[ヴィクトリアマイル]ストレイトガール、ソングライン、ヴィルシーナ。前走10着以下から巻き返してヴィクトリアマイルを制した馬たち

春の古馬マイル女王を決めるヴィクトリアマイルは、前週のNHKマイルCと同じく波乱が起きやすいレースである。ウオッカやアーモンドアイ、グランアレグリアといった名牝が圧倒的な強さを誇示した一方で、2015年のように歴史的大波乱となったレースもあった。

その要因の一つと考えられるのが前走大敗した馬の巻き返しで、過去の勝ち馬20頭中、半数近くの9頭は前走6着以下に敗れた馬。さらにそのうちの3頭は、前走10着以下に敗れた馬だった。好走率を見れば、前走2、3着馬がリードしているものの、前走大敗した馬たちも決して無視できない存在。わずかと思えるような条件変わりが、結果に大きな影響を及ぼしているのかもしれない。

今回は、前走10着以下から巻き返してヴィクトリアマイルを制した馬たちを振り返っていきたい。

■2015年 ストレイトガール

フジキセキ産駒のストレイトガールは、栗東・藤原英昭厩舎からデビューを果たした。初戦は8月札幌・芝1200mの新馬戦で、序盤は逃げたものの徐々にポジションを下げ、結果は11着。その6日後の未勝利戦で大きな変わり身を見せ勝利を手にしたが、この時点で、ストレイトガールがGⅠの舞台に度々出走する馬になると予想できた者はほとんどいなかっただろう。

ただ、ストレイトガールには北海道の水がよく合った。2勝目は翌年6月。函館・芝1200mのレースで、1年後にあげた3勝目も同じコースの平場戦だった。そして、この3勝目が飛躍の大きなきっかけとなった。

そこからわずか2ヶ月弱、北海道シリーズで怒涛の4連勝を成し遂げたストレイトガールは地元・西日本に戻っても結果を出し、5歳初戦のシルクロードSで重賞初制覇。続く高松宮記念とヴィクトリアマイルでも3着と好走した。さらに、直線で完全に進路を失った函館スプリントSは11着と敗れるも、スプリンターズSでは勝ったスノードラゴンから0秒1差の2着に惜敗。そして、年末の香港スプリントでも3着と、ビッグタイトルにあとわずかのところまで迫っていた。

ところが、満を持して臨んだ6歳初戦の高松宮記念で1番人気に推されたストレイトガールは、13着と大敗を喫してしまう。陣営が「敗因が全く掴めない」と首をかしげる中、シーズン2戦目に選択したのがヴィクトリアマイルだった。

高松宮記念の大敗と2ハロンの距離延長が懸念されたのか、前年の3着馬でありながら5番人気に甘んじていたストレイトガール。序盤は、好ダッシュを利かせて逃げるミナレットから5馬身差の5番手を追走する。直後に1番人気のヌーヴォレコルトがつけ、2番人気ディアデラマドレは後ろから4頭目に控えていた。

前半800m通過は45秒5とミドルペースでありながら、ミナレットと2番手ケイアイエレガントの差は、この時点でおよそ7馬身。3番手もさらにそこから3馬身ほど離れてストレイトガールまでは15馬身近い差で、かなり縦長の隊列となる中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ってもミナレットは快調に逃げ脚を伸ばし、坂上でもケイアイエレガントとの差は4馬身ほどあった。しかも、3番手はさらにそこから5馬身ほど離れ、18番人気馬と12番人気馬による大波乱の決着が、にわかに現実味を帯び始めた。

それでも、3頭横一線の3番手争いから抜け出したストレイトガールは懸命に前を追い、残り100mで先頭に躍り出たケイアイエレガントとの差を一気に詰めると、最後の最後でアタマ差交わしさったところがゴールだった。

勝ち時計の1分31秒9は、当時のレースレコードタイとなる好記録。先手必勝とばかりに積極的なレースを展開した先行2頭の粘りも見事だったが、生涯2度目のマイル戦で大きな変わり身を見せたストレイトガールのGⅠ初制覇は、あまりにも鮮やかな大逆転劇だった。

また、1着ストレイトガール、2着ケイアイエレガント、3着ミナレットによる3連単の払戻しは2000万円を超える大万馬券となり、2026年5月10日現在でも、3連単では史上7位の高額配当。GⅠでは断トツ1位の記録となっている。

その後、ストレイトガールはセントウルS4着から臨んだスプリンターズSを快勝。2つ目のビッグタイトルを獲得したものの、引退レースの香港スプリントで9着に敗れてしまった。

ただ、この敗戦が不本意だったのか、オーナーサイドから現役続行の申し入れがあり、引退を撤回して7歳シーズンに臨んだものの、初戦の阪神牝馬Sでまたしても9着と敗れてしまった。それでも、連覇が懸かるヴィクトリアマイルに出走したストレイトガールは、中団追走から迎えた直線半ば、馬名のとおり内ラチ沿いを真一文字に鋭伸すると2番手以下を一気に突き放し、前年の二冠馬ミッキークイーンや、前年のジャパンC馬ショウナンパンドラに2.1/2馬身差をつける完勝。またしても鮮やかすぎる逆転劇で、現在のところ唯一となる7歳牝馬によるGⅠ制覇を成し遂げ、この勝利を花道に現役引退となった。

■2023年 ソングライン

美浦・林徹厩舎からデビューしたソングラインはキズナの産駒。初勝利は2戦目で、リステッドの紅梅Sも続けて勝利したものの、他馬と接触する不利が響いた桜花賞は15着と大敗してしまった。

それでも、続くNHKマイルCでこの先ライバルとなるシュネルスマイスターと大接戦を演じてハナ差2着に巻き返すと、秋には富士Sで重賞初制覇。さらに、年明けはサウジアラビアのGⅢ1351ターフスプリントを勝利し、帰国初戦のヴィクトリアマイル5着から臨んだ安田記念で、今度はシュネルスマイスターの追撃をクビ差押さえGⅠウイナーの仲間入りを果たした。

ところが秋以降は順調さを欠き、セントウルSで5着に敗れると、目標にしていた米国のブリーダーズCマイルは喉の腫れで遠征を断念。年末の香港マイルも右前脚の蹄の内側を痛めて出走を辞退し、連覇を狙った年明け初戦の1351ターフスプリントも10着と大敗してしまう。

待望のGⅠ制覇から一転、度重なるアクシデントに見舞われたソングラインの帰国初戦として選ばれたのは、前年5着に敗れたヴィクトリアマイルだった。

このレースで初めて戸崎騎手とコンビを組んだソングラインは、五分のスタートを切ると中団を追走。いつもは後方待機の1番人気スターズオンアースが5番手につける意外な展開にも動じず、その直後のインで息を潜め、機を窺っていた。

前半800m通過は46秒2のミドルペースながら、前から後ろまでは12、3馬身の差。出走16頭は一団に近い隊列となって進み、その順序にほとんど変化がないままレースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、逃げるロータスランドが逃げ込みを図りスパート。一旦は2馬身ほどのリードを取ったものの、道中2番手を追走していた前年覇者ソダシが残り200mで先頭に躍り出た。

一方、スターズオンアースとともに前を追うソングラインは、ソダシとロータスランドの間にできたスペースに進路を取り鋭く伸びた。するとソダシとの差はみるみる縮まり、最後の最後、内からわずかに交わしたところがゴールだった。

直前に降り出した雨を切り裂くような末脚で、ソダシの連覇を阻止すると同時に高らかに復活をアピールしたソングラインは自身2度目のビッグタイトルを獲得。現役最強牝馬の座に就いた。

また、戸崎騎手のヴィクトリアマイル3勝は、騎乗馬の前走着順が13、9、10着といずれも大敗からの巻き返しだった。そのうち2度は初騎乗で、それを考慮すればいっそう価値ある勝利だったといえるだろう。

ソングラインはその後、中2週で出走した安田記念も連勝。グレード制導入以降では3頭目の連覇だった。そして、秋は毎日王冠2着から臨んだブリーダーズCマイルで5着に健闘。結果的にこれが引退レースとなって故郷のノーザンファームで繁殖入りすることが発表され、翌1月、JRA賞最優秀4歳以上牝馬と、新設された最優秀マイラーのタイトルを同時に受賞した。

■2014年 ヴィルシーナ

プロ野球の横浜ベイスターズや米大リーグのシアトルマリナーズで活躍した「大魔神」こと佐々木主浩氏が所有したヴィルシーナは、ディープインパクトの産駒。母ハルーワソングも世界的名牝バラッドの一族という超良血馬で、栗東・友道康夫厩舎からデビューを果たした。

初戦は8月末におこなわれた札幌・芝1800mの新馬戦でここを快勝すると、黄菊賞3着をはさみ、エリカ賞と年明けのGⅢクイーンCを連勝。クラシック候補に躍り出た。

しかし、そこからの三冠レースとローズSは、同じディープインパクト産駒のジェンティルドンナと熱戦を演じながらも、すべて2着に惜敗。さらに、ジェンティルドンナ不在のエリザベス女王杯でも伏兵レインボーダリアの前に2着と敗れてしまった。

それでも翌年、産経大阪杯6着から臨んだヴィクトリアマイルを優勝。待望のGⅠ制覇を成し遂げ、ライバル・ジェンティルドンナとの再戦に向けさらなる飛躍が期待された。

ところが、続く安田記念から一転して不振に陥ったヴィルシーナは、なんと6戦連続で7着以下に敗れてしまったのである。それまで、産経大阪杯以外の9戦はすべて3着内を確保してきたヴィルシーナからは想像もできないような敗戦の連続。レースで闘志を見せなくなったことが敗因と考えられ、年が明けた5歳になってもその状況は変わらず、東京新聞杯と阪神牝馬Sもともに11着と敗れてしまった。

ただ、安田記念からジャパンCまでの4戦は、それまで主戦を務めていた内田騎手が鞍上から離れていたことも事実だった。そんな内田騎手から、先行して交わされるのではなく、後方からの競馬で相手を交わして勝つという感覚を取り戻してもらうため、短距離戦に出走して後方からの競馬を試してはどうかとの提案があった。そうして臨んだ阪神牝馬Sは、結果こそ後方追走から前述のとおり11着と敗れたものの、陣営は復活の手応えを感じとっていた。とはいえ、連覇が懸かるヴィクトリアマイルは、18頭立ての11番人気と完全な伏兵扱い。近走の結果だけを見ればやむなしの評価だった。

しかし、歴史的名牝のジェンティルドンナと再三にわたって好勝負を演じたヴィルシーナは、やはり並の牝馬ではなかった。復活を期すこの大一番で抜群のスタートを決めると、さらには内田騎手にも促され、内からいく構えを見せたクロフネサプライズを制して先頭に立った。現状をなんとか打破したいという内田騎手の気持ちが感じられるようなスタート直後の攻防だった。

そんな鞍上の気迫にヴィルシーナも応えた。前半800m通過は46秒2と淀みなく、一見、直線の長い東京競馬場では先行馬にとって厳しいと思えるような流れ。ただ、瞬発力勝負では分が悪いヴィルシーナにとっては絶妙な逃げだった。

さらに、後方各馬がバラバラに追走したため、隊列が30馬身近い縦長になったのも好都合で、そこから再び加速して迎えた直線。内田騎手は後続を引きつけることなく、すぐに追い出しを開始した。そんなヴィルシーナに、まず迫ってきたのは道中3番手に位置していたケイアイエレガントで、残り200mを前に2頭の馬体が合わさったようにも映った。

しかし、そこでヴィルシーナがもう一段加速すると、観念したようにケイアイエレガントは失速。それでも、二の矢、三の矢とばかりに、内からメイショウマンボ、真ん中からストレイトガール、さらに前年ハナ差の大接戦を演じたホエールキャプチャが外から飛んできたものの、ヴィルシーナはこれらの追撃をことごとく凌ぎ、最後はメイショウマンボに1/2馬身差をつけ先頭ゴールイン。前年覇者の意地と底力を見せつけるような迷いなき逃走劇は、レース史上初の連覇という最高の結果を導き出した。同時に、前走の大敗が決して無駄ではなかったことを証明する劇的な復活勝利だった。

その後、ヴィルシーナは宝塚記念でも3着と好走し、年末の有馬記念(14着)を最後に引退。生まれ故郷のノーザンファームで繁殖入りを果たした。母としては、25年までに送り出した産駒5頭のうち初仔ブラヴァスが新潟記念を、3番仔ディヴィーナがアイルランドトロフィー府中牝馬Sを勝利し重賞ウイナーとなった。また、ディヴィーナと4番仔グラヴィタスからは既に産駒が誕生しており、ヴィルシーナの全妹で秋華賞とドバイターフを制したヴィブロスとともに、この一族はますます繁栄していくことだろう。

写真:はねひろ(@hanehiro_deep)、うみ、あかひろ

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