4月から5月にかけての新緑の季節に行われるビッグレース「天皇賞春」。
格式高いこのレースの最大の特徴は、このレースでしか使用されない京都競馬場芝3200mで行われるという点である。
超長距離戦ではあるが、スタミナだけでは勝つことが出来ない。だからこそこのレースを勝った馬は名馬として名を残すのである。
2009年に生を受けたフェノーメノも、このレースの勝ち馬である。
この馬は逸材が揃った2009年生まれの世代でも、非常に能力が高い馬だった。3歳のころから大きなレースで活躍し、また古馬との対戦でも引けを取らない走りを披露。
年が明けるとさらに才能は開花する。
日経賞を勝って臨んだ天皇賞春で、ゴールドシップなどの強豪を退け優勝。
初めてのG1タイトルを獲得した。
いつしか一部では「漆黒の怪物」と呼ばれるようになっていた。
そうして彼は、スターホースの仲間入りを果たした。
しかし順風満帆な競走馬人生にも少し陰りが見え始めた。
G1連勝を狙った宝塚記念では4着に敗れる。
巻き返しを図った秋だったが、脚部不安で大事をとって全休──天皇賞春秋制覇の夢は、絶たれてしまった。
年が明けて5歳。
復帰戦に選んだのは、前年同様に日経賞だった。
陣営は目標を天皇賞春連覇にスイッチした。
フェノーメノにとって初めての長期休養明けのレースだったとはいえ、連覇を目指すうえでは負けられないレース。陣営も調整のピッチを上げてこのレースに臨んだ。
当日の馬体重は宝塚記念に比べ8キロ減。
パドックではややイライラした面も見せていた。
そして結果は5着となり、勝利はおろか……馬券圏内からも外れる結果となった。
物足りなさを感じた内容で、不安を抱えたまま天皇賞春へと向かうこととなった。
2014年5月4日の京都競馬場。
第149回天皇賞春が行われる当日である。
世間はゴールデンウィークの真っただ中ということもあって、競馬場内は多くの人であふれていた。
多くの観衆が期待を寄せた1番人気は、前年のダービー馬キズナ。
それにゴールドシップ、ウインバリアシオンが続き、フェノーメノは4番人気だった。
近走の内容から見ると妥当な人気であろう。
しかしこの日のフェノーメノは非常に落ち着いていた。馬体重も日経賞から10キロ戻り、イライラした面もあまり見せなかった。
15時40分。
ゲートが開いたと同時に、場内が騒然とする。
2番人気のゴールドシップが大きく出遅れてしまったのだ。
波乱のスタートとなった一方で、フェノーメノは好スタートを切り先団につけた。
ハナを奪ったのはサトノノブレス。
次いでアスカクリチャン、ヒットザターゲットと続き、フェノーメノは7、8番手辺りで追走した。
人気どころの馬はというと、キズナが17番手、ゴールドシップが最後方追走となり、こぞって後方追走となった。
2度目の坂越えから、4コーナー。
この辺りから後方を追走していた馬が一気に進出し一団で直線に入った。
フェノーメノは5番手の位置から馬場の3分どころを選択して追い込みを開始。
蛯名正義騎手のムチがうなる。
徐々に加速し始め、同列にいたウインバリアシオンと共に、先頭のサトノノブレスを飲み込んだ。
そして残り100mで先頭に立つとそこからは粘り脚を繰り出し、ウインバリアシオンやホッコーブレーヴの追撃を封じ込み、淀のゴール板を先頭で駆け抜けた。
史上3頭目の、天皇賞春連覇達成となった。
自らの得意なコースで見事な復活を遂げたフェノーメノ。
ある意味「原点」に立ち返っての復活勝利であろう。
自身7勝目となるこの1勝は、この馬の能力をさらに輝かせる勝利となった。
写真:Horse Memorys