[連載・馬主は語る]馬の食欲を増進させる6つの方法(シーズン2-14)

朗報と悲報が同時に飛び込んできました。朗報は9月11日~13日に開催される盛岡6回は準重賞が2つ組まれているため、ハーベストカップは出走できそうだという知らせです。ハーベストカップを勝ったからといって、OROターフスプリントオープンに出られるとも限らないのですが、まずはハーベストカップに出走できないことには話が先に進みません。何とか踏みとどまったというべきか、首の皮一枚でつながったという感じです。出走できるとなれば、そこを目標にエコロテッチャンを仕上げていくしかありません。幸いなことに、前走のグリーンマーブル賞から1か月以上間隔が開くため、中1週続きで蓄積されたであろう身体の疲れを取ることができそうです。

悲報はエコロテッチャンの馬体重が419kgまで大幅に減ってしまったとの報告です。とりあえずサンシャインパドック(太陽の良く当たる放牧地)に出してもらい、とにかくエコロテッチャンの好きなものを食べさせてください、と上手獣医師からの指示が出ました。濃厚飼料のつるだけではなく、えん麦などオードブル方式にして、食べたいものを食べたいだけ食べさせてくださいとのこと。そして、実際にエコロテッチャンが餌を食べているところを上手獣医師が見てみると、発酵チャフ(もみ殻)を嫌がって手をつけないようにしているそうです。食べ物の好き嫌いがあるって、何だか可愛らしいですね。

実は僕は小さい頃から卵が嫌いでした。給食に出てくる目玉焼きとかゆで卵などは、食べると気持ち悪くなって吐きそうになるのですが、当時、好き嫌いは許されない時代でした。完食しないとお昼休みにひとりポツンと残って食べさせられることになりますので、先生や周りの生徒たちの目を盗んで、お箸やスプーンを入れる布の袋にこっそりと入れて持ち帰って捨てていました。そういった後ろめたい思い出もあるからか、今でも卵に対しては憎々しい気持ち一杯です(笑)。かといって、卵が全く食べられないかというとそうではなく、茶わん蒸しはギリギリ食べられますし、ケーキなんかはパクパクです。都合の良い卵アレルギーといったところでしょうか。

エコロテッチャンは以前、発酵飼料も好んで食べていたらしく、体調によって好みも変わってくるようです。発酵飼料は匂いがするので、牝馬には時として嫌われてしまうこともあるそうです。志村厩務員からも「うちの厩舎ではにんじんを食べさせていないのですが、ためしに買ってきてみますね!」と提案がありました。

サラブレッドが食欲を失うには、あらゆる理由が考えられます。発熱していたり、お腹を壊していたり、病気を患っていたり、身体のどこかに痛みを抱えていたり、歯が悪かったり、などなど。そしてもちろん、人間と同様に、激しい運動の後に疲れてしまうと食欲が減退してしまうことがあります。その他、環境の変化や高温多湿の天候などがストレスとなって食欲がなくなることもあります。ちなみに、競走馬の90%は胃潰瘍症候群を患っていると言われているように、常に肉体的、精神的なストレスにさらされて生きているのです。エコロテッチャンは夏の暑さは大丈夫そうですが、調教でも真面目に走り、中1週でハードなレースをしたことによる疲れやそれに伴う背中やトモの痛みが食欲不振の大きな原因でしょうか。

馬の食欲を増進させる方法として、以下の6つが挙げられます。

・飼料を細かく分けて、数時間かけて食べさせる

・少しずつ新しい飼料に変えてゆく

・ビタミンBを食事に加える

・暑い日には冷たい水をかけてあげる

・激しい運動を緩やかにする

・不安を緩和するために仲間をあてがう

上記に加えて、さらに踏み込んだ形で、エコロテッチャンの好き嫌いを探す作業をしてくれました。目の前に様々な種類の食べ物を持って行って、食い付きをみるという実験です。イネ科の雑草は好きみたいです。えん麦も好きそうです。大豆も大丈夫。そして、いちばん好きなのは青草でした!志村厩務員は「美味しそうなイネ科青草をたくさん買ってきました!」とすぐに行動してくださり、フレッシュなものをその都度与えるようにしてくれています。

馬の馬体重が落ち、食べ物を工夫してみようとするだけで、これだけのアイデアや専門知識・技術が総動員されるのを見て、さすがプロのホースマンたちだと僕は思わざるを得ませんでした。ずっと外から競馬を観てきた僕には到底分からない現場の日々の苦労や努力があり、それぞれの馬たちはレースに出てきているのです。こうしてその過程にわずかでも触れることができるだけでも、共有馬主になった甲斐があったと思えますし、ますます競馬って奥が深くて面白いなと思えるのです。

エコロテッチャンはニンジンを結局食べなかったそうですが、青草はたくさん食べてくれました。食いが戻ってきたエコロテッチャンの飼い葉桶には底が見えます。とりあえず体重減少はストップしたようで、僕たちはほっと胸を撫でおろしました。「映画セクレタリアトの中で、ケンタッキーダービーを前に全く餌を食わなくなるんですが、レース前日になって餌を完食して、厩務員が『食べたよー!』って空に向かって叫ぶシーンを思い出しました」と志村厩務員からLINEが入ってきました。まずは減ってしまった馬体を回復し、そこから9月13日のハーベストカップに向けて全力で仕上げていくしかありません。果たして僕たちは間に合うのでしょうか。

(次回へ続く→)

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