史上23頭目の二冠馬~ドゥラメンテ~

ドゥラメンテの荒々しく、はっきりと刻まれた競走馬生~第2の馬生へ

その馬は、観衆にはっきりとその名を印象付けた。
日本競馬史上23頭目の二冠馬、ドゥラメンテ。セントポーリア賞での5馬身差圧勝劇、並み居るディープインパクト産駒たちを超える切れ味で差し切った皐月賞、父キングカメハメハを超えた圧巻のダービーレコードと、勝利の数こそは少ないが、それぞれの勝ち方はどれも鮮烈なものだった。
しかしダービーで両前脚を骨折し、9ヵ月のブランクを経験する事となる。復帰後、中山記念を勝利して挑んだドバイシーマクラシックでは、まさかの落鉄。
さらには宝塚記念ゴール直後の不運により引退という、その名の通り、荒々しい競走馬生を歩んだ。
今回は二冠馬ドゥラメンテの馬生について、そして引退後についても私の視点から回顧していく。因みに、私がこの目でドゥラメンテを観たレースは、日本ダービーとラストランとなってしまった宝塚記念である。

ドゥラメンテは父が変則二冠馬(NHKマイルカップ、日本ダービーを制した)であるキングカメハメハ、母はエリザベス女王杯を連覇したアドマイヤグルーヴだ。母系には良血ダイナカールの血が入っていて、父系は非サンデーサイレンスの血で有名なキングマンボ系。まさにクラシックディスタンスには十分過ぎる超良血馬であった。

セントポーリア賞から既に噂されていた「世代最強」説

既にドゥラメンテの評価は、デビュー3戦目であるこのレースから高くなっていた。新馬戦から課題とされていた気性難が出ていたものの、直線で前が開くとあっという間に突き放してみせた。この時は3歳の2月。この時期で他馬とこれだけの決定的な差をつけたのだから、驚きを隠せない競馬ファンも多かっただろう。

「何なんだよこの強さは!」

と、このレースをきっかけにドゥラメンテを追いかける人も増え始めたに違いない。
この鮮烈な勝ち方は、次走の共同通信杯で断然の一番人気に支持される大きな後押しに繋がったのである。

クラシック二冠達成

共同通信杯では気性難が仇となり、翌年にはドバイターフを勝利するリアルスティールに敗戦を喫す。陣営は抽選漏れ覚悟でそのまま皐月賞に登録。賞金を持っていた馬の回避が相次いでフルゲート割れとなったという「運」にも恵まれて、大一番の出走が決まった。

このレースには、弥生賞で完勝したサトノクラウンや、スプリングSでリアルスティールを抑えたキタサンブラック、そしてリアルスティールやブライトエンブレム等が集まり、ハイレベルなメンバーによる決戦となった。
レースでは、後にNHKマイルCで優勝するクラリティスカイがハナに立ち、先行勢にはキタサンブラックとリアルスティール。サトノクラウンとドゥラメンテは後方で構えるという展開に。
1000m通過タイムは59秒2。
ドゥラメンテにとってはあまり恵まれたとは言えないペースだった。
4コーナーの時点で先頭はキタサンブラック。リアルスティールもすかさず追う。後方では外からサトノクラウンらが一気に捲っていく。
しかし内から有り得ない大斜行をして飛んできた馬がいた。
ドゥラメンテだ。
大外に押し出される形となったサトノクラウンらを尻目に、既にキタサンブラックを捉えて抜け出しを計るリアルスティールを射程圏内に置くと、最後の中山の急坂でとんでもない末脚を発揮してみせたのだ。
リアルスティールを一瞬で交わして1馬身半もの差をつけて1冠目をもぎ取ってしまった。

「こんな馬に勝てる3歳馬がどこにいる?」

私のみならず、多くの競馬ファンがそう思い、酔いしれた。久々に日本最強クラスの馬が誕生した、と思わせるレースだった。

続く日本ダービー。このレースには皐月賞上位メンバーがほぼ参戦した事に加え、京都新聞杯組からはサトノラーゼンとポルトドートウィユ、青葉賞組からはレーヴミストラルと、更にレベルが上がった。
レースはミュゼエイリアンがハナを叩き、キタサンブラックがそれを突っつく形となった。ドゥラメンテは中団の前で珍しく折り合っている。
1000m通過タイムは58秒8。
皐月賞より明らかに早い為か、ドゥラメンテにとっては非常にやりやすい展開となった。
最後の長い直線。残り400mであっさりと先頭に立ったドゥラメンテは、後方待機で構えてたサトノクラウンとサトノラーゼン、リアルスティールの追撃をいとも簡単にねじ伏せ、世代最強を証明した。
勝ちタイムは2分23秒2。
父キングカメハメハがかつて叩き出したダービーレコードを0秒1更新してみせたのだ。
この結果を見て「秋は凱旋門賞だ!!」と唱えるファンも多かっただろう。
陣営も秋の最大目標は凱旋門賞と定めていただけに、更なる飛躍が期待される二冠馬の誕生だった。

両前脚骨折から狂い始めた歯車

しかしレース後、凱旋門賞に向けた放牧中に、骨折が発覚。その後のプランがすべて白紙に追い込まれる事態に陥った。この他にも、リアルスティール、ベルラップなども骨折により休養を余儀なくされており、レコードが出たダービーの、厳しい展開を物語っていた。
陣営も、ファンも、大いに落胆した。

手術後の懸命なリハビリの甲斐あって、ドゥラメンテは9ヵ月の休み明けで中山記念に復帰を果たした。この時のメンバーには、リアルスティール、ラジオNIKKEI賞を制したアンビシャス、皐月賞馬イスラボニータとロゴタイプ、後のドバイシーマクラシックで3着と健闘したラストインパクトも参戦しており、非常に豪華なメンバーだったといえる。
レースではロゴタイプとラストインパクトが先行してドゥラメンテは中団で脚をためる。リアルスティールとアンビシャス、イスラボニータは後方待機だった。
4コーナー手前で一気に外から捲っていったのは、何とドゥラメンテだった。
4角先頭で直線へ。後方待機で追い込んで来たリアルスティールとアンビシャスの追撃を僅かに凌ぎ、見事押し切ってみせたのである。
鮮やかな復活劇に、みんなが胸を撫で下ろした。「満を持してドバイへ!そして今年こそ凱旋門賞!」と感じた人も多かっただろう。

しかしまたもや不運が起きる。満を持して参戦したドバイシーマクラシック。そのレース直前に、落鉄をしてしまう。1度打ち直しの作業が行われたが蹄鉄がハマらず、なんと裸足のままスタートをしてしまったのだ。
だが、そこからドゥラメンテの底力が発揮される。先に抜け出したイギリスの強豪馬ポストポンドを、前脚が裸足のまま追い詰めようとしたのである。結果的には2着に敗れてしまったものの、
「仮にこれで勝ったらバケモノだ」
「落鉄しなかったら勝ってたかもしれない」
そう思う人も多かったのである。
勿論、競馬に「たら・れば」は禁物だ。
それでもそう思わせてくれる強い馬だという事だろう。それだけに、陣営もファンも皆、非常に悔しい1戦だった。

その後は帰国し、凱旋門賞へのステップレースとして宝塚記念へ。後方から鋭い伸び脚を見せるもまたもや2着に敗れた。
だがゴール板を過ぎた直後に悲劇が起きる。
馬場の悪さに脚を取られてしまい、左後ろ脚が左前脚に乗っかってしまったのだ。
異変を感じ取った主戦のデムーロ騎手はすぐに下馬。最後は馬運車に乗せられ、後に検査をした結果、競走能力喪失と診断されたのだ。

引退後の交配相手は…?

日本を代表する最強馬の突然の引退は衝撃を与えた。
あまりにも重い怪我をしてしまっては、もうレースへの万全の参加は出来ない。ドゥラメンテの怪我はあまりに重すぎた。

しかし、血を残せるだけでも奇跡だろう。私のみならず、多くの人が「不幸中の幸い」と感じるはずだ。
如何に無事に走り終えられる事が大事かを、改めて思い知らされる。


そして、引退後の交配相手である。現在、繋養先が未定となっているドゥラメンテ。
実はドゥラメンテにとって、今の日本の生産界は残念な状況が待ち構えている。
20年ほど前に襲来したサンデーサイレンスの血統が、現在飽和状態になりつつある事だ。
生産界には既にサンデーの血が蔓延しており、逆に、非サンデーの種牡馬は父であるキングカメハメハや2013年度代表馬ロードカナロア、エイシンフラッシュやルーラーシップ、海外からの輸入馬など、貴重な存在として重宝されている。サンデーの血が入った種牡馬はドゥラメンテを含め、現状はかなり厳しい環境だと言える。
輸入牝馬などで対策は進めているが、それでも交配できる数も限られている。非サンデーの日本の繁殖牝馬も含め、他のサンデー系種牡馬との取り合いになる事は確実で、リスクは大きい。
そこで私は、ある大きな提案をしたい。

思い切って、海外(欧州または北米)で種牡馬をやるのはどうだろう?

もちろん日本で、これから増えていくであろうサンデー孫・ひ孫の牝馬と3×3か3×4のクロスになる交配をしていく事も活路の一つではある。しかし私自身は、ここ最近ディープインパクト産駒が欧州で活躍してるのを観ると、ドゥラメンテ産駒として欧州や北米で活躍している姿も観てみたいのである。

勿論、ドゥラメンテ×Zenyatta
ドゥラメンテ×ウオッカ

…などなど、言い出したらキリがないぐらい、どんどん試して貰いたい配合はある。
数々の日本の種牡馬(ユートピア、サダムパテックなど)も、海外を拠点に活躍しているため、やってみる価値は十分あると思う。血の異なる現地の牝馬たちを好きなだけ集められるのは、双方にとって大きなメリットだろう。

夢は大いに広がっていく。

更なる血の継承により、日本競馬の質が今よりさらに高くなる事を祈りながら、私はドゥラメンテに改めてこの言葉を送りたい。そして、この言葉は私のみならず、多くの競馬ファンがそう思っているに違いない。

「お疲れ様。無事に帰ってきてくれて、ありがとう」

写真・ゆーた

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