[大狩部牧場代表・下村優樹ブログ]セールでの挑戦~大狩部だより(第3回)~

みなさん、こんにちは。

日高地方も涼しい日が続いていましたが、ここにきて気温が上がる日も少し増えてきました。それでも朝晩は10℃台だったりしますし、湿度が低くくてカラッとしているので、みなさんのお住まいの地域と比べると、快適ではないかと思っております。

馬産地の話題の中心といえば、この時期はセールです。私もセレクトセール、セレクションセールは現地にいきまして、上場馬全頭の馬体を間近で見てきました。今回の更新は弊社の生産馬4頭が北海道サマーセールに上場される当日ということで、今回は馬の売買、特にセールについてお話していこうと思います。

人前でしっかり立つ練習中のアッシュケーク2025(父パレスマリス)牡【上場番号712】

競走馬の取引はいくつかあって、弊社ですと、庭先取引、セールへの上場、それからターファイトクラブ様への提供の3つがあります。おそらくセールはみなさんもライブ配信でご覧になれますし、結果もすべて公表されるので、わかりやすいかと思うんですね。ただ、弊社は先代から庭先取引の割合が高くて、そこまでセールの比重は高くありません。その理由はまたのちほどお話させていただきます。じゃあなんでセールに出すのかというと、理由はいくつかあります。まずはですね、大狩部牧場を知っていただけるきっかけづくりです。セールに生産馬を上場すれば、これまでつながりがなかったオーナー様や調教師の先生に直に馬体を見ていただけますし、そこで評価していただいて、付き合いがはじまっていく可能性があります。弊社も毎年、色々なオーナー様とお付き合いする機会が増えてきました。なかには大変ありがたいことにYouTubeをご覧になって、ぜひ馬を買いたいと連絡してくれる方もいらっしゃいます。私も30年、40年と長く牧場経営を続けていきたいですし、そのために新たな販路を開拓していくことも大切になります。

競りは買う側が価格を決めるものですから、価格があってないようなものなんですね。我々の評価よりも高く買っていただける可能性もあります。ただですね、怖いのは逆のパターンです。これは「牧場あるある」なんですが、お互いにセリ会場で馬を見てて、あ、あそこの牧場の馬には敵わないなって思うときがあるんです。どう考えてもこの馬は高くなるよねと話していても、なぜか評価されない。価格を見たら、なぜかうちの方が高く取引されて、あっちは一声で落ちたりってことがあるんです。牧場同士で「なんで?」みたいな。上場された牧場さんも頭を抱えて、自信をもって出したけど、一人にしか評価されなかったということがあるんです。買う側の気持ちや好み、懐事情で思いもよらない結果になったりもします。怖いです。

セールに上場すると、そういった不確定要素もどうしても入ってしまいます。それでもセールに上場するのは弊社にとってチャレンジだからでもあるんです。競りは関係者が一堂に集まる場なので、牧場の個性、馬づくりの個性を見ていただけます。そこで弊社がアピールしたいのは競り用の馬をつくらないということです。弊社では競りに出すためにたくさん食べさせて、馬体を立派に見せたりしません。1歳の春から夏って自然にものすごく成長するんですね。ところが、たくさん食べさせてしまうと、そういった成長曲線をかえって阻害してしまいます。あくまで私はゴールを売ることではなく、競馬場で長く元気に走ることに設定して、馬づくりをしています。目標100戦です!そう考えると、1歳春から夏にかけての成長を邪魔したくないんですね。それこそ弊社の上場馬は当日の午前3時ぐらいまで放牧地にいます。おそらくですね、上場馬のなかでいちばん遅くまで放牧しているんじゃないでしょうか。

セール当日のパレードリンクでも落ち着いて歩けるよう日々、地道に練習を重ねていく

なにも余計なことをせず、自然に育ったことはセリ会場でうちの馬に触ってもらえれば伝わります。触った感覚が全然違います。もちろん、その分、弊社の馬は少し小さく見えるかもしれません。ですが、触ってもらえればわかります。それをアピールできる場がセールです。知らないオーナー様たちもちょっとでもいい馬かなとか、なんかちょっと違うなって思ったら話しかけてくださいます。「どうやって管理しているんですか?」とか「ウォーキングマシンやっているんですか?」とか。うちはやっていません。毎日20時間放牧と人間と一緒に30分かけて歩いた結果です、と。私はそっちの方が絶対に走ると確信しているので、わかってもらえるまでのチャレンジです。馬づくりの方針があらわれているのが目の前にいる生産馬です。それをこれまで接点がなかったオーナー様や調教師様に見ていただいて、評価していただいたり、話しかけていただくことでつながりをつくっていければいいですね。自然体で育ったありのままの資質を見てほしいです。

ヒメワカバ2025(父カラヴァッジオ)牡【上場番号854】

高カロリーの食事を与えたりすると、その弊害として骨軟骨症を発症するケースが増えます。私も色々な牧場さんからそういった話を聞いています。人間もたとえば三大疾病って大昔はなかったんですが、その原因の多くは普段の食事にあると言われます。サラブレッドは人間の1年で4、5歳年を重ねるほどめちゃくちゃ成長が早いんです。体の成長が早い分、食べものの影響を大きく受けます。で、高カロリーの食事を与えて、血糖値が上がると骨軟骨症を発症するリスクが上がります。いくら徹底的に管理しようと思っても、骨軟骨症は発症してしまいます。

色々なカタログとかでOCD除去手術という特記事項を目にすると思います。OCDとは、osteochondritis disecansの略称で、離断性骨軟骨症といいます。関節軟骨の発育過程の異常で、壊死した骨軟骨片が剥離するために生じる病変なんです。飛節部、膝関節部、肩甲関部および球節部が好発部位です。軟骨が骨化する過程でうまく骨化できなくて軟骨が残ってしまうと、関節内で炎症を起こすので、そこを切除するためにメスを入れなければいけない馬が出てきます。昔に比べて、明らかに増えています。私は食事の管理が大きいじゃないかと思っています。もちろん、オペをして成功すれば、まったく予後に影響しません。ですが、オペをしても逆に腫れてしまうとか上手くいかないことも少なくないんです。そうなると、その馬の資質を削いでしまいます。競走馬としてデビューできないってことにもなります。生まれもった資質を人間が潰してしまうのは馬にも人にもいいことがありません。せっかく生まれてきた馬のためになりませんし、お金も時間もかけて生産した人にもなにもいいことが返ってきません。

実は以前、海外の栄養士さんに話を聞く機会があって、理想の食事について聞いてみました。本当はちょっとずつ2時間ごとに与えるのが理想なんだそうです。それは管理上、なかなか難しいです。夜中も2時間おきに放牧地で飼葉を与えるのは無理ですから。ですが、人間が携われる日中の明るい時間にこまめに食事を与えるというのは大事です。馬は元々、ゆっくりずっと草を食む生き物ですから。そういった管理も私にとってチャレンジです。なにより買ってもらったのに、走ってくれないとつながりませんし、馬主様たちに評価を下げられるのはいちばん怖いことです。やっぱり大狩部牧場の馬づくりがあるから、毎年走るんだよって言っていただいた方がずっと続くので、それを目指して日々、挑戦しています。

と色々とお話してきましたが、すみません、また長くなってしまいました。冒頭で少し触れた庭先取引については次回お話しようと思います。

みなさん、素晴らしい一日をお過ごしください。

それでは、また。

                                     (取材・構成/勝木 淳)

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