[地方レース回顧]ニュープリンセス、女王を夢見て~2021年・クイーン賞~

12月1日、いよいよ年の瀬へのカウントダウンが始まりました。船橋競馬場1800m戦のクイーン賞は、冬の訪れを告げ、来シーズンへの飛躍を狙う牝馬たちが集まる一戦です。

今年は「南関左回りの女傑」サルサディオーネが連覇を狙い出走。JRAから4頭、笠松競馬から2頭、岩手競馬から2頭、そして地元南関東6頭の合計14頭が集まりました。

前日の晩から朝にかけて降った雨で馬場コンディションは不良、少しコースに水が浮く馬場でのレースになりました。いつも通りに逃げを打つサルサディオーネを、13頭が追いかけてレースが始まります。

レース概況

スタートからサルサディオーネが「お決まりの」逃げを打ち、最初の直線でリネンファッションが2番手、デジマノハナが外から3番手、エリザベスタワーが掛かり気味にインの4番手、武豊騎手に促されながらウェルドーンが5番あたりで1コーナーに入ります。

中段の内にダイアナブライト、外にハピネスマインド、その後ろにプリティーチャンスが続く展開。後方集団はディアリッキーが外、ファイントリックが内、その後ろにナラ、サルサレイア、ゴールデンヒーラーとハナウタマジリが最後方で縦長の隊列になりました。

2コーナーから向こう正面に入るところで、早くもルメール騎手・リネンファッションがサルサディオーネの半馬身差まで寄せ、ウェルドーンも早めに3番手まで上がっていきます。ペースが上がったことで折り合いがついたエリザベスタワーが4番手、このペースについていけなくなったデジマノハナと入れ替わるようにダイアナブライトがインコースから先行集団を追いかける形に。

デジマノハナの直後にハピネスマインド、外からプリティーチャンスが進出をはじめ、3コーナーへ差し掛かります。
しかし、3コーナー入り口でサルサディオーネが残り600mから促されると、2番手以下との差が広がっていきます。ルメール騎手、武豊騎手も仕掛けているのですが、ハイペースを追いかけた影響か着差を詰めることが出来ずに4コーナーへ。

リネンファッションの内が1頭分空いたのを見て、笹川騎手がダイアナブライトを最内に誘導し、先行した2頭を交わして直線に向きます。
直線ではサルサディオーネが先行馬たちの2馬身前で粘り込みを狙いますが、残り100m付近で手ごたえが一杯に。その外から一気に末脚を伸ばしたダイアナブライトがサルサディオーネをクビ差交わしたところがゴールでした。

先行した馬たちが軒並みばててしまったので、中段から追い上げていたプリティーチャンスが3着、その後ろからディアリッキーが4着、サルサレイア5着と、大井競馬所属の出走馬4頭が全て掲示板に入る快挙を達成してレースが終わりました。

各馬短評

1着 ダイアナブライト

母チェリーコレクトはイタリアオークスを勝って8勝を挙げた馬。全姉は福島牝馬Sで3着に入ったダノングレース、半弟はコントレイルとホープフルS、ダービーで対戦したワーケアがいる良血です。最近は全弟のクロンターフが2勝クラスを突破し、半妹のエリカコレクトもデビューしました。

前走のレディスプレリュードまでは栗東の石坂公一厩舎所属でしたが、このレースからは川崎の内田勝義厩舎に移籍し、南関牝馬としてのスタートを切った大事なレースでした。

先日の浦和記念観戦記で笹川騎手がタービランスをうまくインに誘導して2着まで押し上げた様子をお伝えしましたが、今回もダイアナブライトで同じような進路取りを行い、4コーナーまでの進路取りはロスなく、直線では競らずに外へ出すという笹川騎手の騎乗パターンが見事にハマった勝利。

母チェリーコレクトからら初の重賞勝ち馬。これで今後の交流重賞での活路を見いだせたのではないでしょうか。来シーズン以降の飛躍に期待が持てる、良い勝ち方でした。

2着 サルサディオーネ

走破タイム1.51.5は昨年と比較してわずか0.1差、そして今回のレースではJRA勢以上のトップハンデ56.5キロを背負いながらダイアナブライトとの着差はクビ差、本当に強いの一言です。

前走JBCレディスクラシックの敗因は「遠征競馬と右回り」にあると回顧しましたが、得意な船橋競馬場でのレースならば、能力は素晴らしいものがあります。

ルメール騎手や武豊騎手が早めについていく競馬を選択したことで、前半1000mの通過タイムは59.6秒。
昨年の同レースの際の前半1000mは60.5秒ですから約1秒は速いペースで駆けていたことになります。
昨年以上に不利な展開でも2着に残し、昨年とほぼ同タイムで走破した走りはやはり「南関の女傑」と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。

来年は8歳になりますが、ハンデ戦ではどうしても斤量を背負い、定量になるとメンバーレベルが上がるので、使いどころが難しくなるかと思います。それでも、今の実力であればまだまだ最前線で走れますから、怪我無く無事に現役を続けてほしいです。

3着 プリティーチャンス

2走前にオープン入りを果たし、前走みやこSは大外枠で終始外を回りながら、上り36.1秒の末脚で追い込んでメイショウハリオの4着。今回が2回目の重賞チャレンジでした。

スタート直後にハピネスマインドと接触しますが、後方からの馬なので落ち着いてダイアナブライトの後ろに位置を取ることが出来ました。

後半は前走と同じピンク帽子での出走ゆえに外を回すしかなく、コースロスせざるを得ない走りでしたが、サルサディオーネが作り出したハイペースを味方につけ、外から先行馬たちを差す競馬を披露しました。

最後の3ハロンでサルサディオーネと同じ上りタイムになったことで2着との差を詰めることは出来ませんでしたが、オープン入りすぐの競馬で2戦連続掲示板であれば、上出来と言って差し支えないはずです。
願わくば、次こそはもう少し内の枠で末脚を溜めることの出来るレースを見てみたいですね。

5着 サルサレイア 

もう一頭、サルサレイアを紹介します。サルサディオーネの半妹で、こちらは差し・追込競馬を得意としています。
昨年のこのレースでも軽斤量を活かして3着に好走、今年もばてた先行馬の間から抜け出して5着に入りました。
地方競馬の差し馬ゆえに展開に左右されやすいものの、今年は5月に牝馬限定のオープン戦を勝利し、地方の牝馬重賞で何度も掲示板に入る走りを見せています。

サルサディオーネが他の先行馬を競り落とす展開になれば、サルサレイアがばてた馬たちを差すチャンスにつながり、2年連続で姉妹揃っての掲示板入賞が叶いました。

実力はサルサディオーネにはもう一歩及ばないものの、サルサレイアは右回りでもパフォーマンスが落ちないので、消耗戦になれば十分好走のチャンスがあります。うまくいけば、TCK女王杯あたりで一発がありそうです。

レース総評

前走で地方の馬場に慣れ、今回は移籍初戦で挑んだダイアナブライトが笹川騎手の好騎乗に導かれて重賞初制覇。意外にも、笹川騎手にとってもダートグレード競走は初制覇でした。

敗れたとはいえ、サルサディオーネはダイアナブライトとのハンデ差3.5キロがありながら着差はハナ差ですから、ダイアナブライトの斤量が増えるであろう今後のハンデ戦では着順の入れ替わりもありそうです。

また、ハンデ差があったとはいえ先行馬たちを交わして南関牝馬たちが掲示板に4頭載ったことは見逃せません。JBCクラシックをミューチャリーが勝ったり、浦和記念でタービランスが2着に健闘したりと、ここ最近のレースで地方所属馬はJRA勢と差の無いレースをしています。今回はサルサディオーネが作った展開の恩恵はあるにせよ、中央の各馬たちも簡単には交流重賞を勝てなくなってきました。

次なるダートグレードは全日本2歳優駿。多くのスターホースたちの引退発表が相次ぐ中、未来の活躍を誓う2歳馬たちの日本一決定戦です。昨年このレースを制したアランバロースは東京ダービー馬になりました。
地方競馬の2歳が連勝するのか、中央の2歳馬が巻き返すのか。期待して待ちましょう!

写真:s.taka

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