
2025年11月30日
競馬ファンの視線はこの日東京競馬場で行われるジャパンカップに注がれていた。
しかし、一部のファンの目は同じ日の京都競馬場に向いていた。
そして、その目が向いていたのはメインのOP特別オータムリーフステークスではなく第9レースの2歳1勝クラス白菊賞。それに出走していた一頭の牝馬と騎手だった。
2枠2番ピカピカピロコ 鞍上松戸政也
金沢から遠征して来た彼女と松戸騎手。
あの晴れ舞台に立つまでの軌跡、そしてあの日の京都競馬場。直接ご本人に聞いてみた。

「この舞台を目指して、ちゃんと来れたのがすごい」
松戸騎手はピカピカピロコを手放しで褒めた。
金沢でデビューした彼女だが、デビュー前から中央挑戦のプランがあったと言う。
「デビュー前に中央行ってもいいよと言われていて、それで調教から彼女に乗っていました」
中央遠征の為には中央認定の新馬戦に勝つか賞金的に3勝を挙げる必要があり、陣営は後者を選択。
松戸騎手に鍛えられ、共に3勝を目指す戦いが始まった。
デビュー戦の2歳新馬戦(900m)は距離が合わなかった事もあって先頭から6馬身半差の6頭立て3着。
続く2戦目も同じ900m戦。しかし、合わないはずのここを9馬身つけての圧勝。
これで彼女の能力を確信したかと思われるが松戸騎手は逆だった。
「2戦目に勝てたけどもう厳しいかなとは思った」
2戦目を勝ったが実はタイムは57秒2で前走から0.4秒縮めたにとどまり、2着以下は59秒台といかにも相手に恵まれた感があった。
しかし、合ってない距離でも勝ち切る競馬の上手さを松戸騎手は感じていた。
3戦目に距離を1400mに延長すると先行で脚を溜めて直線で上がり最速の脚を繰り出してクビ差で連勝を飾る。
そして、中央遠征の必要な3勝目を賭けた4戦目の1500m戦。
ここには門別で2勝を挙げて中央のすずらん賞にも遠征をした後に金沢へ移籍してきたサノノサルバドールがいた。
「鳴物入りの馬(サノノサルバドール)がいてさすがに厳しいかな、もう一つ勝つのは難しいと思った」
松戸騎手も苦戦を覚悟した一戦。
ところがここでピカピカピロコは道中3、4番手から直線でまたしても上がり最速の末脚でサノノサルバドールを5馬身突き放して3連勝をやってのける。
「向こう(サノノサルバドール)が初めての金沢で慣れてなかったので最後甘くなって」
こうして3連勝を果たしたピカピカピロコと松戸騎手のコンビ。
「(3勝を)目標に溜める競馬をやっていて、ピロコもそれに合っていた」
ノルマの3勝を3連勝で達成して、その1か月後に人も馬も初めての京都競馬場へと駒を進めた。
当日のピカピカピロコはたてがみを編み上げ、勝負服と同じカラーのリボンを付けてパドックに登場。

「可愛くしてくれてよかった。(中央遠征は)普通じゃありえない事だったしね」
滅多にない金沢からの遠征馬、ぴかぴかに輝く黒鹿毛の馬体のピカピカピロコと言う可愛い名前、そしておめかししたその姿。
金沢から来た松戸騎手の家族、親戚、金沢のファンはもちろん中央のファンも注目。
パドックでは尻っぱねをするなどやんちゃでお転婆な場面もあったが、
「ちょっと入れ込んでるかなと思ったけどあんなもんか。跨ったらいつも通りかなって思った」
いつも通りのピロコと見ていた。
そんなパドックでは見慣れぬ光景があった。
2番だから2番目を歩くはずだが、ピロコは一番後ろ。しかもかなり後ろでただ1頭ぽつんと歩いていた。
尻っぱねを見せるからかなり離れて歩いていたのかと思えば、

「歩くのは速くないので」
と言う単純な理由だった。
そして、金沢のパドックや待機所で必ずと言ってもいいほどに見られる松戸騎手の馬への抱き締めを京都でも。
「いつもやってる抱き締め。誰にでもパドック回る大人しい馬にはやっている。愛情表現です、『頑張ろうね』って」
そして、パドックから本馬場へ。離れた一番後ろを歩いているのでパドックからは当然最後出しだが。
「蹴る所があるので最後にパドックから出した方が安全かなって思ったけど一杯回れるし。記念にゆっくり回っていたいと言う部分もあった」
中央の大舞台を楽しむ余裕があった。
「長く歩いて最後に出た方が恰好いいじゃん」
パドックを振り返って松戸騎手はそう言って表情を崩した。

初めての芝コースに出ての感想は。
「京都の芝は……芝と言う感じです。走って伝わる衝撃も違うし、広いし」
そう言って笑う。
普段の金沢と規模が違う舞台。観衆も金沢とは比べ物にならないくらいの大人数。歓声も大きかったがピロコは変わらなかった。
「ピロコは落ち着いていた。歓声も大丈夫だった」
いつも通りのピロコに跨っていよいよレースに臨む松戸騎手。
1番人気の武豊騎手騎乗メイショウハッケイやリバティアイランドの妹コニーアイランド相手にどう走るか。
しかし、松戸騎手は勝敗とは別の事も考えていた。
「タイムオーバーになると馬主さんに手当(出走奨励金)が入らなくなって損になっちゃうので」
タイムオーバー。
1着馬とのタイム差が規定を超えてゴールするとタイムオーバーとなり一定期間中央競馬での出走が出来なくなる上に出走奨励金が不交付になるルール。
2歳1勝クラスの白菊賞(1600m)では1着馬から4秒以上離されてゴールすると出走奨励金が不交付になる。
ピカピカピロコと松戸騎手には強敵との勝負と同時にピカピカピロコ自身との勝負もあった。
そこで松戸騎手の作戦は金沢でこの日のために磨いた脚を溜めての末脚勝負。
「なるべく溜めて溜めて最後脚を使って離されすぎないようにって」
そんな作戦を秘めてレースがスタートしたがいきなり予想外の展開が生まれる。
「今までスタート遅かったのにいいスタート切っちゃって。どうしようってびっくりするほど」
松戸騎手が言うには金沢に比べて中央のスタートはゆったりしているそうで、スタートの遅いピロコでも好スタートが切れてしまった。
脚を溜めて末脚勝負を描いていたがいきなり白紙になりかける。
しかし、当初の作戦通りポジションを後ろに下げて行き3コーナーの手前では離れた最後方追走。
離れすぎていないかと心配するほどの後方追走。
しかし、ピロコの末脚を信じて脚を溜め続けて、
「直線長くてどこがゴールかわからなかった」
と笑って振り返るほどの直線に入り乾坤一擲の末脚を繰り出す。
しかし、やはりと言うか相手は強く繰り出した末脚も上がり36.2秒と下から3番目。それでも同じく走った地方馬ベラジオレジーナを交わし、中央馬エスティヴァリスに0.3秒まで迫った11頭中の10着でゴール。
タイムは1.36.8
勝馬マーゴットラヴミーの1.33.6から3.2秒差でタイムオーバーを回避。
強敵との勝負では敗れたが自分自身の時間との勝負では勝った。
あの時を振り返って松戸騎手は反省を口にする。
「もっといい脚使えたかな。道中ついて行くべきだったかな。僕が初めての中央だったのもあるし……離されすぎないようにって頭があったので大事に乗りすぎたかな」

タイムオーバーを気にしてある意味守りの騎乗をした、と言う事か。
ついて行くのも大変だったと中央に遠征経験のある厩務員が言う程の金沢と中央とのレベル差。
その中でいかにタイムオーバーにならずに走るかと考えすぎた所もあったかもしれない。
「もし、もう一度チャンスがあったら中団でってイメージで」
松戸騎手は金沢では人気薄の馬を攻めの騎乗で一つでも上の着順に上げ、時に馬券に絡んで高配当の使者となる事もある。
そんな騎乗を再び中央の舞台で見たい。
「中央に憧れてこの世界に入ったのでその舞台で乗れたってのは凄い嬉しかった」
レース後、ピロコと共にファンにあいさつをして歓声を浴び、検量後にはいつまでもファンのサインに応えた松戸騎手。
いつもニコニコ、嬉しそうな百万石の松戸スマイルが淀にあった。
そんな松戸騎手と共にピカピカピロコは地元金沢の石川優駿へと挑む。
そして、秋に再び。そんな夢を彼女はファンに、松戸騎手に見せてくれる。


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