[連載・クワイトファインプロジェクト]番外編 奥能登馬プロジェクト、タイニーズファーム訪問記

先日、2日ほど休暇が取れたので、元JRA調教師角居勝彦さんが運営する「奥能登馬プロジェクト」タイニーズファームを訪問しました。

「クワイトファインと角居さんに何のつながりが?」と思った方も多いかと推察しますが、金沢競馬でクワイトファインを担当されていた厩務員のかたが、引退馬支援を通じて角居さん(当時は現役調教師)と交流があり、そのかたから角居さんにプロジェクトの件を伝えたところ、フェイスブック等を通じてPRをしていただき、また、新橋のGATE-Jでのイベントにも招かれてプロジェクトのことを紹介する機会を与えていただけました。角居さんの活動を通じてPRの機会に恵まれたことは、クラウドファンディングの成功に大いに繋がったと思っております。
こうしてサラッと文字にしただけでも改めて人の縁を感じますが、実は今回、その厩務員の方にもお会いすることができ、在厩当時の話しをいろいろと伺いましたが……その人から伺った諸々のエピソードだけでコラム2本くらい書けそうなので、それはまた別の機会に。

さて、ここからは訪問記として書きたいと思います。引退馬支援については読者の皆様色々なお考えがあると思いますし、私自身まだまだ不勉強で角居さんの活動をどうこう論じる資格はありません。一方で、実際に奥能登まで足を運んだ人間も、都心から気軽に行けるような場所ではないため、そう多くはいないと思います。ただ、往復約6時間かけて行きましたが、それだけの時間と手間をかけた甲斐はあったと思います。私の拙い文章力でどれだけ伝わるか自信はありませんが、何がしかのものはお伝えできるかと思います。


タイニーズファームはそもそもどこにあるのかですが、能登半島の先の方、石川県珠洲市にあります。温泉地である七尾市や朝市で有名な輪島市よりも先です。県庁所在地金沢市からは約140キロあります。私はレンタカーを借りて自分で運転して行きましたが、金沢競馬場から、自動車専用道路である「のと里山海道」で終点の「のと里山空港」インターで降り、そこからは40キロ程一般道を走って珠洲市を目指しましました。珠洲市の市街地からタイニーズファームまではそれ程距離はありませんが、6月下旬に能登で発生した地震の影響で、一部通行止めになっている箇所がありました。

インターを降りてから珠洲市街地までの約40キロ、人家や店舗は正直ほとんどなかったです。別に悪口を言っているのではなく、現実として奥能登は過疎地と言えるでしょう。自然は豊かですが、金沢市のような兼六園や武家屋敷といった著名な観光スポットも多くはありません。しかし、そういう土地だからこそ角居さんは、引退馬にただ余生を送らせるのではなく、農業との連携(馬糞堆肥の提供)、観光事業(馬との触れ合い)等を通じ地域と馬との共存を目指そうとされています。

現在は、シンザン記念勝馬ドリームシグナルとレッドアルディスタ、それに繁殖を引退した牝馬デッセシャティーヌの計3頭がのんびり余生を過ごしています。どの馬も人慣れしているのか、私という珍客にも気にする素振りは全くなく、平然と数センチ至近距離を歩いていきました。

──何があるかと言われると、それだけです。それだけなのですが、馬が人を恐れず(気にもせず)のんびり歩いている姿を至近距離で見られることはそうそうありません。ましてや、北海道にいる繁殖牝馬やデビュー前の若駒もれっきとした経済資産ですから、馬主であっても無闇矢鱈に近づいたり触ったりできるものではありません。そういう意味では、ここでの穏やかな時間の中での馬との触れ合いは私にとっても貴重な経験だったなと思います。

角居さんはプロジェクトの中心人物として行政や支援企業等との連携に奔走されており、調教師時代と変わらぬ超多忙な日々を過ごしておられるようです。訪問時はたまたま現地にいらっしゃったので少しお話しさせていただきましたが、今後は能登の牧場を拡大し、100頭位の馬を引き受けられるようにする構想を持っておられるとのことでした。

タイニーズファームに行ってみたいと思う方も多いかと思いますので、簡単にガイダンスさせていただきます。

体験メニューをしなければ入場はフリーですが、初めて行く方にはフリーでの訪問はおすすめしません。「道の駅能登すずなり」で、ふれあい体験(3,500円)又は海岸ふれあい散歩と海岸清掃(5,000円)を申し込むことをおすすめします。なぜなら看板が出ている訳でもなくオフィシャルな電話番号も公表されていないので、フリーで行くとまず現地に辿り着くのに一苦労しますし、結果的には体験を申し込むことが、その時点で可能な体験メニューの確認と時間の調整ができ、それでイコール先方に来訪の意思が伝わることになりますので。それに、体験にお金を払うことが、最も身近でストレートな「引退馬支援」に繋がるわけです。

移動手段は車をおすすめしますが、それが難しい場合は金沢から珠洲(終点が道の駅すずなり)までの高速バスがあります。私はスケジュールの都合で残念ながら日帰りしたのですが、せっかく行くのであれば出来れば珠洲や輪島等で一泊し、馬だけでなく奥能登の観光を楽しんでいただいた方がよいかと思います。

最後になりますが、クワイトファインプロジェクトの主催者の立場で思ったことを。
角居さんの活動の基本は、引退競走馬の乗馬転向のためのリトレーニングです。つまり新しい働き場で活躍出来ることを目指すわけですが、年齢や健康上の理由でそれも難しくなった馬たちの居場所としてタイニーズファームを位置付けているのだと推察します。
言い換えると、「働き場」がある馬は、そこで需要がある間はそれを全うすることが理想です。
クワイトファインは、多くの競馬ファンの皆様から「需要」を与えていただいている稀有な馬です。その需要を、今回のガレットデロワのような「実際の需要」に繋げていくのが私の役目だと思っています。

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