そんな中、今や柴田騎手の代名詞とも言えるあの勝負服と出会った。

「赤、緑袖赤一本輪」のマイネル軍団である。

2011年にはマイネルネオスでJ-G1を初制覇。2012年にはJ-G1を含む重賞2勝を挙げ、勝ち星も41勝とキャリアハイの成績を残した。
G1レースの騎乗機会も増えていく中、2013年のNHKマイルカップに、マイネルホウオウと共に挑んだのだ。

ゴールデンウィーク最終日の東京競馬場。
五月晴れの中、NHKマイルカップが行われた。

人気はトライアル上位組を中心に集まり、マイネルホウオウは10番人気という評価だった。
15時40分、ゲートが開く。スタートが切られると、人気馬がすんなりと前へとりついた。

ハナを切ったのはコパノリチャード。
番手にガイヤーズヴェルトとエーシントップ。
マイネルホウオウは16番手という後方追走を選択した。

緩みないペースのまま迎えた直線。
レースを引っ張った黄色い帽子の2頭が粘る。
マイネルホウオウは最後方から、スパートを開始した。

残り200を切って、ようやく先行勢の脚に陰りが見えた。
直線の半ばから急追するマイネルホウオウ。残り100mで先行勢を飲み込み、ゴール前、ついに並走するインパルスヒーローを競り落とした。

その瞬間馬上で大きく雄叫びを上げ、こぶしを大空に突き上げた。悲願のG1制覇は、辛い時期に救ってくれた勝負服での制覇であった。

そしてレース後のインタビュー……そこには、目を光らせた柴田大知騎手がいた。念願のG1制覇に、涙が止まらないようだった。それは、苦節17年の騎手生活が実った瞬間であもある。

辛い時期だからこそ努力を重ねた苦労人の姿を、競馬の神様は見ていてくれたのだろう。
1人のホースマンが夢を掴んだ瞬間に、東京競馬場は感動の渦に包まれていた。

写真:Horse Memorys

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