一口馬主をやってたら「ままならない」が「楽」になった話
世の中「ままならない」ことばかり

突然ですが、皆さんには「喜怒哀楽」がありますか? 私にはあります。おそらく、ほとんどの人にあるのではないでしょうか。何せ、生きていればいろいろなことがありますから…。

「喜怒哀楽」というのは、要するに感情のことなので、何かの出来事に対して感情が動くことという風に言い換えることができると思います。

普段の生活を振り返ってみて、よくある感情の動きって何でしょうか。もちろん人それぞれだと思いますが、「ままならないなァ…」という事柄は、結構多いような気がします。

なんといっても、私たちは皆一人で生きているわけではないので、自分の思った通りにならないことがほとんどです。

例えば競馬でも「想定していた展開の通りにならなかった」「期待していた馬の調子が案外よくなかった」「いい感じでレースが進んでいたのにアクシデントで不利を受けた」などなど、様々なケースが考えられます。

こういった「ままならないこと」が起きたときに自分の中に沸き起こる感情のほとんどは、喜怒哀楽に分けると「怒」か「哀」であることがほとんどなのではないかと思います。どちらかといえばネガティブな感情です。

先ほどの競馬の例でいえば、おそらく「それで馬券が外れた」という出来事もセットになってくるので、これはわかりやすく「怒」であり、「哀」でしょう。

一口馬主も「ままならない」

では、より一頭の馬に対しての追いかけ方、見え方が深く濃くなる一口馬主の場合はどうでしょうか。

当然、ものすごく「ままならない」です。むしろ、「ままならないことこそが一口馬主」といっても過言ではありません。

例を挙げてみても、まず自分が出資したいと申し込んだ馬に、首尾よく出資がかなうかどうか…。仮に出資できたとして、その馬が無事にデビューできるのか、そして仮にデビューできたとして世代の1割程度といわれる勝ち上がりを果たすことができるのか…。ままならないことの連続です。生き物なので、怪我をしたり病気になったりすることももちろんあります。

一口馬主は、出資をした馬のあらゆる決断事項について、意見する権限を持たないため、常に成り行きを見守る立場にしか立てません。どちらかというとネガティブな感情を引き起こす「ままならない」を受け入れられないと長続きしないものです。

しかし私の場合は、一口馬主を通じて、この「ままならない」から、「楽」の感情を持てるのだということを、初めて割と早い時期に知ることができました。これは、一口馬主をライフワークとするにあたってはとても幸せなことだと思います。

きっかけは、私の一口馬主初勝利をもたらしてくれた「ポレンティア」という牝馬と、彼女を預かってくれた美浦・田中博康調教師でした。

ポレンティア(2022年12月4日、筆者撮影)
ポレンティアとタナパク先生が教えてくれたこと

ポレンティアは2019年8月の札幌での新馬戦でデビュー勝ち、その後フェアリーSで3着に入り才能の片鱗を大いに見せてくれた素質馬でした。しかしその次走で終始馬体をぶつけ合うような競馬となりリズムを崩した後は立て直しに時間を要し、なんとか5歳秋に2勝目を挙げたのち、クラブ規定の6歳春で引退、繁殖入りとなった馬でした。

クラブ規定いっぱいまで現役を続けてくれ、獲得金についても募集総額をしっかりと上回ってくれたとても孝行な馬であった一方で、もっと上にも行けたかもしれないな…という思いも正直なところ残った馬でもありました。

ポレンティアの競走生活は、新馬勝ちという華々しいスタートに比して「ままならない」事の連続でした。2戦目となったフェアリーSまでの間にも、挫石による回避とそこから3ヶ月ほどの休養も経験しています。

そのような「ままならない」ポレンティアの競走生活に対して、常に納得感を与えてくれたのが、クラブを通じて届けられる田中博康調教師の理路整然とした状況説明でした。どうすればよくなるかという見解の提示、実際に取り組んだことの共有と、その結果を受けての次の打ち手について、率直に出資者に伝えてくれる姿勢を取り続けてくれました。

ビジネスの世界でいう「PDCAをまわす」ということがそのままに当てはまるような田中調教師の近況コメントは、同時に出資者である私に「何が起こっているのか」「どうすればよくなるのか」「今後どういったことが期待できるのか」を考えさせる材料を常に与えてくれました。いわば、「ままならない」と付き合い、折り合うことを教えてくれたのです。

こうした田中調教師のコメントと共にポレンティアの競走生活を追体験していったことで、当たり前にやってくる「ままならない」を考え、時にうまくいって時にまた「ままならない」が繰り返されるサイクルが「楽しく」なったのです。まさに、「ままならない」が「楽」になった瞬間でした。

もちろん、この考え方は日常の「ままならない」にもそのまま当てはまることで、次々やってくる「ままならない」をどうするか考えること、考えたことをやってみることがゲーム感覚となり、時にうまくいったりもすることから、日常の「ままならない」もまた「楽」になったのです。

この考え方を私に教えてくれた田中博康調教師の現在の活躍は皆さんもよくご存じのことと思います。GⅠ・Jpn1を6勝したレモンポップや、BCターフ2着のローシャムパークらを育て、2024年にはJRA最高勝率調教師に輝くなど、まだ40歳という若さで既に名伯楽の入り口に立ったと思わせる活躍ぶりでした。しかし上述の姿勢を知った後であれば、それも納得という方が多いのではないでしょうか。


一口馬主で「ままならない」が「楽」になった、配当という直接的な利益と同じかそれ以上に、私の生活にポジティブな影響を与えてくれた…ということを振り返りました。とはいえ、私もまだまだ「ままならないこと」に直面した時、特に馬券を外したときなどはついつい「怒」の感情が先に立ってしまうのでまだまだ修行が足りません(笑)

そんな「ままならなさ」とも折り合いながら、これからも競馬に親しんでいきたいと思います。

ポレンティアと鞍上のH.ドイル騎手(2022年12月4日、筆者撮影)
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