[重賞回顧]良血の外国産馬エトヴプレが一気の逃げ切りで後続を完封!~2024年・フィリーズレビュー~

関西でおこなわれる桜花賞トライアルのチューリップ賞とフィリーズレビュー。阪神競馬場でおこなわれる以外にも、3着までに桜花賞の優先出走権が与えられることや、GⅡに格付けされていることなど、これら2つのレースには複数の共通点がある。

一方、距離は1600mに対して1400m、外回りと内回りの違いなど、大きく異なる点もあり、同じ桜花賞トライアルでも別物のレースといっていいのではないだろうか。

また、年末の阪神ジュベナイルフィリーズで3着内に好走した馬がシーズン初戦に選ぶのは、同じコースでおこなわれるチューリップ賞のほうが圧倒的に多い。必然的にレースレベルはこちらのほうが高くなりやすく、条件戦から臨む馬が優先出走権を獲得しやすいフィリーズレビューは出走頭数も多くなる。

ところが近年、2歳GⅠで好走後、桜花賞でシーズン初戦を迎える、もしくは1、2月の重賞から桜花賞に向かう「直行組」の数が、大幅に増加した。そのため、トライアルは以前よりも混戦となり、チューリップ賞に出走する馬も増加。2024年も、例年どおり阪神ジュベナイルフィリーズの1、2着馬が桜花賞に直行することを表明したため、2000年以降では初めてチューリップ賞の出走頭数がフィリーズレビューのそれを上回った(レース名が報知杯4歳牝馬特別だった時代を含む)。

それら2頭に対して、阪神ジュベナイルフィリーズの3着馬コラソンビートは、フィリーズレビューから始動することを表明。2歳GⅠの3着内馬がフィリーズレビューに出走するのはアイムユアーズ(2011年の阪神ジュベナイルフィリーズで2着)以来12年ぶりで、実績は断然。最終的に、オッズ2倍を切る圧倒的1番人気に推された。

6月1週目の新馬戦でデビューし、3着と惜敗したコラソンビート。このレースの1~4着馬は、すべて後に重賞で連対する(6着キャットファイトもアネモネSを勝利)という超ハイレベルの一戦で、2戦目で初勝利をあげたコラソンビートも、その後ダリア賞、京王杯2歳Sと3連勝を達成した。

続く阪神ジュベナイルフィリーズで連勝は止まったものの、勝ち馬とは0秒2差の接戦。今回のメンバーで実績は抜きん出ており、前哨戦とはいえ内容も問われる一戦だった。

離れた2番人気に推されたのがバウンシーステップ。当レースに出走するシカゴスティングやロゼフレアと対戦を重ねるなど、ここまで5戦2勝のバウンシーステップは、2走前のりんどう賞でも、後のチューリップ賞2着馬セキトバイーストと接戦を演じた。

また、前走のつわぶき賞は差し馬向きのペースではなかったものの、中団に待機策から直線半ばで早くも先頭。結果、2着に2馬身半差をつける完勝だった。

このレースと相性の良いモーリス産駒で、母もフローラS勝ちのバウンシーチューンという良血。桜花賞出走のためには3着内に入ることがほぼ必須で、同時に母娘重賞制覇も懸かる一戦だった。

そして、3番人気となったのがシカゴスティング。デビューから2戦連続でバウンシーステップに先着した本馬は、2戦目の未勝利戦とフェニックス賞を連勝。休み明けのファンタジーSは3着に敗れるも、勝ち馬から0秒1差の接戦で、逃げた阪神ジュベナイルフィリーズでも5着と好走した。

これまでの実績から距離短縮は歓迎材料。鮫島克駿騎手とのコンビ継続も叶い、重賞初制覇と出走権獲得が懸かる一戦だった。

レース概況

ゲートが開くと、バウンシーステップとレディマリオンが出遅れ。躓くようにゲートを出たドナベティも後方からの競馬を余儀なくされた。

一方、前はジューンブレアがわずかに好スタート。そのまま逃げるかと思われたが、これを内からシカゴスティングが交わし、さらに内から押し出されるような格好で前に出たエトヴプレが最終的にハナを切った。

その後ろの3番手は、コラソンビート、カルチャーデイ、オアシスドールの3頭が併走。ジューンブレアを挟んだ中団も、バウンシーステップなど4頭が併走して一団となり、ポエットリーをはじめとする後方4頭も半馬身間隔で続いていた。

600m通過は33秒8とやや速めのペースで、先頭から最後方のオメガウインクまでは10馬身ほどの差。全14頭はほぼ一団となって進み、その後3、4コーナー中間でジューンブレアが2番手まで上昇。後方各馬もスパートしたことで14頭はさらに凝縮し、7馬身ほどの圏内に固まる中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、エトヴプレが後続を突き放しにかかり、リードは1馬身半。コラソンビートが前を追い、バウンシーステップ、セシリエプラージュ、ロゼフレアらが続くも、コラソンビートとの差は2馬身。前2頭と脚色もほぼ同じで、残り100mからはエトヴプレとコラソンビートの一騎打ちとなった。

最終的に、この争いを制したのはエトヴプレ。ゴール前で再び加速するとコラソンビートは並びかけることができず、そのまま押し切って1着でゴールイン。3/4馬身差2着にコラソンビートが入り、1馬身1/2差3着にセシリエプラージュが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分20秒1。逃げ切ったエトヴプレが外国産馬として初めてフィリーズレビューを勝利し重賞初制覇。コラソンビート、セシリエプラージュらとともに桜花賞の切符を獲得した。

各馬短評

1着 エトヴプレ

スタート後しばらくして押し出されるような形で先頭。ハイペースのわりに馬群が固まり、差し、追込み勢が台頭しやすい展開のようにも思われたが、坂を駆け上ってからもう一脚使って後続を完封。着差以上に楽な逃げ切りだった。

騎乗した藤岡佑介騎手はレース後「やってみないと分からないが、1400mがギリギリ」と、コメント。また、その父で管理する藤岡健一調教師も、レース前に「最初からここ勝負のつもりでいた」と、コメントしていた。

その言葉どおり、桜花賞はさすがに厳しいレースとなりそうだが、葵Sや夏の函館スプリントSなど、1400m以下のレースに出走してきた際は常に警戒したい。

2着 コラソンビート

この馬もまたベストは1400m。より距離適性のある勝ち馬に押し切られる格好となったが、前哨戦としては上々の内容だった。

阪神ジュベナイルフィリーズではあと1ハロンのところで脚色が鈍っており、残り1ヶ月弱でその壁を超えられるか。唯一にして最大の課題となる。

3着 セシリエプラージュ

中団以下に控えていた馬では最先着。直線でしぶとく末脚を伸ばしてバウンシーステップとの3着争いを制し、本番への切符を獲得した。

母アットザシーサイドも2016年の当レースで2着と好走し、そこから桜花賞に出走して3着。また、アットザシーサイドや、その母ルミナスハーバー。3代母タックスヘイブンは、いずれも2歳時に2勝して阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神3歳牝馬S)に出走するなど、このファミリーは早期から活躍するのが特徴。

おそらく桜花賞でも人気にはならないはずで、勝つまではどうかも、2、3着に激走して波乱を演出する可能性は十分にある。

レース総評

600m通過は33秒8で、11秒2を挟み、同後半35秒1=1分20秒1。やや前傾ラップではあったものの、最後の1ハロンも12秒0と大きくは失速しておらず、着差以上に強いエトヴプレの逃げ切りだった。

また、勝ちタイムもレース史上2位と決して悪くなく、この2日間は枠順、脚質ともフラット。コラソンビートは抜けた実力の持ち主だったが、2番手に位置していた3頭はいずれも下位に沈んでおり、11番人気での激走とはいえ、決してバカにできない勝利だったといえる。

また、フィリーズレビューにおいて、前走から距離延長となる組は、短縮組に対して圧倒的に劣勢。出走数はそこまで多くないものの、2009年から2018年までの10年間、3着内馬は1頭もいなかった。

ところが、2021年のレースで3着に激走したミニーアイルを皮切りに、2023年3着のジューンオレンジ、そして今回のエトヴプレと、まだまだ劣勢ではあるものの以前より盛り返している。

しかも、これら3頭は奇しくも11番人気の穴馬。以前にも増して、フィリーズレビューにはスプリント向きの馬が集まりやすくなっており、今後、少しずつ傾向が変わっていくかもしれない。

エトヴプレに話を戻すと、アイルランド産の外国産馬で、父はGⅠを3勝し2018年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬に輝いたトゥーダーンホット。JRAのレースに出走したトゥーダーンホット産駒は、今のところエトヴプレだけである。

一方、母ナフードも2008年のファルマスSを制したアイルランド産のGⅠ馬で、その母父は超貴重なトウルビヨン系の種牡馬インディアンリッジ。ナフードの血統表には他にも、バイアモンやゲイメセン、メンデスなど懐かしの馬名が並び、初期のダビスタ世代が涙を流して喜ぶ血統といえる。

対して、上位人気に推されながら敗れた馬の中で、まず触れなければならないのは、4着のバウンシーステップだろう。

触れるもなにも、出遅れがすべてじゃないかと言われればそれまでだが、その遅れを挽回しようとしたところ、今度はややいきたがってしまった。それでも3、4コーナーでは折り合いがつき、直線では狭い間を割って抜け出そうとするも前が止まらず、逆に序盤のロスが響いたか、セシリエプラージュにクビ差先着を許してしまった。

デビューから3戦は出遅れていたのに対し、近2走は五分以上のスタート。ところが、今回は休み明けが影響したか、完全に出遅れてしまった。ただ、気性もかなり前向きなため、現時点では距離を伸ばして良いタイプとも思えず、やはりスタートが課題となるだろう。

そして、3番人気のシカゴスティングは、よもやの12着。

前走から距離短縮はプラス材料と思われ、好スタートを切った馬の1頭だが、序盤からややエキサイト。スムーズさを欠き、久々もあってか直線半ばで失速。大敗を喫してしまった。

とはいえ、勝ち馬から0秒9差と大きくは負けておらず、最後は鞍上もほとんど追っていなかった。逃げ、先行馬の宿命といえる範囲で、次走も1400mか、それ以下の距離であれば、巻き返しがあってもなんら不思議ではない。

さて、フラワーCを残しているものの、フィリーズレビューと直後におこなわれたアネモネSの結果を踏まえ、桜花賞の出走予定馬がほぼ決定した。

中心となるのは、やはり直行組の3頭、阪神ジュベナイルフィリーズを制したアスコリピチェーノと2着ステレンボッシュ。さらに、同レースをアクシデントで回避したアルテミスSの勝ち馬チェルヴィニアだろうか。

これら3頭は相当に強そうだが、キズナ産駒の2頭、クイーンズウォークとライトバックもポテンシャルでは引けを取らないだろう。

一方、トライアル組で注目しているのは2頭。チューリップ賞で素晴らしい末脚を繰り出したスウィープフィートと、フィリーズレビュー3着のセシリエプラージュを大穴であげたい。

ただ、牝馬の春クラシックは、消耗との戦いでもある。特に、3月のトライアルに出走した馬は、どこまで回復できるかがポイント。「直行」が近年のトレンドになっているのは、いうまでもなく本番で結果を残しているからであり、かつて最も重要な前哨戦とされていたチューリップ賞組でさえ、桜花賞を制したのは2016年のジュエラーが最後。2着は複数あるものの、勝ち切れていない点は覚えておきたい。

写真:gpic

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