[種牡馬・血統紹介]魔法の豪脚を持つ良血馬、サトノアラジン

数多くの名馬を輩出し、有名な「ニックス」となった「ディープインパクト×ストームキャット」の配合。
ダービー馬を出し、オークス馬を出し、香港やフランス、ドバイのG1馬を出したこの配合から誕生した、一頭の名マイラーがいる。

キャリアを重ねること、29戦。
そのうち重賞3賞を含む8勝。
勝ったレースはいずれも上がり3F最速or2位という、豪脚の持ち主。

サトノアラジンである。

クラシック候補として期待されながらも春のクラシック戦は惜しくも出走が叶わず、着々と磨き上げたその末脚は、古馬となって大舞台で爆発的な威力を発揮する事となった。

そんな彼の競走馬時代、そして種牡馬としての期待を記していきたい。

サトノアラジン
- 2011年産まれ

血統的な背景

父は日本の揺るぎないチャンピオンサイアーであるディープインパクト。
母マジックストームはサトノアラジンの全姉であるラキシス(エリザベス女王杯馬)を出している名繁殖で、全弟のサトノケンシロウと全妹のフローレスマジックはJRAで4勝を上げている。

そして、母の父はディープインパクトとの好相性で名高いストームキャット。
母母の父は同じくディープインパクトとの配合で相性の良いファピアノである。

サトノアラジンは紛れもなく良血馬であった。

もちろん陣営の期待も高く、ファンからも絶対的な支持を集める事となった。

現役時代

関西の名門、池江泰寿厩舎に入厩したサトノアラジンは、2013年8月10日、新潟競馬場の2歳新馬戦(芝1600m)でデビューした。そしてこのレースを単勝1.5倍の圧倒的人気に応え、3馬身半差で圧勝。
早くも初戦で、その身に宿した血への期待に応える走りを見せた。

早期に勝ち上がったサトノアラジンは、クラシック路線を意識し2戦目で東京スポーツ杯2歳S(G3 芝1800m)に出走。ここでも1.8倍という断然の人気を集めたものの、展開に泣き、上がり2位の脚で追い込むがイスラボニータの5着に敗れてしまう。

次走のラジオNIKKEI杯2歳S(G3 芝2000m)では3着となり、3戦1勝で2歳シーズンを終えた。

3歳初戦は出世レース、共同通信杯(G3 芝1800m)に出走。
このレースでは前目の位置取りで競馬を進めたが、末脚不発の3着に敗れてしまう。
ここでも、勝ったのはイスラボニータであった。

続くゆきやなぎ賞(芝2400m)は500万下の自己条件での1戦で、1.2倍の断然な支持を集めたものの、惜しくも2着。皐月賞へもダービーへも出走が叶わなくなったサトノアラジンは、その後条件戦を2連勝し神戸新聞杯で4着に入線する。

抽選で出走が叶った最後の一冠菊花賞のレースでは、結果的には距離が合わないレースであった。そこで、6着という悔しい結果に終わってしまう。

クラシックが終わり、自己条件から再スタートしたサトノアラジンは、古馬となってマイル路線でその秘めていた豪脚を発揮し始めた。1600万下の条件戦を2着→1着→1着と3戦連続で上がり最速の末脚で勢いをつけると、久々の重賞挑戦となったエプソムカップ(G3 芝1800m)では、後に毎日王冠や、香港・フランスのG1を制するエイシンヒカリの2着に入線。

続く富士S(G3 芝1600m)でも2歳王者ダノンプラチナの2着と惜敗したものの、実力派のロゴタイプに先着するなど。確実に地力強化の兆しが見えてきていた。

4歳シーズンはその後マイルチャンピオンシップ(G1 芝1600m)で4着。香港遠征では11着と大敗を喫してしまったものの、確かな手応えを掴んで5歳シーズンを迎えることとなった。

5歳シーズンの幕開けは、ダービー卿チャレンジトロフィー(G3 芝1600m)の舞台。決して得意ではない小回りの舞台でも、僅差の3着となった。

そして迎えた得意舞台東京の、京王杯スプリングカップ(G2 芝1400m)。
後に頂点を共にする事となる相棒、川田将雅に乗り代わりとなった。直線、ほとんど最後方の位置から凄まじい勢いで上がって来ると、上がり3Fを32.4秒という鬼脚で先頭に立ち──実に11戦目となるこのレースで、重賞挑戦であった念願の重賞初制覇を成し遂げた。

その後は安田記念(G1 芝1600m)で4着。秋のスワンS(G2 芝1400m)では勝利し、2つ目の重賞タイトルを手にした。しかしマイルチャンピオンシップでは1番人気におされながらも5着、再び香港遠征となった香港マイル(G1 芝1600m)では7着と、G1タイトルにはなかなか手が届かなかった。

もはや多くの競馬ファンや陣営……そしておそらくサトノアラジン自身も「サトノアラジンはG1タイトルを取るべき存在である」という認識になっていたのではないだろうか。

そして、6歳シーズン。
昨年制した京王杯スプリングカップの舞台に駒を進めたが、不運にも雨により悪化した馬場に末脚を封じられたサトノアラジンは、このレースでまさかの9着に敗れてしまう。

──迎えた安田記念。
前走の大敗で評価を急落させたサトノアラジンの人気は、9番人気(単勝12.4倍)という実力と乖離したオッズとなっていた。単勝1番人気は、かつてクラシックの前哨戦で後塵を拝したイスラボニータである。

そのシチュエーションが、サトノアラジンのプライドに火をつけたのかもしれない。

昨年制した京王杯スプリングカップの時のように──いや、それ以上に後ろの位置から大外に持ち出されたサトノアラジンは、魔法にかけられたような豪脚で他馬を追い越していく。
馬群でもがくイスラボニータをあっという間に置き去りにし、最内に進路を取っていた先頭のロゴタイプに凄まじい勢いで迫る。栄光のゴール板は、ロゴタイプを交わした瞬間に現れた。

ついにサトノアラジンはG1のタイトルを手中に収め、現役最強マイラーの座に輝くこととなったのだ。

種牡馬としてのサトノアラジン

前述のように、近年の日本競馬において揺るぎないリーディングサイアーの座を手にした父と、その父とのニックス関係にある一流の配合によって産み出されたサトノアラジン。

いわゆる"流行"血統を持つが故の苦しい戦いが、サイアーとしての彼には待っている。
まず壁になるのは、やはり同じニックスを持つダービー馬、キズナだろう。
2年先に産駒を送り出しているキズナは、既にJRA重賞勝ち馬を6頭輩出(累計重賞9勝)。

G1勝ちこそ無いものの、2着入線の実績はあり、古馬となったディープボンドも有力な1頭として注目されている。重賞勝ちも1200mから3000mまで幅広く、牡馬も牝馬も活躍馬が出ているところを見ると、種牡馬としての「幅の広さ」も兼ね備えていて、強力なライバルとなるであろう。

また同じくエイシンヒカリもサトノアラジンの前年から種牡馬入り。すでに重賞で掲示板入りする産駒も登場している。こちらも現役時代のポテンシャルと実績を考えると、強力なライバルになってくると考えられる。

かつて、祖父サンデーサイレンスが日本競馬にもたらした絶対的な繁栄と、それによって生じた「血の飽和」の現象。その偉大さを受け継いだ父ディープインパクトの血は、再び日本競馬に大きな痕跡を遺した。

父の血に、そしてそれを受け継いだ産駒達との生存競走に打ち勝てるか。

サトノアラジンの豪脚を受け継ぐ子供達に、多くの競馬ファンの夢が託されている。

写真:Horse Memorys

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