
夏競馬は予想が難しい。気候と開催場所、馬質などなどのファクターが複雑に絡み合って、普段のような予想が立たなくなる。
一番の難敵は気候だ。暑さが大の苦手で凡走してしまう倍率一倍台の馬も居れば、逆に夏が大好きで好走する大穴馬も居る。その見極めは仮にパドックに張り付いていても、難しいものである。
加えて、夏競馬に使用される競馬場は主に、GⅠシリーズと異なる場所である。どこもコースの特徴が風変わりで癖があり、参照できるデータの絶対数が足りない上にイレギュラーな事象が多い。例えば、開催が少ない新潟1000m直線コースの過去データから、この条件が得意な血統を読み取るのは難解だ。この直線コースを最も得意としていたカルストンライトオは、現代馬にはほぼ居ないゴドルフィンアラビアン父系子孫なのだ。こんなレアケースばかりでは、参照の仕方がない。
出走する馬も、実力が不明な文字通りのダークホースが多い。有力馬は皆、秋のGⅠに備えて放牧中であるから、特別戦や重賞であっても特徴が掴み切れない未知数の馬が大量に出走してくる。
だからか時折、GⅠに手が届かなくても、夏に大活躍する馬も現れる。私は未だに、夏にGⅠがあれば小倉巧者のナイスネイチャは、GⅠウィナーに成れたのではないか…と夢想してしまうのだった。
こうなってくると、春秋のシリーズとは異なる興行と思うしかない。まさにサマーシリーズ。逆に予想ができないので、大博打で大金を溶かすことがなくなる…と視点を変えるしかない。
こういう気の持ちようや視点の変更で、気分を転換させるテクニックをリフレーミングと言う。元々は心理学の概念だそうで、この専門的な単語の意味を私が知ったのは、つい最近。具体的には同名馬の彼からだった。案外、馬名から新たな語彙を覚える事は多い。
今回はその、リフレーミングが制した2024年の小倉記念を振り返っていきたい。

受け継いだ不屈の魂
競馬ファンなら誰もが知る、反骨の王者。キングヘイロー。切れ味鋭い末脚と血統に見合わぬ苦闘の道のりは、今でも語り草となる名馬である。リフレーミングはこの名馬を父に持つ。
そうした理由でリフレーミングは、キングヘイローの熱心なファン達から応援されていたように思う。キングヘイロー亡き後に現れた、中距離路線の後継馬と目されていた。
けれど、彼の戦績は一言で表すならば、風変わりだ。2022年の2月に3勝目を挙げてから、2024年の3月に3勝目を達成するまで、丸2年以上かかっている。3勝クラスで14戦を重ね、10回以上も掲示板に載りながらも、勝ち切れない。4歳から5歳にかけて、リフレーミングはあと一歩が届かないもどかしい競馬を続けていた。

ただ、3勝クラスをようやく突破した後、彼の走りに勢いがつく。次走のリステッド競走福島民報杯制し、初重賞となった新潟大賞典でも掲示板を確保している。後々から思えば、6歳の夏が彼の全盛期であったのだろう。この時に、彼が内側に秘めた不屈の魂は大きく燃え盛っていた。それが分かるのも、事が終わってからだ。私の当時の主観としては彼もまた、夏にどこからともなく現れる、未知の馬の一頭に過ぎなかった。
中京へ舞い戻った王者の雄姿
2024年は阪神競馬場の大改修工事により、中央競馬のレースカレンダーも大改編を余儀なくされていた。阪神競馬場での開催が出来ないために、この年の小倉記念はスケジュールの玉突きによって、中京競馬場での開催と相成った。
開催場所は変われども、小倉記念のハンデキャップ制度は変わらない。夏競馬の難しさは、このハンデにもあるかもしれない。ハンデキャッパーの腕もあってか、12頭立てで単勝オッズ20倍を切る馬が6頭と、ほぼ横一線の模様となった。リフレーミングはその混戦の中で、わずかに一番人気の4.2倍。
ハンデキャップ戦ではついつい、斥量ハンデの軽い馬を本命視してしまう私である。そしていつも痛い目を見る。この時も、唯一の3歳馬・シリウスコルトの54kgという軽ハンデに惹かれてしまったのだった。
全馬スムーズな発馬を決めて、中京開催の小倉記念の幕が上がった。坂を上り切って先頭に取りついたのはテーオーシリウス。私の本命馬シリウスコルトを含めた人気上位馬たちは、その背後で好位置を確保する。そのままテーオーシリウスが、逃げを打って向こう正面を突き進む。1000m通過タイムは57.6秒とハイペース。その中で、リフレーミングは最内の経済コースを取り、じっと好機を待っていた。彼の位置と通過タイムを見た瞬間、不味いなと私は直感した。このハイペースなら、先行勢は軒並み最後の坂でバテて、後方有利だ。その予感は数十秒後、現実に変わった。
最終直線の急坂で先行勢が軒並み失速し、テーオーシリウスとメモリーレゾンが脱落する。軽いハンデが活きるはずだと思ったが、シリウスコルトもずるずる後退していった。ここで私の負けは確定した。ただ、道中二番手だったコスタボニータだけは勢いをそのままに、先頭へと躍り出た。このままヴェローナシチーとワンツーかなあ。と、ぼんやり戦況を眺めていた時。
白地に黒襷の勝負服が、大外から飛び込んできた。
驚きで意識が引き戻される。いつの間に外へ出していたんだ? 川田騎手の巧みなエスコートに、目を見張る。
そして、なかば自棄で、新たな夢の可能性へ私は飛び乗ることにした。思わず短く叫ぶ。
行けっ!リフレーミング!行けッ!
不思議と君を応援したくなった。
中京の急坂を駆け上がる君に、今は亡き王者の面影を見たからだ。
「敗れても、敗れても、敗れても、絶対に首を下げなかった」あの父のような鋭い末脚に、魅入るしかなかった。
これが一流の血統だと言わんばかりの豪脚は、中京のロングストレートを縦一閃に駆け抜ける。
不屈の夢よ、もう一度甦れ!
君は居並ぶライバル達を、再び撫で切ってみせた。偉大な父と同じ舞台で、偉大な父と同じ末脚で。
レースの展開も予想外であったが、決着タイムにも再び驚かされた。
中京競馬場の電光掲示板に灯るタイムは1:56.5。その隣にはレコードの赤い文字が躍っていた。

二度とない薫風
最初に述べた通り、夏競馬は難しい。荒れるかと思いきや順当で、人気決着かと思えば単勝100倍台の馬が勝ってしまう。まぐれでWIN5が当たりはしないだろうかと思いながら、競馬新聞をじっと眺める。けどやっぱり分からないので、気分転換に新馬戦の面子を眺めたりするのだった。
夏競馬のもう一つの醍醐味と言えば、新馬戦である。新種牡馬の産駒達の活躍がとくに楽しみだ。あと数年すれば、あの『一流の血統』も、新馬戦に顔を見せるはずだ。リフレーミングは今、種牡馬として第二のキャリアを過ごしている。レコード勝利という偉業とキングヘイローの血統は、名馬を生み出す素地となってくれるだろう。
夏競馬を振り返ってみて最初に思い出したのは、彼の事だった。
おそらく、二度とない中京での小倉記念。この好機に勝利を我が物とした一流の血統馬。
靡かせるは王者のたてがみ。快刀乱麻の末脚で、新たな風を巻き起こした不屈の塊。
2024年小倉記念の覇者、その名はリフレーミング。
王者の薫風は、これからもターフを駆け抜けるはずだ。
写真:はねひろ(@hanehiro_deep)、mosan、突撃砲
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