[連載・クワイトファインプロジェクト]第4回 地方競馬の雄カジノフォンテンを支える名種牡馬ディクタスの血

今週はダートのG1チャンピオンズカップです。

前々回のコラムにも書いたように、ダート戦線は芝と比べれば血統も多様性が保たれている状況にはありますが、一方で、正直なところ個人的には特定の馬にこれといった思い入れがあるわけではありません。

それでも地方馬主として、地方からの出走馬は応援したくなります。ましてや今年の登録馬カジノフォンテン号は、地方競馬生え抜きの馬ですので、尚更その思いが強くなりがちです。

今回のコラムを書くにあたり、まだカジノフォンテンを題材にするかどうか決めていない段階で、この馬の血統表を調べてみると、もちろんシンボリルドルフやトウカイテイオーとは直接関係ありませんが、この馬の血統にも昭和~平成と紡がれた血のヒストリーが込められているのが見て取れました。今回は、血統がらみの少しマニアックな内容になってしまいますが、最後まで読んでいただければ幸いです。


さて、カジノフォンテンの血統の話に入る前に、種牡馬ディクタスについて、読者の皆様はどんなイメージをお持ちでしょうか。

実は、私が今般トウカイテイオーの血を残すプロジェクトを行うにあたって、他に残すべき血統がないかどうか、もっとも悩んだのはディクタス→サッカーボーイのサイヤーラインでした。ディクタスは3大始祖で言えばダーレーアラビアン系ではありますが、1807年産まれのWhaleboneから今の主流血統ファラリス系(ノーザンダンサーやミスタープロスペクター、ヘイルトゥリーズンなどはすべてファラリス系)と分岐しています。ダビスタで言えば4系統、ハンプトン系という表現が馴染みがあるかも知れません。

ディクタスと祖を同じくするハイペリオンやエルバジェからは、日本で言えば国民的ブームを巻き起こしたハイセイコーや、中野コールで有名な平成2年ダービー馬アイネスフウジン等の数多くの名馬が誕生しました。しかし今では、残念ながらハイペリオン系・エルバジェ系もほぼ絶滅してしまいました。

ディクタス自身は、母国フランスで8年間種牡馬生活を送ったのち日本の社台グループに購入された種牡馬です。母国でも何頭かの重賞勝馬を輩出してはいますが、より大きな成功を収めたのは日本に輸入されてからと言えるでしょう。サッカーボーイ、イクノディクタス、ムービースターといった芝の1600~2000mでの活躍馬を送り出しました。そして、最近の競馬ファンの方々にもなじみのある名前としては、なんといってもステイゴールドの母父としてではないかと思います。

というより、ステイゴールドの母ゴールデンサッシュはサッカーボーイの全妹ですから、まさに名馬同士の血の融合と言えるのでしょう。ステイゴールドが後に、母父メジロマックイーンとの配合でオルフェーブル、ゴールドシップを輩出するのですから、ディクタス、パーソロンの血が現代の日本競馬にも大きな影響力を与えているのがわかるかと思います。

だから、名馬のサイヤーライン、とくに主流血統でない(非ファラリス系の)サイヤーラインを簡単に絶やしてはならない──私はそのことをずっと主張し続けているのです。

カジノフォンテンですが、父カジノドライブは現役時代ダートで活躍した外国産馬でご記憶の方もいると思います。母父は、ベストタイアップ。アンバーシャダイ産駒で芝の中距離で活躍しましたがGⅢを3勝したもののGⅠ勝ちはなく、種牡馬としても大物は出せませんでした。しかし、ほぼ唯一の活躍馬と言っていいジーナフォンテンの孫がカジノフォンテンです。

 さらに血統をさかのぼると、ジーナフォンテンの母がジュピターガール。この馬も重賞は勝てませんでしたが、桜花賞に出走するなどの活躍は見せました。
ジュピターガールの母父がディクタスです。

ここまで読み進められた読者の方々は、カジノフォンテンからみたら随分と遠いな、と思われるでしょう。実際遠いです。専門的なことはわかりませんが、今のカジノフォンテンからディクタスの影響力云々をコメントするのは難しいでしょう。

しかし、前々回コラムでも書いたように、底力のある名牝の血は代を重ねてもどこかで開花するものです。ジュピターガールの母ダイナショールは、社台グループが輸入したギルバーツガールという牝馬にディクタスを配合して産まれました。当時の社台グループとしては、パロクサイド(ダイナカールの祖母)やスカーレットインク(スカーレットブーケの母)などと同様に、社台グループの基礎牝系としての期待は込められていた配合だったと推測されます。

すぐには結果は出なかったものの、代を重ね約50年の時を経て、祖母ジーナフォンテンと同じ南関東を舞台にギルバーツガールの血統が花開いたのです。そして、ギルバーツガールの牝系で最も成功したのはダイナショールの血統ですから、後にジュピターガール、ジーナフォンテンと続く産駒たちの能力の下支えをしたディクタスの功績も称えられるべきでしょう。

もちろん、ここに書いたような血の積み重ねは他の出走馬にもあり、カジノフォンテンだけが特別ではありません。ですが、今年のJRAのG1はいろいろ波乱が起きていますので、名種牡馬ディクタスのことを頭の片隅に置きながら、地方馬のG1勝利という波乱のドラマを期待してレースを観たいと思います。

写真:s.taka

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