2016年春の阪神スプリングジャンプを制した競走馬を覚えているだろうか。天性のスピードと卓越した飛越センスを兼ね備えた、障害競走馬を。

──幾多の障害を飛越し掴んだ、無限の可能性。
澄んだ瞳が見据えるのは、明るい未来だ。

2016年冬に彼は競走馬を引退し、北海道・酪農学園大学で馬術競技馬となった。
その才能に期待をかけられ、賢く穏やかな性格で部員たちの愛情を集めながら。

その競技馬こそ、かつて華麗な飛越でターフを沸かせたスピードジャンパー・サナシオンである。

時は遡り、2016年・秋陽ジャンプS。

サナシオンは悠々ひとり旅での逃げ切り勝ちを収めた。ファンはその強さに魅入られ、今後の可能性を口々に語った。彼の未来は希望に満ちていた。
しかしレースの興奮醒めやらぬ、その2週間後……12月2日。目を疑うようなニュースが報じられる。

「サナシオン引退。屈腱炎が判明」

彼の競走馬としての未来は、幾多の名馬を引退に追いやった病に奪われたのだ。それはスピードの代償でもある。
「もっと見ていたかった……」そんなファンの声をよそに、サナシオンはターフを後にした。
しかしこの時、一体どれほどのファンが予測し得ただろうか。

引退の悲しみ以上に、彼が沢山の喜びや希望をその後与えてくれる事を。

2017年4月。

サナシオンは乗馬としてのセンスを買われ、酪農学園大学の馬術部へ入厩した。
酪農学園大学は、こと障害馬術・総合馬術に強い馬術の強豪校だ。北日本大会入賞者や全日本大会出場者を毎年のように輩出している。

また、馬匹のきめ細かい管理にも定評がある。所属馬のファンも、「酪農さんなら」と安心して見守る事ができるだろう。

とても賢く、身体能力が高い。
そして、上達が速い……部員たちはサナシオンに、高いポテンシャルを感じていた。

「いずれは北日本大会、全日本大会」
「出るからには入賞を」

そのような言葉が出るほどに。

「これでもサナシオンのペースに合わせて、じっくり調教しているんです──ただ、もしかしたらの話ですが、7月の大会に出すかもしれません」

と、一人の部員が口にした。

4月に入厩したばかりである。
「まさか3ヶ月で……」
というのが、私の本音であった。

そのような中で迎えた2017年7月、北海道体育大会。
「サナシオン、馬術大会デビュー」
の一報が、瞬く間に広まった。

ノーザンホースパークの競技馬場を華麗に駈け、サナシオンは再びファンの注目を集めた。
鬣と尾毛を美しく結い、RGU (酪農学園大学) と刺繍されたゼッケンを着けた彼は、馬術競技馬として華々しいデビューを飾ったのだ。

彼の持つセンスと、部員による調教の賜物である。
「こんなに短期間で大会に出るなんて、さすがサナシオンだね」
ファンの間でそんな言葉が飛び交う中、更なるサプライズが飛び込んでくる。

なんと2日間ともに、馬場馬術競技(A2課目)での入賞を果たしたというのだ。

恐るべし馬術競技馬・サナシオンの誕生である。

熱心なファンたちは、サナシオンに会うべく北海道を訪れた。
「サナシオン」は「癒し」を意味するスペイン語である。
名前通りの穏やかさに癒されたファンたちは、彼の素顔に魅了されてしまうようだ。

そして2017年10月。
酪農学園大学と北海道大学の交流試合である、山下杯・河田杯記念馬術大会が行われた。

彼の競走馬時代──障害レースで華麗な飛越を誇っていた名障害馬時代──を知るファンには、障害馬術での活躍を期待する人も多かった。

そしてサナシオンはその期待に応える。
2年生部門での80cm障害飛越で、見事、優勝を果たしたのだ。
彼は競技馬として、日々成長を遂げている。

100cm障害飛越競技への出場。
そしていつかは、北日本大会や全日本大会の総合馬術・障害馬術へ……夢の続きは無限に広がっている。

はやる気持ちは抑えきれないものの、馬術にかかる時間は年単位。
私たちはこれからもサナシオンを見守っていくしかない。

きっと「サナシオンを応援していて良かった」と思う日が、これから何度も訪れるに違いない。
かつてターフを賑わせた天才スピードジャンパーは今、豊かな自然に囲まれた地で、馬術部部員の愛情を受けながら充実した日々を送っている。

彼の瞳が見据える先はきっと、明るい未来だ。

更なる高みへ向かって翔べ!サナシオン!

サナシオンへ会いたい皆様へ

サナシオン号に会いに行く際は事前に馬術部へ連絡し、構内では部員の指示に従いマナーを守りましょう。
写真や近況のSNSへの掲載も、事前に部員の許可をとるようにお願い致します。

末筆ながら

酪農学園大学馬術部の皆様、記事執筆・掲載のご許可ありがとうございました。
サナシオン号ならびに酪農学園大学の益々の飛躍を、心よりお祈り申し上げます。

写真:酪農学園大学馬術部の皆さま

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