[重賞回顧]逃げ切りから一転!変幻自在の世界最強馬イクイノックスが、大外ひとまくりでGⅠ4連勝を達成。~2023年・宝塚記念~

レース史上最多タイとなる8頭のGⅠ馬が出走した宝塚記念。上半期の総決算に相応しい豪華メンバーが顔を揃えた。

17頭立ての多頭数に、直線が短い内回りコース。さらに、4で割り切れない非根幹距離で施行される点など。波乱を巻き起こしそうな要素が複数存在し、例年であれば大混戦になってもおかしくない条件。ただ、2023年の宝塚記念に関しては、圧倒的支持を集めた本命馬がいかに強い勝ち方をするか──。これが最大の見所となった。

その1番人気に推されたのがイクイノックス。皐月賞、ダービーは連続2着と惜敗したものの、休み明けの天皇賞(秋)でGⅠ初制覇を飾ると有馬記念も連勝。年度代表馬のタイトルを手にした。そして、今期初戦となった前走のドバイシーマクラシックは、スピードの違いでハナに立つと、直線もほぼ追うところなく楽勝。この内容が評価され、ワールドベストレースホースランキングでは、2023年6月現在、単独1位にランキングされている。今回は、それ以来3ヶ月ぶりの実戦ながら、「世界最強馬」として負けられない戦い。結果よりも、むしろ勝ち方に注目が集まっていた。

大きく離れた2番人気に、同じく4歳牡馬のジャスティンパレス。ホープフルS2着から挑んだ2022年の春二冠はともに9着と敗れるも、秋初戦の神戸新聞杯を完勝し、菊花賞でも3着と好走。さらに、今期初戦の阪神大賞典を勝利すると、天皇賞(春)も完勝しGⅠウイナーの仲間入りを果たした。全5勝中4勝を挙げたC・ルメール騎手から乗り替わるものの、神戸新聞杯と菊花賞でコンビを組んだ鮫島克駿騎手が再び騎乗。イクイノックスとの天皇賞馬対決を制してGⅠ連勝なるか、期待されていた。

最終的に単勝オッズ10倍を切ったのはこれら2頭。以下、今回と同じコースでおこなわれたエリザベス女王杯を制し、母ジェンティルドンナに続いてGⅠ馬となったジェラルディーナ。菊花賞でジャスティンパレスを破り優勝したアスクビクターモア。そのジャスティンパレスには及ばなかったものの、天皇賞(春)で2着と好走。復調の兆しを見せたディープボンドの順に人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、横一線の揃ったスタート。その中から、カラテとダノンザキッドがいこうとするところ、手綱を押してユニコーンライオンが先頭に立った。これに続いたのが同じ8枠のドゥラエレーデで、3番手はカラテとダノンザキッド、アスクビクターモア、ブレークアップの4頭が横並びとなった。

中団には、ライラック、ディープボンド、ジオグリフなど6頭ほどが固まり、2番人気のジャスティンパレスは13番手。さらにヴェラアズールを挟んでジェラルディーナは後ろから3頭目に位置し、イクイノックスはその直後に控えていた。

1000m通過は58秒9の平均ペース。ユニコーンライオンから最後方のスルーセブンシーズまではおよそ12馬身で、多頭数のわりにさほど縦長の隊列にはならなかった。

その後、3コーナーに入ると、早くもジェラルディーナが上昇を開始。すると、イクイノックスもこれを追いかけるようにして、まず2頭を交わす。さらに、大外を回りながらも4コーナーでもう一段加速。中団まで位置を上げたところで、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、馬場の内側で逃げ込みを図るユニコーンライオンに、ドゥラエレーデとアスクビクターモアが襲いかかる。しかし、大外からジェラルディーナとイクイノックスがこれらをまとめて交わすと、残り100mでイクイノックスが単独先頭に躍り出た。

これに対し、内からスルーセブンシーズと、大外からジャスティンパレスが激しく抵抗。とりわけ、スルーセブンシーズの追い上げは急で、体半分のところまで迫ったが、これらの追撃を凌いだイクイノックスが1着でゴールイン。クビ差2着にスルーセブンシーズが続き、1馬身差の3着にジャスティンパレスが入った。

良馬場の勝ちタイムは2分11秒2。世界ランク1位のイクイノックスが、前走の逃げ切りから一転。大外ひとまくりの豪快な競馬で、GⅠ4連勝を達成した。

各馬短評

1着 イクイノックス

帰国初戦に加え、初めてとなる西日本での競馬など簡単ではない条件。さらに、レースでもスタート直後に囲まれ、ポジションを下げざるを得ない厳しい展開に。

それでも、ルメール騎手がこの馬の強さを信じ、距離損承知の安全策で大外ひとまくりを敢行。4コーナーで物見をしたそうで、想像以上に外を回ることになってしまったが、馬もその信頼に応えしっかりと勝ち切った。

条件的には、正反対ともいえる宝塚記念と天皇賞(秋)。これら2レースを連勝することは難しく、グレード制導入以降でも3頭しか達成していない偉業だが、逆の順番。天皇賞(秋)勝利→翌年の宝塚記念も勝利となるとさらに難しく、天皇賞(秋)が2000mに短縮されてからは初の快挙となった。

そんな、対照的ともいえる2レースを勝ち切るあたりが、世界最強馬たる所以。秋の最大目標はジャパンCとのことで、ここを勝利すると、史上最強クラスの名馬となるだけでなく、歴代獲得賞金1位の座も見えてくる。

2着 スルーセブンシーズ

宝塚記念に強い牝馬。父も制したレース。同馬の主戦だった池添謙一騎手に乗り替わり。さらに、当レースを連覇したクロノジェネシスと同じ母父クロフネなど、好走しそうな要素は多数あった。

それでも、中山牝馬Sからという前例のないローテーションで、あわやの激走。それも、直線で一度は完全に進路を失くしながらのクビ差2着で、本当に惜しいレースだった。

秋は、9月の愛チャンピオンSや凱旋門賞にも登録しており、オルフェーヴルの全兄ドリームジャーニーの産駒で、欧州の馬場にも適応しそう。また、有馬記念に出走することがあれば、その際も注目したい。

3着 ジャスティンパレス

上位2頭よりも少し前に位置し、勝負所でイクイノックスとともに上昇。距離適性の差か、追い比べで僅かに後れを取ったが、それでも見せ場たっぷりの3着だった。

2022年のタイトルホルダーは連勝したものの、近年の宝塚記念は、ゴールドシップやイクイノックスの父キタサンブラックなど、天皇賞(春)1着馬が苦戦することも多いレース。タイトルホルダーの前にこれら2レースを連勝したのは、2006年ディープインパクトまで遡らなければならないほど。

また、ジャスティンパレスの父でもあるディープインパクトは、種牡馬として11年連続リーディングサイアーの座を獲得しているが、牡馬の産駒にとって宝塚記念は鬼門で、過去[0-1-0-20/21]。瞬発力を武器に活躍する産駒が多いだけに、持久力勝負になりやすい宝塚記念を苦手とするのは、ある意味当然。そのため、これらの不利な要素を覆して好走したことには、2番人気とはいえ驚きしかなく、いかに現状が充実しているかの証ともいえるだろう。

今後は、同じ父を持つ先輩フィエールマンのように、天皇賞(春)連覇はもちろん、秋の古馬中距離三冠、特に有馬記念での好走が期待される。

レース総評

前半1000m通過が58秒9で、12秒4を挟み、同後半は59秒9=2分11秒2と、前後半はほぼイーブン。これをさらに詳しくみると、最初の3ハロンが速く、真ん中の4ハロンは緩んだものの、上がり4ハロンは再びペースアップしていた。中・長距離戦の逃げ・先行馬にとって、この「急-緩-急」の流れは理想的とされる。

しかし、このレースでは「緩」の部分で12秒後半から13秒台のラップが一度も無く、余力を残していたイクイノックスが先頭に立ったラスト1ハロンは、なんと加速。同日の阪神芝は前にいった馬が非常に有利(宝塚記念までの5レース中4レースで4角先頭の馬が連対)だったが、さすがにこの展開では厳しかった。

ちなみに、阪神でおこなわれた2000年以降の宝塚記念で、最後の1ハロンが加速ラップとなったのは、他に2013年のゴールドシップだけ。そのため、5着ディープボンド以外は差し・追込み馬が上位を占め、人気も上位5頭中4頭が掲示板に載る実力どおりの結果だった。

また、2コーナーで最後方に位置していたスルーセブンシーズと、そのすぐ前に位置していたイクイノックスの2頭によるワン・ツーは、データが残っている1986年以降の宝塚記念では一度も無く、GⅠ馬が8頭出走していたとはいえ、ジャスティンパレスも含めた上位3頭の力はやや抜けていたと考えられる。

それでも、勝ったイクイノックスはスタートから厳しい競馬を強いられ、勝負所で距離ロス承知のまくりを敢行と、楽な競馬ではなかった。もちろん、2着スルーセブンシーズも直線で不利を受けたが、同馬との差は僅かでも、イクイノックスの「クビ差完勝」だったといえるのではないだろうか。

そして、短評でも書いたように、イクイノックスは東京、中山、ドバイ、阪神内回りと、条件が大きく異なる競馬場でビッグタイトルを獲得してきた。

さらに、脚質も逃げ、差し、追込み、まくりと自由自在。世界最強の名に恥じない完全無欠の存在になりつつあり、唯一先着を許したままになっているドウデュースとの再戦も期待される。

写真:水面

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