[重賞回顧]名古屋の砂埃を巻き上げて、いざ府中へ〜2023年・東海S〜


近年、改めて注目を浴びているダートグレード競走。2024年には「ダート3冠」が整備され、地方・中央関係なく砂上の3歳最強決定戦が執り行われる形となる。

1月後半から2月前半にかけてといえば、ダートの重賞が目白押しな季節でもある。1月の大井・TCK女王杯を皮切りに、川崎ではその年最初のGⅠ級競走である川崎記念、佐賀で行われる名物重賞・佐賀記念と、3つの交流重賞が行われる。さらに中央ではフェブラリーSへの重要なステップレースとなる根岸Sと、中京ダートの東海Sの2つが開催。特にこの東海S、翌月に控えているフェブラリーSのみならず、12月に行われるチャンピオンズCと同条件ということも相まって、今後のダート路線を見据えるうえでかなり重要度の高いレースといっても過言ではない。かつては5月に開催されていた当重賞だが、現行の1月開催に変更されて以降の勝ち馬を並べると、9頭中4頭がGⅠ馬ないしその後GⅠ馬となった馬たち(インティ、コパノリッキー、ニホンピロアワーズ、グレープブランデー)であり、ここを制した馬のほとんどは翌月の本番でも上位人気に推されることが多い。さらに暮れのチャンピオンズCでも好走傾向が強いという特徴があることからも、非常に重要な1戦といえるだろう。

今年の東海S、1番人気は目下好調のハギノアレグリアス。ダート転向後、9戦して掲示板を外したのはわずかに1回。初の重賞挑戦となった前走・みやこSでも、勝利まであと僅かのところまでたきていることを感じさせた。怪我での長期離脱後、そのブランクを全く感じさせないような長い走りを見せている。ここで待ち望んだ重賞勝利、そしてGⅠへの活路を見出すことができるかどうか。連勝中の川田将雅騎手とおよそ2年3か月ぶりのコンビを組み、万全を期して臨んできていた。

2番人気には、こちらも連勝中の新星・プロミストウォリアが推されていた。父に日本でもおなじみになりつつあるマジェスティックウォリアーを持ち、これがデビュー7戦目。明け4歳馬あたりと間違われそうなキャリアだが、なんと6歳牡馬。彼もまた、2回の長期離脱を経験した経歴の持ち主である。しかしその実力は折り紙付きで、未勝利を快勝した後、西村騎手に「素質を感じる」と評価を下され、前走の摩耶Sでコンビを組んだ名手、バウルジャン・ムルザバエフ騎手に「面白いところまで行くかもね」とまで言わしめた。条件戦では今村聖奈騎手・角田大河騎手と、有力な若手騎手とのコンビで快勝を続けたことも印象的。

その後ろ3番人気は前年のシリウスSで1番人気に推されていたハヤブサナンデクン。シリウスSこそ7着と敗れたが、その後の武蔵野S・ベテルギウスSで5着・3着と、順調にステップアップしてきた。得意の中京に戻るここで、昨年の雪辱を晴らしたいところ。

以上の3頭が抜け出した人気で、倍率的にはハギノアレグリアスが2.7倍、プロミストウォリアが5.1倍、ハヤブサナンデクンが6.3倍。ハギノアレグリアスがやや抜けつつ三強と言えるオッズ構成で、レースを迎えた。

レース概況

スタート直後、赤い帽子のヴァンヤールが鞍上の荻野極騎手を振り落として空馬になるというアクシデントがあったものの、そのほかの14頭は無事発馬。タイミングよくスタートを決めたオーヴェルニュが、シリウスS以来のコンビとなる団野騎手の合図に応えて前へ行く。だがそれ以上に、プロミストウォリアとムルザバエフ騎手のダッシュが良かった。そのままオーヴェルニュを制して先頭に立つと、そのままリードを確保していく。それに追随する形でハヤブサナンデクン、ウェルカムニュース、さらに初ダートのアイアンバローズが続いていく。先団を見るようにハギノアレグリアスとサンライズウルスの人気両頭が構え、末脚に賭けるマリオマッハー、スマッシングハーツ、クリノドラゴン、ディクテオン、デルマルーヴル、ロードレガリスらが後方に構える。やや空馬のあおりを受けたゲンパチルシファーが膨れ気味に最後方から追走していた。

やや後続を離しながら先頭を行くプロミストウォリア。1000mの1.02.6とかなりゆったりした流れで後続を引き連れていく。ホープフルSでドゥラエレーデをGⅠ初制覇の逃げ切り勝ちに導いた手腕は、ここでもレースを支配していた。

そして4コーナー手前で空馬のヴァンヤールが外に膨らみ、先行馬群も一気に凝縮。ハヤブサナンデクンがプロミストウォリアの外に持ちだし、ハギノアレグリアスとサンライズウルスも外に持ち出して追撃を開始する。オーヴェルニュとウェルカムニュース、アイアンバローズはやや行き脚が鈍り、内に突っ込んだスマッシングハーツがどこまで伸びるかといった様相で直線に向いてきた。

400のハロン棒を通過して、逃げるプロミストウォリアのリードは1馬身。迫るハヤブサナンデクンの脚色は悪くない。

──が、プロミストウォリアが決して抜かせない粘り腰を見せる。逆に後方から襲撃するハギノアレグリアスの末脚がハヤブサナンデクンを上回り、逃げるプロミストウォリアの追撃を開始。だが、抜かせない。プロミストウォリアはここでもう一度脚を伸ばし、ハギノアレグリアスも振り切りにかかった。

驚異の2枚腰で2段ロケットが点火したプロミストウォリアのリードはさらに2馬身に広がる。結局、迫るハギノアレグリアスも、ハヤブサナンデクンにも抜かせずに、冬の名古屋、砂塵を巻き上げてプロミストウォリアは超新星となった。

上位入線馬と注目馬短評

1着 プロミストウォリア

7戦5勝2着1回、抜群の安定感を誇りながらも怪我でなかなか走ることができていなかった6歳牡馬の才能が、ついに完全に開花した。

今回の走りはまさに「逃げて差す」といった凄みを感じる。マイペースで逃げ、影をも踏ませぬ逃走劇。ここまで檜舞台に立つことができなかったが、混戦のダート界で抜け出した存在となる可能性は非常に大きいのではないだろうか。

鞍上のムルザバエフ騎手はこの1ヶ月で重賞2勝目。そのどちらも逃げ切り勝ちと、その手腕が光る。

2着 ハギノアレグリアス

前走のみやこSに続いてここも2着。

空馬に絡まれたことで若干ながら脚を余したようにも見えたレースでもあった。

上がり最速で最後の直線を駆け抜けてきているように、このまま無事に行けば重賞タイトルに手が届く日は近いだろう。

3着 ハヤブサナンデクン

先団追走からプロミストウォリアに食い下がり、最後はハギノアレグリアスにこそ交わされたものの、後続には詰め寄られず3着を守り抜いた。

シリウスS以後、安定して上位に食い込んできており、クラス慣れは完全にした。相手なりに走るであろうタイプだけに、人気を落としたとしても注目度は大か。

総評

前半1000mをゆったりとした流れで駆け、その後も先団でレースを進めた馬たちが好走した今年の東海S。

中でも逃げ切ったプロミストウォリアはこれで復帰後4連勝となり、彗星のごとく砂路線の本命級に躍り出てきた。父マジェスティックウォリアーにとってもスマッシャー、サンライズホープに続く3頭目の重賞勝ち産駒。サウスヴィグラスに次ぐ、ダート界の新ホープ種牡馬としての地位を確実に築きつつある。

1.2.3着の馬達ともに、昨年の大舞台では日の目を見なかった新星たち。この後の活躍に大きな期待を寄せられずにはいられない、そんな東海Sだった。

写真:かぼす

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