2020年の3歳クラシック戦線は、コントレイルが日本ダービーを優勝した瞬間から、およそ5ヶ月ものあいだ「史上初めて同じ年に牡・牝馬とも無敗の三冠馬が誕生するのか」という話題一色になった。秋になり、まずコントレイルが神戸新聞杯を楽勝してその実現性を一気に高めると、秋華賞ではデアリングタクトがぶっつけ本番をものともせずに、先んじてその課題をクリアした。

3歳牡馬クラシックの最終戦・菊花賞は、三冠レースの中で「最も強い馬が勝つ」と言われてきたレースである。中央競馬には、平地の3000m以上で行われるレース自体が年間6レースしかなく、菊花賞ではスタミナや底力は言うまでもなく、近年ではスピードも重要な要素となっている。また、各馬の総合力が求められるせいか、特に三冠馬が誕生した年の菊花賞は、1994年のナリタブライアンの7馬身差圧勝を筆頭に、大きな着差がつく傾向にあった。

最終的に単勝オッズ1.1倍の1番人気に支持されたコントレイルには、「史上初・父仔そろって無敗の三冠達成」という別の記録もかかっていた。しかしダービーや神戸新聞杯の内容からも、これに関しては達成することはほぼ間違いという意見が多く、そうしたファンにとって重要なのはむしろ「過去の三冠馬を上回るくらいのインパクトを残す勝ち方ができるか」という点だったかのかもしれない。

実際、単勝オッズ10倍を切ったのはコントレイルのみ。
人気順でその後に続いたのは、前年の菊花賞馬ワールドプレミアを兄に持ち、日本ダービーで3着に入ったヴェルトライゼンデで、そこに6戦4勝2着2回と底を見せておらず重賞のラジオNIKKEI賞とセントライト記念を連勝中のバビットが3番人気で続いた。

レース概況

ゲートが開くと、マンオブスピリットのダッシュがつかなかったものの、それ以外の17頭はきれいなスタートを切った。いつも通りバビットが先手を主張しようとするが、逃げ宣言をしていたキメラヴェリテがそれを制して先頭に立ち、レクセランスが3番手に続く。コントレイルは、これまでどおり好位の7番手につけたが、その背後につけたアリストテレスとルメール騎手のプレッシャーにいらついたのか、少し折り合いを欠いている様子だった。対するヴェルトライゼンデは、そのアリストテレスの後ろ、ちょうど真ん中9番手を追走して1周目のスタンド前に入った。

最内を通ったヴァルコス以外の17頭は、馬場の悪くなった内側およそ5頭分を開けて走り、最初の1000m通過は1分2秒2。馬場状態を考慮すればこれはほぼ平均ペースの流れといえた。
大きく隊列が入れ替わることもなく、長距離戦特有の駆け引きや一気に捲ってくる馬なども特にいないまま、レースは中間点を過ぎて、2コーナーから再び向正面、さらにスタート地点を通過。
そしてレースは、2度目の坂越えを迎える。

2000mの通過タイムは2分4秒8で、引き続き前半の1000mとほぼ変わらないペースで淡々と流れていく。勝負どころの坂の下り、キメラヴェリテとレクセランスが脱落してバビットが先頭に立ち、それをガロアクリークとディープボンドが追う。コントレイルは、依然手綱を抑えられたまま5番手の外を追走するが、さらにその外から、今度は馬体を被せるようにしてアリストテレスが一気に並びかけてきた。

直線に入ると、残り300mの地点でガロアクリークとディープボンドを交わしてコントレイルとアリストテレスが併せ馬で先頭に立つ。
サトノフラッグがそれら二頭を追うが、ジリジリと差が広がり始めていた。

そして残り200mからは、おそらく戦前はほとんど予想されていなかったであろう完全な一騎打ちとなり、福永騎手とルメール騎手のトップジョッキーによる壮絶な叩き合いが展開された。

夏の上がり馬が無敗の二冠馬を一気に飲み込んでしまうのか。

──しかしコントレイルは屈することなく、最後までクビ差を保ったまま先頭で栄光のゴール板を駆け抜け、見事に史上初となる「父仔揃って無敗の三冠達成」と「同一年に牡・牝馬とも無敗でクラシック三冠達成」という快挙を実現させた。

最後の最後までコントレイルを苦しめたアリストテレスが大健闘の2着。そこから3馬身半離れた3着にサトノフラッグが入り、こうして予期せずもレース史上に残る好勝負となった2020年の菊花賞は幕を閉じた。

各馬短評

1着 コントレイル

高速決着となる年は内枠有利の菊花賞だが、今年は良馬場発表という表記とは裏腹に大変タフなコンディションで、さらに当週は外枠有利の馬場となっていた。また、この馬の母系に流れるのはファピアノ、マンノウォー、ストームキャットという究極にスピードを高めるような血で、お世辞にも3000mに適性があるとはいえない。しかし、枠順・馬場・距離という三つの大きな不利に加えて、今回はレース中も終始エキサイトしていたが、福永騎手が懸命にそれをなだめ、克服して勝ちきったあたり、父を超える史上最強馬となる可能性は十分にある。

今後は、様子を見ながらジャパンカップを目指すとのことだが、当然のことながら京都の3000mよりは府中の2400mの方が適条件となる。
むしろ心配なのは、タフな馬場で3000mを走り、最後は叩き合いとなったことによって疲れが残らないかという点だろう。

2着 アリストテレス

先週のソフトフルートに続き、前走中京で行われた2勝クラスを上がり上位で勝った馬が今週も好走した。
タフな馬場を味方につけたことや長距離適性が高いのはもちろんだが、本来GⅠでは不利とされる乗り替わりにも関わらず、ルメール騎手がスタートから終始コントレイルのみにターゲットを絞って最後の最後まで苦しめた。

今後どういった路線を歩むか注目されるが、この馬はコントレイルとは逆にスタミナや底力が求められるレース、例えば有馬記念や、来年阪神で行われる天皇賞春、宝塚記念で狙える面白い存在になりそうだ。

3着 サトノフラッグ

今週もまた、関西圏のGⅠで国枝厩舎の実力を思い知らされることとなった。

パドックでも絶好の気配を見せ、後方にいた馬の中では最先着を果たした。
ノーザンファーム生産のディープインパクト産駒で、母の父は現役時代アルゼンチンで走ったNot for Saleだが、馬場が渋った弥生賞での勝ちっぷりやダービーの敗戦、そして今回のレースを見る限り、どちらかというとDamascusのスタミナと底力を色濃く受け継いでいるようである。

総評

秋華賞に続いて、今週もタフな馬場への適性が勝負の分かれ目となった。しかし、前述したとおり、枠順・馬場・距離という3つの不利を克服してもなお勝ちきったコントレイルの強さは、偉大すぎる父を超える可能性も十分にあると思わせるものだった。そのディープインパクト産駒はこれで菊花賞3連覇、直近5年でも4勝と、完全に得意レースとしている。

また、先週に引き続きエピファネイア産駒の好走も見逃せない。
思えば、自身が現役時に勝利した菊花賞とジャパンカップは、前走からの距離延長や道悪馬場をものともせずに好タイムで圧勝したレースだった。次週の開催を最後に、2023年4月まで京都競馬場は改修工事に入るため、直線が長くそして急坂のある中京や阪神競馬場で開催されるレースが増えることも、エピファネイア産駒には好都合となりそうだ。

秋華賞に続き菊花賞も素晴らしい秋晴れのもと行われ、最後の直線では菊花賞史に残るような好勝負が展開され、今週もゴール前で大きな大きな拍手と歓声が上がっていた。
それは、レースを見た多くの人々を感動させ、勇気づけるものとなったのではないだろうか。
既に発表されているとおり、11月の開催からは引き続き制限付きではあるものの、これまでよりもさらに入場人員を増やして開催が行われるとのことだ。

まだ先は長いと思うが、競馬界も一歩ずつそして着実に、日常を取り戻しつつある。

あなたにおすすめの記事