[Rewind the race]名優之舞~2015年・アルゼンチン共和国杯~

天皇賞秋が終わり、東京開催の一区切りがつく11月の初週。
この週に設けられているのが、ハンデ長距離重賞アルゼンチン共和国杯だ。近年ではここをステップにG1を戦う馬も多く、さらにシュヴァルグランやスワーヴリチャードなどG1レースを制覇する馬も輩出している。
そんな伝統あるハンデ重賞の歴史の中で、今回はこのレースを舞台に急激に飛躍した1頭の「名優」にフォーカスを当てる。

2015年のアルゼンチン共和国杯で1番人気に支持されたのは2連勝で重賞初勝利を狙うゴールドアクターであった。スクリーンヒーローの血を受け継ぐこの馬は、その父を彷彿とさせる「アクター」の名がついていた。
この年はモーリスがマイルG1を席捲した年でもあり、このスクリーンヒーローの血が注目された1年でもあった。一方、モーリスに負けじとゴールドアクターも菊花賞で3着に入るなど能力の片鱗は見せていた。
その馬が条件戦を連勝してきたのだから、人気になるのは当然だろう。さらに鞍上の吉田隼人騎手とのコンビでは3着を外したことが無いという安定感ぶりも、この馬の特徴だった。
東京競馬場の多くのファンの下で初重賞制覇が期待された。

雨模様で重馬場の、東京競馬場。
レースの開演、ゲートオープン。

ゲートで立ち上がったフラガラッハが後方からになったが、それ以外はまずまずのスタートだった。
長距離らしいじわっとゆっくり流れる先行争いは出ムチをふるったスズカデヴィアスがハナを獲る。外からはメイショウカドマツが迫り、内スーパームーンと並んで2番手に浮上。

──そして1コーナーをカーブするころには、ゴールドアクターも早め4番手につけていた。

そこにマイネルフロストが加わって少し先行勢が引き離した展開になった。広い東京競馬場を目いっぱい使った1戦。まさに淡々とレースが進行していく。18頭がそれほど縦長にならないまま4コーナー。逃げるスズカデヴィアスにメイショウカドマツが並んで直線へ入る。
残り400m地点でメイショウカドマツが先頭に立つ。
1馬身のリード。
馬場の2分どころではスズカデヴィアスが粘り込みを図り、ゴールドアクターはメイショウカドマツの外に進路を求めた。

残り200m。
メイショウカドマツとゴールドアクターの7枠2頭が完全に抜け出しての一騎打ち。
粘るメイショウカドマツに迫るゴールドアクター。

徐々に差が縮まり、内外離れて2頭が並んだところがゴール。
態勢が微妙ではあったが吉田隼人騎手は笑顔でスタンドを指さした。
確信を持っての勝利だったのだろう。
その差、「ハナ」。
重馬場の中での激闘を制し、ゴールドアクターは重賞初制覇を果たした。  

この後、ゴールドアクターは有馬記念に出走。
その結果は皆さんもご存知の通り、ゴールドシップやキタサンブラックなどを退けて大金星をあげた。
それは、鞍上吉田隼人騎手共々、G1初制覇であった。

しかしながらこのアルゼンチン共和国杯を勝利していなければ、有馬記念には届かなかったかもしれない──そういった意味ではこの前哨戦の価値、そしてこの馬の勝負強さを再認識するレースとなった。
名優が巣立ったこの舞台、思えばスクリーンヒーローもこのレースを勝利してジャパンカップを制覇している。

親子2代でステップとしたアルゼンチン共和国杯。
今年はいったいどんな役者がG1の舞台に名乗り上げるだろうか。

写真:s.taka

あなたにおすすめの記事