[重賞回顧]人気馬から世代最強馬、そして最強馬へ~2021年・桜花賞~

時期的なものもあるだろうが、牝馬クラシック第一弾の桜花賞は、JRAで行われるGⅠの中で"最も華やかなレース"といえるのではないだろうか。かつては、八大競走の一つにも数えられた伝統あるレースで、オールドファンにとっては、桜花賞がGⅠの開幕戦だった。

今年は、阪神ジュベナイルフィリーズの1、2着馬が前哨戦に出走せず本番に直行。それにより、混戦の度合いはいっそう増したが、それでも、その2頭が上位人気に推されることとなった。

最終的に、僅差の1番人気となったのはサトノレイナス。前走は、阪神ジュベナイルフィリーズで2着に惜敗したものの、その差はわずか7センチ。ディープインパクト産駒らしい瞬発力を生かして、今度こそ阪神競馬場の長い直線で突き抜け、GⅠ制覇なるかに注目が集まった。

2番人気は、阪神ジュベナイルフィリーズを勝ったソダシ。白毛馬として、世界初のGⅠ馬となったが、話題性だけでなくレース内容も堅実。そもそも、ここまで4戦全勝で負けておらず、重賞3勝と実績面でも抜けている存在である。先行抜け出しの安定したレース運びとセンスの良さ、折り合いに不安がないことが持ち味で、勝負強さも兼ね備えていることが大きな武器だった。

上位2頭からやや離れた3番人気に推されたのはメイケイエール。こちらも、ここまで重賞3勝で、敗れたのは2走前の阪神ジュベナイルフィリーズのみ。前哨戦のチューリップ賞では再び折り合いを欠き、普通であればスタミナ切れを起こして惨敗するところを粘りきり、1着同着にまで持ち込んだ。今回は武豊騎手が負傷のため、乗り替わった“策士”の横山典弘騎手が新しい一面を出すかという点にも、大きな注目が集まった。

最終的に、単勝オッズ10倍を切ったのはこの3頭。以下、アカイトリノムスメ、アールドヴィーヴル、エリザベスタワー、ソングライン、ファインルージュの順で人気が続いた。

レース概況

ゲートが開くと、メイケイエールが出遅れ、サトノレイナスもダッシュがつかず、後方からの競馬となった。

対照的に、ダッシュ良く飛び出したのはストゥーティとソダシ。そのままソダシが先頭を譲り、ストゥーティがハナを切った。2番手にソダシとジネストラが並び、2頭の真ん中にアカイトリノムスメがつっこむような形に。

アールドヴィーヴルやエリザベスタワー、ファインルージュなど、サトノレイナス以外の上位人気馬はすべてここに加わって10頭ほどが集団を形成し、大きな集団となった。

そこで先行争いは決着したと思われたが、2ハロン目を過ぎるあたりから、出遅れたメイケイエールが集団に顔を出しはじめる。これまでと同様に、馬の間をこじ開けるようにして前へといきたがり、集団の外からどんどんとポジションを上げ、3ハロンを通過したところで先頭に立った。その3ハロンの通過タイムは34秒1で、この日の馬場を考えれば、平均よりもやや遅い流れ。

先頭に立ったメイケイエールは、後続に2馬身のリードを取ったことで満足したのか、そこで折り合ったが、その後もペースを落とさず逃げ続ける。その結果、800m通過は45秒2、1000m通過も56秒8と、今度は平均より少し速いペースとなった。

勝負どころの4コーナーでも隊列に大きな変化はなく、先頭から最後方まではおよそ15馬身の差。長い直線を考慮されてか、サトノレイナスは後ろから3番手のまま、レースは最後の直線へと入った。

迎えた直線。メイケイエールを交わして先頭に立ったのはストゥーティで、1馬身半のリードを取るも、ソダシがそれを追い、残り300mの地点で先頭へと入れ替わった。さらに、坂下でリードを広げて、後続との差は2馬身半となり、一気に押し切りを図る。

一方、追ってきたのは、ファインルージュ、アカイトリノムスメ、サトノレイナスの3頭で、中でもサトノレイナスの末脚が目立っていた。

しかし、ソダシの末脚はなかなか衰えない。

残り100mを切ってから差は詰まったものの、最後まで粘りとおして1着でゴールイン。クビ差の2着にサトノレイナス、3着にファインルージュが入り、以下、アカイトリノムスメ、アールドヴィーヴルの順で入線。この5頭に、オークスへの優先出走権が与えられた。

良馬場の勝ちタイムは1分31秒1で、従来のレースレコードを1秒6、コースレコードを0秒8も更新する圧巻のタイム。休み明けをものともしなかったソダシが、無敗で桜の女王に輝いた。

各馬短評

1着 ソダシ

走る度に、白毛馬にまつわる記録が更新されていく。
しかし、アパパネ以来11年ぶりとなる阪神ジュベナイルフィリーズとのダブル制覇や、中118日での最長間隔勝利、史上8頭目の無敗の桜花賞制覇、チアズグレイス以来21年ぶりとなる函館デビュー馬による勝利、25年ぶりとなる2枠に入った馬の連対(勝利)、そしてとてつもないレコードタイムなどなど……白毛であることに限らず、3歳春までのパフォーマンスは、牡馬を含めた過去のどんな名馬にも引けを取らない。このまま歴史的名馬になる可能性も、十分にあるだろう。

騎乗した吉田隼人騎手も、レース後のインタビューで「話題だけで本当に強いのかと見られていたので、なんとか見返してやろうという気持ちで(乗った)、実力もつけてくれて、思っている以上に成長してくれている」と語ったように、間違いなく、実力がないとできないようなパフォーマンスだった。

オークスに向けては、大幅な距離延長やダメージからの回復、激走の反動が課題となるが、とにかく、先行してソツのないレース運びができることが最大の持ち味。伝説は続きそうだ。

2着 サトノレイナス

本来、桜花賞は外枠有利、内枠不利のレース。2枠の勝利は、今回が25年ぶりとなる。

1枠の連対は、近年では2018年のラッキーライラック(2着)のみで、その前は1994年のオグリローマンまで遡らなければならないほど。そのため、例年であれば、8枠からのスタートは有利となるはずだった。ところが、今年に限っては超高速馬場となり、物理的に、最短距離を通れる内枠が有利になってしまった。

そんな条件でも、僅差の2着に追い込んだ実力は相当なもので、レース後に「エンジンの掛かりを見ても、マイルは忙しい」とルメール騎手がコメントしたように、オークスではいっそうの期待がかかる。

3着 ファインルージュ

1、2着馬は、阪神ジュベナイルフィリーズ以来のレースとなったが、フェアリーステークス以来の出走で上位入着というこの馬の結果も、これまでにはなかったこと。来年以降、桜花賞に出走する関東馬のローテーションに、新たな一石を投じたかもしれない。

速い流れを先行してもなお上がり3位の末脚を使っている上に、まだこれがキャリア4戦目。
今後も楽しみな存在といえる。

レース総評

前半の800mが45秒2に対して、後半の800mが45秒9と、ペースがほとんど落ちなかったことにより、"超"のつくレコードタイムが記録されるレベルの高いレースとなった。

それを3番手から押し切ったソダシ。そして逆に不利となった外枠でも、僅差の2着に追い込んだサトノレイナス。この2頭は、相当に強い。

筆者自身は、この高速馬場で強さを発揮するのは、ディープインパクト産駒か、もしくはダンチヒの血を持つエリザベスタワー、メイケイエールだと思っていたが、ソダシの父クロフネは、牝馬のスプリントチャンピオンを2頭も出している種牡馬。このスピード決着を制したことに納得がいった。

また、様々なところで話題になっているが、血を遺すという点で、ソダシやアカイトリノムスメ、そしてそれら二頭の父や母、母の父や母の母にいたるまで、すべて金子真人オーナーが所有している馬達である。ここまで血を繋ぎ、なおかつ、次の世代でもGⅠを勝つのは、ゲームの世界ですら難しい。

日本で生産されたサラブレッドの大半にサンデーサイレンスの血が入っているように、近い将来、日本で生産されたサラブレッドの大半に、金子オーナーが所有していた馬達の血が入っていることだろう。

ソダシも、その伝説の系譜を受け継ぐ、大きな存在になっていくことは間違いない。そして、若い牝馬にこんな大きな期待をかけるのはしのびないが、ソダシの存在や、サトノレイナスとのライバル関係によって、競馬がよりいっそう多くの人々に知られるようになればと思っている。

写真:バン太

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