ベッラレイア - 豪脚で樫に名乗りを挙げた、ナリタトップロード産駒の才女。

豪脚一気は、競馬の醍醐味の一つだ。時にその強さに驚愕させられ、時にレースを狂わせる。「差せ!」という想いが通じたレースは、記憶に深く刻まれる。

今回語るのは、豪脚でクラシック戦線に名乗りを挙げた才女である。

その馬の名はベッラレイアという。父はナリタトップロード。1999年、テイエムオペラオー、アドマイヤベガと共に“三強“と呼ばれた菊花賞馬だ。菊花賞は“最も強い馬“に与えられる称号とも言われる。

私は長距離を走れるスタミナ、ひたすらに勝利を目指す真面目さ、最後まで諦めない勝負根性…これらのものが噛み合った時に手繰り寄せることのできるタイトルが、菊花賞であると思っている。

その娘であるベッラレイアは末脚を武器にし、新馬戦を圧勝したというものの、重賞を三度除外される憂き目にあう。そのため、陣営が目指してきた桜花賞への出走が叶わなかった。

その後、陣営はオークスに狙いを定める。それが、名レースの一つとも言われる「フローラS」だった。

1番人気に推されたベッラレイア。多くのファンが、彼女の末脚がクラシックへの夢を切り開くと思っていたのだろう。しかしだ…1番人気となれば、他馬の対抗意識を掻き立て、目標に定められてしまうこともある。その結果、マークをされ、苦しいレース展開を強いられるのだ。彼女のフローラSもまた、そのようなレースとなった。

ベッラレイアはスタートこそ悪くないものの、レースの中団で馬群に囲まれてしまう。しかも、スローペースで折り合いの難しい展開。一方で先頭のイクスキューズ(2021年の目黒記念の勝ち馬ウインキートスの母)はスイスイと進み、10馬身もある縦長の隊列となった。さらには最後の4コーナーでも前が壁となる。進路がなければ、前に行くことも出来なければ、自慢の末脚を発揮すること叶わない。

「──ああ、もうこれはダメだな」

私は思った。恐らく彼女に期待していた人々も、半ば諦めていた人が多かったことだろう。

しかし、諦めていなかったのだ──ベッラレイア自身が。

外に押し出される形となったベッラレイア。外よりも内の方が、距離も短縮される。スローペースの競馬でどちらが良いかといえば、後者のはずだ。

「これは先頭まではきっと、届かない。届いても5着ぐらいだろう」

しかし…私はこの後、圧倒されることになる。

ベッラレイアが"大外"から、跳んできた。

 まるで、翼が生えているかのように。

 そうして、上位の馬を射程圏内に入れ、豪脚一気で差し切った。

「堂々と樫に名乗りを挙げた」という、まさにその瞬間を目の当たりにした。

「私、クジ運はなかったけれど、諦めが悪くてごめんなさい。伊達じゃないのよ、この脚」

ベッラレイアが、そう言っていたように見えた。

そして、冒頭の文章を思い出して欲しい。

“私は長距離を走れるスタミナ、ひたすらに勝利を目指す真面目さ、最後まで諦めない勝負根性…これらのものが噛み合った時に手繰り寄せることのできるタイトルが、菊花賞であると思っている“

 ベッラレイアは、この三つを父から受け継いだのではないか。

スローペースに惑わされないために必要なのは、折り合う力、そして大外を回されても脚を残せるのはスタミナあってこそ。

困難な展開から活路を見出すためには、諦めない勝負根性が必要だろう。

さらに、そこから勝つためには、ゴールをただひたむきに、ひたむきに、目指す真面目さが必要だ。

彼女のもつ豪脚一気という才能と除外の悔しさ、そして、最も強い馬が咲かせることのできる"菊の魂"が彼女の中で開花した瞬間が、2007年のフローラSだと思った。そして、やはり、豪脚がいかに魅了的な技だとも。

ベッラレイアはその後、オークスに挑んだ。この年、有力視されていた二強、ダイワスカーレットの回避、ウオッカが日本ダービーを選択したことにより、彼女は1番人気に推される形となる。

最後、早めに先頭に立ったが、ローブレコルテに交わされ、推しくも2着。

その後、重賞にも挑み続けたが、結局、勝ち鞍はフローラSのみであった。

しかし、その成績のほとんどは3着以内に入っているし、たった一つの重賞が印象的なレースとして語られ続けるような一戦なのだから、彼女もまた、優れた才女と言えるだろう。

思うに、名馬というのは、重賞の数だけではない。人々の記憶に強く刻まれたならば、その馬は名馬であり、最強馬なのだ。

そうしたことを、改めて、ベッラレイアから教わった気がする。

 そして思った。

「やっぱり、豪脚一気は気持ちいい!」

ベッラレイアは、2023年3月7日、出産時の内出血により亡くなった。享年19歳。遺された産駒やその子孫たちが、彼女のクラシックの忘れ物を掴みに行くことを夢見られずにはいられない。

 きっと彼女は遠くから愛する子供たちにその夢を託しながら、ひたむきなHEROの父とスタミナと勝負根性を果てない空で比べ合っているのかもしれない。

写真:Horse Memorys、かず

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