[対談]明暗が分かれた!?ベテラン種牡馬2頭の最新傾向を探る──治郎丸敬之×緒方きしん

ディープインパクトとキングカメハメハという二大種牡馬を失った日本競馬界。
ロードカナロアをはじめ、エピファネイア・キズナ・リアルインパクト・ゴールドシップなど、新世代種牡馬の活躍が目立つ一方で、2019年の獲得賞金は2歳馬も古馬もディープ・ハーツというベテランによるワンツーで終わった。まだまだ若い世代には負けられないといったところだ。
今回はそんな「ベテラン種牡馬」をテーマに、2歳馬の期待値を考えていく。
語り手は、ベストセラー「馬体は語る」の著者・治郎丸敬之さんと、「天才のPOG青本」執筆陣の1人である緒方きしん。

緒方:さて、POG2020-2021シーズンに向けた対談も、今回が最終回です。6回にわたり各種牡馬について語り尽くしてきました。前回・前々回は連続してディープ関連のテーマを取り上げてきました。

緒方:新旧の種牡馬が激突した今年のクラシック戦線。世代交代の波がすぐそこまできていますが、ベテラン種牡馬のもうひと踏ん張りも見たいところです。果たして新シーズンは、ベテラン種牡馬たちがどんな活躍を見せてくれるのでしょうか?

治郎丸:2020年クラシック世代はハーツクライが当たり年と呼ばれていたけど、今年も引き続きハーツの当たり年になるだろうね。去年現地でハーツを見たけど、まだ若々しくてオーラもすごかった。同世代が亡くなっていくなかであそこまで肌ツヤがいいというのは、それだけでもすごいこと。なんというか「生き残ったもの勝ち」という言葉すら浮かんだよ。キンカメ・ディープという二大名種牡馬がいる「悪い時代」に生まれていたのに、その2頭に十分食らいついていた。その歴史的名種牡馬2頭が亡くなっていきなりトップに立ったとしても、不思議ではないだけの結果を残してきている。

緒方:僕は昨年「競馬の天才!デジタル」さんのPOG記事で「今年はハーツクライの当たり年になる!」と言って、ハーツクライ産駒に絞った特集記事を書いたんですよ。だからそういう意味では、2020年クラシックは狙い通りでした。ただ、その記事の締めくくりの言葉で「この中にリスグラシューを超える活躍馬がいても不思議ではない」といった旨のことを書いたのですが、そこから宝塚記念・コックスプレート・有馬記念と3連勝。一気に歴史的な超名牝になってしまったんですよね(笑)さすがに「リスグラシュー超え」というのは……。

治郎丸:さすがにハードルが高すぎるね(笑)でもリスグラシューって急に開花したと思っている人もいるかもしれないけど、元々良い馬だったよ。僕はアルテミスS制覇のタイミングで、彼女を「ハーツ産駒の成功例モデル」に据えるようになっていた。マイル路線狙いの牝馬は、ハーツクライにありがちな緩さを補える走りができる。ハーツクライ産駒は全体的に気性が良いタイプが多いから、牝馬の持つカリカリした部分もカバーしてくれると思ってるんだよね。古馬になって長距離路線で活躍する馬が多いのも、気性が良い裏付けになると思う。

緒方:アルテミスSで見出していたとは、めちゃくちゃ早いですね。まだデビュー3戦目じゃないですか!僕はどうにも、ハーツクライ産駒の馬体って良し悪しがわからなくて……。POGでもどんな馬体のハーツ産駒を狙えば良いのか、正直言って自信はないです。

治郎丸:後脚の伸びがよかったり、馬体のフレームがしっかりしている馬が良いね。リスグラシューは元々が華奢であとから肉がついてきたタイプだったけど、シルエットは最初から良い馬だった。

緒方:なるほど。じゃあハーツクライ産駒を見極めるカギはシルエットだとして、今年の2歳馬に良さそうな馬はいますか?

治郎丸:ラフルオリータ(母リュシオル)は、すごく良い馬だと思う。まわりに言ってもなかなか信じてくれないんだけど(笑)ディープ産駒編で紹介したブレイブライオン(母フラーテイシャスミス)と同じくライオンレースホース×ノーザンFという組み合わせなんだけど、これはPOG的には穴狙いとして最適な1頭だと思うな。

緒方:リュシオル懐かしいですね。アネモネSで1番人気になるなど、クラシック路線で活躍を期待される好素材でした。血統も良い馬でしたよね。

治郎丸:そうそう、スリープレスナイトの全妹。僕はヒシアマゾンが好きだから、この牝系の馬は応援しているんだよね。ラフルオリータ(母リュシオル)は、母父のクロフネや叔母のスリープレスナイトといったスプリンター血統ならではの良さを受け継ぎつつ、首回りはハーツクライらしさを持っている。パワーとスピードを兼ね備えた競走馬になりそうだね。馬体が成長してきているし、何より性格が良さそう。現場で担当している人たちからの評判もすごく良いしね。

緒方:それは楽しみな馬ですね!僕はハーツクライ産駒に関しては本当に自信ゼロなんですが、サンデーアーサー(母シンハディーバ)は馬体がピカピカでカッコ良く見えました。牝馬だとダーレーのシーニックウェイ(母オーシャンウェイ)が美しくて印象に残っています。同じ「ベテラン種牡馬」という括りで思いつくのはキングカメハメハですが、こちらはヴェルナー(母アディクティド)、ヴァイスメテオール(母シャトーブランシュ)あたりが好馬体に映ります。

治郎丸:キングカメハメハなぁ……どうだろう、これから活躍馬を出してくれるんだろうか?なんか最近のキングカメハメハ産駒は傾向が変わりつつあるよね。

緒方:たしかに去年も馬体的によく見える馬はたくさんいたんですが、その割にクラシック戦線を賑わせるほどの馬は登場しませんでしたね。種付け数を制限している影響が大きいんでしょうが、桜花賞・皐月賞・オークス・ダービーと、キングカメハメハ産駒は出走なし。稼ぎ頭ははアスター賞・ジュニアCを制覇しスプリングSで3着のサクセッションと、例年のもの凄い成績に比べると物足りなかった印象です。たしかに、気になるといえば気になりますね。

治郎丸:そういう意味だとブライアンズタイムの晩年にちょっと似てきている気がする。繁殖の傾向が変わったのか、遺伝子的な原因なのかはわからないけど、一時期ほどの勢いは感じられないんだよなぁ。今年の2歳馬にも晩成型の大物はいるんだろうけど、POGという観点では狙いにくい種牡馬になっているのかもしれないね。

緒方:キングカメハメハの場合、ロードカナロア・ルーラーシップという人気種牡馬を送り出して後継者もしっかりいる状況ですしね。ここに今年産駒がデビューするホッコータルマエ・リオンディーズ・ラブリーデイや、引退したレイデオロあたりが絡んでくるわけですから、種牡馬の父としての地位も安泰です。ただ、種付け数が少なくとも、良血馬との配合は多く少数精鋭を目指しているわけですから、もう1頭、大物を期待したいところでもあります。先程あげた2頭はかなり良い印象を受けましたし、クラブ馬に詳しい高橋楓さんがキャロット注目馬の記事で紹介していたアルマドラード(母ラドラーダ)も、全兄がレイデオロで期待値も高いです。このあたりから活躍馬が出る可能性は十分にあると思います!

治郎丸さんは、今年のハーツクライ産駒の活躍を力強く予言。さらには今後数年にわたっての活躍すら楽しみになる言葉が並んだ。一方でキングカメハメハ産駒の活躍には懐疑的な意見もでたものの、緒方は良血馬2頭に期待をかける。この辺りがPOG戦略に大きく影響を出しそうだ。
いずれにせよ、ディープインパクトとともに一時代を築き上げた名馬・名種牡馬である。
ディープを含めたこの3頭が活躍馬を出せば、クラシック戦線がさらに盛り上がることは間違いない。

ディープ産駒VSキズナ産駒、ハーツ産駒VSジャスタウェイ産駒、キンカメ産駒VSカナロア産駒が見られる今の時代に感謝しつつ、今年のPOGシーズンがどう盛り上がっていくのかを見守りたい。

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