金沢競馬の古豪、ナムラダイキチの紹介をしていこうと思う。
地方でも魅力的な馬が活躍していることが知られていくことを願う。
ナムラダイキチ(牡・8歳・鹿毛)
父スパイキュール
母ナムラビャクレン
母父チーフベアハート
デビューは2010年12月5日。中央、阪神競馬場(ダート1800m)。
スタート良く2番手追走も、勝負処で交わされ順位を下げる。しかし、そこから粘って1.7秒差の⑥着。勝ち馬はのちのOP馬ムスカテールだった。
2週間後の2歳未勝利戦でハナを奪うと後続を振り切り初勝利。年が明け条件戦を③④着と差のない競馬を繰り返し、続く2月20日の500万下(ダート1800m)を2番手から抜け出し2勝目。その後は適正番組がなく若葉賞(芝2000m、⑭着)、マーガレットS(芝1400m、⑰着)を使われ、5月のOP戦(ダート1800m)でようやく適正レースに出走も、見せ場なくシンガリ負けを喫す。
その後、金沢競馬に移籍。決断は早かった。
3歳馬ながら初戦はA2クラスでいきなり古馬との対決。結果は逃げたマイネルトラヴェルを捕え切れず②着。続くレースはオープン戦ながら、早目先頭から押し切り勝利。そして金沢3戦目で、長くライバル関係となるジャングルスマイルと初対決の時がくる。1400mとオープン戦としては珍しい距離。その年の百万石賞を制したジャングルスマイルの斤量は58㌔。それに対しダイキチは56㌔だったが、ハナを奪ったジャングルが上がり37.6秒の脚を使い6馬身差の圧勝。力の差をまざまざと見せつけられる格好となった。
だが、ナムラダイキチは当時、若干の3歳。これからの活躍を大いに期待させた。
快進撃はここからだった。
まずは2011年8月9日におこなわれた東海・近畿・北陸交流競走のMRO金賞(12頭立て・距離1700m)。
1番人気は園田所属、菊水賞勝ち馬のホクセツサンデー。ナムラダイキチは2番人気、大きく差をつけられての3番人気は名古屋のアムロだった。
地元・金沢の期待を一心に背負いレースはスタート。しかし、ナムラダイキチは直後に躓いてしまい後方からの位置取りとなってしまった。この時点で諦めた方も居ただろうが、この馬は違った。スタンド前で大外に持ち出すとポジションを上げて行き、向正面で先団を捕えると、3コーナーよりアムロとデットヒートを演じる。後方からホクセツサンデーも迫っては来たが2頭には及ばず圏外へ。直線2頭での激しい攻防が続いた。そして、ナムラダイキチがグイッとクビ差でたところがゴール。開催する金沢競馬にとって、3年ぶりの地元勝利をもたらした。
1戦挟んで9月18日のオータムスプリントカップ(のちに金沢スプリントカップに改名)にてジャングルスマイルと2度目の対決。こちらも東海・近畿・北陸交流競走。距離も1400mとあって、断然の1番人気はジャングルスマイル。ナムラダイキチは4番人気だった。
ゲートが開き、ダッシュ良く飛び出したのは名古屋所属のニシノコンサフォス。ジャングルスマイルは2番手、ナムラダイキチは3番手でレースが進み、3コーナーでは金沢所属の2頭でマッチレースの様相。しかし、4コーナーでナムラダイキチが先頭に立つと着差は広まるばかり。結果8馬身の差をつけて1分26秒4のレコードで圧勝したのであった。
そのレコードは今も破られてはいない。
この時よりジャングルスマイルとの2強対決。どちらが強いのか?誰もが興味深々であった。勿論、同世代で相手になる存在は皆無で3歳最後の重賞サラブレッド大賞典は上がり36秒5の脚を使い、4馬身差の完勝。目標は次の北國王冠となる。ここで今年3度目の激突。結果は逃げるジャングルを捕え切れずクビ差惜敗。
そして、ここまで手綱をとってきた中川雅之騎手が体力の限界を理由に引退を決意。次のレースから手綱を任されたのは10年目の畑中信司騎手だった。コンビを組んで2戦目となる中日杯は2馬身半の差をつけてリベンジ。この年のジャングルとの対決は2勝2敗の五分だった。
しかし翌年の2012年からは力関係に変化が。4月のスプリングCを2馬身差で快勝。続く春の大一番、百万石賞はジャングルスマイルに騎乗の平瀬騎手が早目スパートし、引き離す戦法でナムラダイキチは1馬身半及ばなかったものの。秋口よりメキメキと力を付けて、全国地方交流レースを連勝。オータムスプリントCに至っては向正面であいた内を突くと、一気に後続を引き離して2.2秒差の圧勝。畑中騎手からもインタビューでは『5、6頭分外を廻っていても勝てていたかも』との言葉が飛び出し、当時の充実振りが窺える。
良い勢いのまま迎えたのは白山大賞典(GⅢ)地元いや地方競馬の期待を一心に背負い、単勝は2番人気。1番人気はこの年にGⅠホースとなるニホンピロアワーズだった。
エイシンモアオバーが逃げ、ニホンピロアワーズが2番手、ナムラダイチキは内目の3~4番手。レースが動いたのは残り800m辺りから。ナムラダイキチが2コーナーで外に出すと前の2頭に並びかけ、3頭で後続を引き離して行った。残り400mでニホンピロアワーズが楽に抜け出すと、ナムラダイキチは3番手まで後退し、もうダメか…。と思いかけた直線でもう1度盛り返して来る。結果的に勝ち馬とは4馬身差の2着に終わったものの、3着とは2馬身半の差。JRA勢の4頭に先着したのだから、大きな価値があると言っても良いだろう。
その後は地元重賞の北國王冠、中日杯を連勝。この2戦で2着馬につけた着差はなんと26馬身。結局、百万石賞以外でジャングルスマイルに先着を許す事はなかった。そして陣営がこの年最後の目標に掲げたのは、暮れの名古屋グランプリ(GⅡ)。
白山大賞典で戦ったニホンピロアワーズがこの年のJCダート(当時)を制覇。単純なものさしで考えれば、この馬もグレードレースには充分に期待が持てる。ビッグタイトルにも手が届くはずだ。
――そう思ってはいたが、競馬は生き物。スタート直後に隣の枠にいたエイシンモアオバーに前をカットされ、頭を上げてしまった。更に次々と外から抜かれ位置取りが中団となってしまう。早目に仕掛けで行くも前とは大きな差がり縮まらない。結局、地方最先着の4着ではあったものの、勝ち馬からは大きく引き離されたものでグレードレース制覇の夢は叶わなかった。
5歳となった2013年は重賞に狙いを絞り、今後を見据えてのローテション。4月のスプリングCは悪天候のため中止となったが、1つの目標としていたオグリキャップ記念(4/23)をジャングルスマイルに1.9秒の差をつけ完勝。そして例年、秋に開催される北國王冠(5/5)がこの年は金沢競馬でJBC開催のため、春にスライド。前走より間隔は詰まっていたが4馬身差の強い内容。続く春の大一番、百万石賞もジャングルスマイルに2.5秒差をつけ圧勝。もはや金沢では敵なしの状態だった。
どこまでも勝ち続けるようにすら思えた。
しかし。
左前球節の骨膜剥離で戦線離脱。復帰ができたのは約11か月後の2014年5月。
オープンの平場だったが、当時のトップクラスが勢ぞろいし好メンバーでのレースとなった。
結果はナムラダイキチの逃げ切り。スローな流れで勝ち時計も1分50秒3と持っている力を思えば、物足りなくも感じたが上がり48.9-36.8の脚を使っていたのだから滑り出しとしては上々だった。
復帰2戦目は百万石賞。逃げるセイカアレグロを2番手から堂々と交わし、5馬身差で勝利。これで重賞は13勝目。当時のインタビューでは『良い時と比べると遊ぶところが多くなってきた』と畑中騎手がコメントしていたので真面目に走ったらどれだけ強いんだ?と胸が高まる思いだった。
しかし、喜びもつかの間。このしばらく後に右前脚の脚部不安のために再度の休養を余儀なくされた。
そして復帰戦は昨年同様の5月。同じく約11か月振りのレースとなった。この時も好メンバーが揃い、前年度は重賞3勝のセイカアレグロ。14連勝でA級まで上りつめたナンディンなどが出走してきた。レースはセイカアレグロ騎乗の平瀬騎手が『ダイキチに勝つにはこれしかなかった』と大逃げの戦法。離れた2番手からナムラダイキチが残り1000mからスパートし並びかけるも、普段より早目に脚を使ったせいか、なかなか抜け出せない。
見事に平瀬騎手の作戦がハマったか?と思われたが馬体を併せぬよう畑中騎手は外へ持ち出し、最後の最後にアタマ差くだして勝利。地力をの高さをみせた。
そして、この頃より「馬っ気が強くなった」としきりに聞くようになった。目標の百万石賞に向けて牝馬に近寄らないよう細心の注意が払われていた。そうやって迎えた2015年、4度目の百万石賞出走。牝馬はただ1頭ティボリハーモニーだけだったが、パドックでも最後尾で周回をし、輪乗りでも1頭だけ離れた位置で待機をしていた。厩舎関係者、畑中騎手がこの馬に対する思い入れの強さが伝わってくるシーンである。
そんな思いの詰まった百万石賞。まず逃げたのはセイカアレグロ。外目2番手にジャングルスマイル。内の3番手ナムラダイキチ。淡々とした流れのなか、動いたのは残り800m手前。ジャングルが馬なりで先頭に立つとダイキチも追って迫り、3コーナーでその差は約2馬身。しかし、畑中騎手の手が激しく動くなか、ジャングル平瀬騎手は持ったままで直線へ。最後までその差は縮まらず、平瀬騎手はゴール前でガッツポーズの余裕。引き上げてくる畑中騎手の表情は『してやられた』と苦笑いでしたが、レース後に平瀬騎手とグータッチをしたり素直に相手を讃えている様子が印象的に映った。
その後は夏場を休養にあて、秋頃に復帰のプランとなっていたが、乗り込んでいてもパンとしてこないとの判断で12月には牧場へ放牧。そして2016年3月に、待ちに待った再入厩を果たした。
4月16日の能力検査を経て、26日にA3級で復帰。ここ2年の獲得賞金額が少なく、番組改定で恵まれたため、楽に初戦を飾った。とはいえ今年の1番時計。まずは一安心といったところだ。
ただ、このままだと賞金的に百万石賞は除外の可能性もあり、6月までにもう1~2走する必要がある。ライバルであるジャングルスマイルも健在。昨年よりグルームアイランドも在籍。
とにかく無事に、が大前提ではあるが、このまま順調であれば今年の百万石賞はかなり盛り上がること間違いなしであろう。
今後のナムラダイキチからも、目が離せない。
写真:チャチャ