[重賞回顧]真夏の小倉にうら若き少女達の花が咲く〜2022年・CBC賞〜

宝塚記念も終わり、上半期となる6月が幕を閉じたと思ったのも束の間、本格的な夏競馬が息つく間も無く幕を開けた7月の第1週。北海道開催に加え福島、小倉まで開催が始まると、いよいよ始まったと多くの人が思うだろう。秋の飛躍を誓う馬達が休む間なく戦い続けるこの時期、サマーシリーズも同時に本格化。東では3歳重賞のラジオNIKKEI賞が福島で行われる一方、西の小倉ではサマースプリントシリーズ第2戦となるCBC賞が開催。

1.2番人気ともに充実一途の3歳勢2頭、アネゴハダとテイエムスパーダが推され、共に斤量は49.0と48.0キロ。1番人気のアネゴハダには前年のマーメイドS以来となる重賞2勝目を狙う藤懸貴志騎手が、2番人気のテイエムスパーダにはこれが重賞初騎乗となる今村聖奈騎手が跨り注目を集めていた。意地を見せたい古馬勢は川田騎手が跨るタイセイビジョン、連覇を狙う日本レコード保持者ファストフォース、安定した成績を残すスマートリアンまでが3.4.5番人気の単勝オッズ1桁台で続いた。

レース概況

小倉の馬場は開幕週も相まって超高速となる中、揃ったスタートが切られるとそのまま前へ押し出していく馬が多数。外枠からファストフォース、スティクスがいつも通り先頭を主張し、内からはアネゴハダとレジェーロも進出していく。だがそれら全てを制して48キロの最軽量の今村聖奈騎手とテイエムスパーダが先頭へと立ち、後続とのリードを広げていく。

一方メンバー中最重量を背負ったファストフォースは鞍上の松山騎手がしきりに手綱を動かすものの、なかなか前へと進んでいかない。そればかりかその内のモントライゼとタマモティータイムの方が行きっぷりがよく、馬なりで前の方へと位置を上げていく。

中団馬群以降にタイセイビジョンは位置し、それらの前の位置にロードベイリーフ、カリボール、アンコールプリュらがつけ、スマートリアンがその後ろ。メイショウケイメイ、スナークスターまでやや縦長となる馬群形成で600mを通過。

そのタイムは……驚愕の31.8。

開幕週とはいえにわかには信じられないような超高速ペースで展開されるレースに、スタンドはどよめく。

そんな事など素知らぬように先頭のテイエムスパーダは快調に飛ばす。

4コーナーで既に手綱が激しく動いている2番手のスティクスとは反対に、今村騎手の手綱は軽く仕掛けを促す程度。その仕掛け具合と裏腹に、先頭のテイエムスパーダはさらに脚を伸ばし、ごちゃつく後方を尻目にリードを広げる。同期のアネゴハダも2番手から藤懸騎手が必死に追うが追いつけるほどの脚は繰り出せず、人馬一体、完全な独走体制に入った。

後方からただ一頭、川田騎手がコーナーで馬群を捌いたタイセイビジョンが怒涛の勢いで突っ込んでくるがアネゴハダを交わすまで。その時既に、3歳若駒と18歳の少女は小倉のゴール板へ飛び込んでいた。それも──走破タイム、1.05.8という日本レコードで。

スーパーレコードのおまけ付きで、史上4人目となる重賞初騎乗初制覇を華麗に飾ったのだった。

上位入選馬と注目馬総評

1着 テイエムスパーダ

まさに"見事"の一言に尽きる。

48キロというメンバー最軽量の恩恵は確かにあっただろうが、それを生かすも殺すも跨る騎手次第なのは間違い無い。今回、この最軽量馬の相棒となった今村騎手は怯む事なくスタートからテイエムスパーダを前へと出していった。

勝利ジョッキーインタビューで「馬の力を信じて自信を持って望んだ」と語っていたように、覚悟を決めて自分達の競馬を徹底した結果がこの素晴らしい結果に繋がったのだろう。

勝利したテイエムスパーダのスピードもかなりのもので、あのハイペースながら4コーナーで再加速したエンジンは目を見張るものがある。まだ若干18歳と3歳の少女達。この秋、そして今後の未来が輝かしいものになることを期待せずにはいられない。

2着 タイセイビジョン

勝った今村騎手に負けず劣らず、このタイセイビジョンに跨った川田騎手の手腕も見事という言葉に尽きるものであった。

スタートから後方を進んだ事に加え、ごちゃつく4コーナーで馬群が密集。飲まれてもおかしくない中、冷静に一瞬だけ開けた道を突いて鋭く伸び、9キロ差がある軽量の歳馬相手に喰らい付く2着。この2着は、大きな価値のある2着だろう。

今後のスプリント路線でも斤量等関係なく、スムーズであれば上位に連続して入ってくる可能性は十二分にあると言っていい。

3着 アネゴハダ

49キロと勝ち馬とは斤量差が1キロしかなかったとは言え、あまりにも先頭の脚色が違いすぎた。ポジションの差で負けた感も強く、この1戦だけでテイエムスパーダとの勝負付けが済んだとは思わない方がいいだろう。

4着 スマートリアン

近走は先団からレースをする事も多かったが、今回はスタートでタイミングが合わず後方からに。結果的にこの後発が致命的となったか。

最後は流石の切れ味を見せているだけにまだまだ注目は大。リステッド、重賞含めて差のない競馬が続いているうちに、重賞制覇も遠い未来ではないだろう。

5着 メイショウチタン

近3走は不振に終わっていたが、7ヶ月ぶりの実戦で実に1年ぶりとなる久々の掲示板。クリノガウディーの3着もある同馬が復調の兆しを見せ始めたか。最後はよく脚を使っているが、前が止まらない展開ではたまらなかった。

12着 ファストフォース

全馬中トップハンデの前年覇者は行きっぷりも見せ場もないまま12着に。前年から4キロアップの56.0キロに加えて大外枠、さらにこの異次元ペースという不利も重なり厳しい展開だったのは間違いない。

しっかり自分の競馬で前につけられればしぶとい粘り腰を使うのは前年のCBC賞、京阪杯で証明済みで、次走以降再度の期待がかかる。

総評

開幕週の前傾ラップ、明らかに前残りで超高速馬場の中、それを読み切って人馬一体最高の騎乗を繰り出したテイエムスパーダと今村騎手。テイエムスパーダの父レッドスパーダは5年目にして待望の重賞初勝利。現役時代に叶えられなかったG1制覇の夢を、数少ない産駒から娘が引き継げるかどうか。今年度の種付け数はなかったと聞くが、今後彼女の活躍次第では来年以降また大きく変わってくる可能性も大きいだろう。

思えば前年の今頃(正確には8月)、このレースがデビューレースとなったデュガ含めて話題性たっぷりのフェニックス賞で枠入りに10分以上かけた断然人気の彼女だったが、それから1年の時を経て、同じ舞台で成長を見せる超大仕事をやってのけた。

その時彼女が僅かに及ばなかったナムラクレアもシリーズ第1戦の函館スプリントSを制し、1位には両馬が並び立つことから、再度の激突もあり得るだろう。夏のスプリント戦線を引っ張る若き優駿2頭が、今後どう古馬達に挑んでいくのかが楽しみで仕方がない。

そして続く12レースで連勝し、見事19勝目を挙げた今村騎手。彼女の今後の騎乗ぶりにも目を離すことはできなくなりそうで、この夏の楽しみは終わることがなさそうだ。一体ここから人馬共にどのような成長を見せてくれるのか、大注目のサマーシリーズになることは間違いないと予感させられる、そんな日曜日だった。

写真:よぴ@UMAYOPI

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