イノシシでひと回りした十二支が最初に戻る子年は、新たな十二支のはじまりを意味する。
原点回帰、リスタート、新たな挑戦への一歩が似合う子年にふさわしい男はだれであろうか。
キャリアハイの102勝をあげた三浦皇成騎手は、デビュー年に武豊騎手の新人勝利数記録を更新。
その後ケガが重なり、飛躍できないもどかしさを昨年払しょくし、新たな時代を自らの手でこじ開ける予感を抱かせるひとりだ。
中山金杯ではトップハンデ58キロを背負う有力馬トリオンフに騎乗予定と、年始から主役に立てる状況は揃っていた。
だがしかし、中山7レースで落馬事故により負傷。なぜ、神は三浦皇成騎手にそんなに辛くあたるのか──。
そんな不条理な空気を拭うかのようにトリオンフは中山金杯を勝利した。
その背にいたのはミルコ・デムーロ騎手。彼もまた2020年リスタートを誓ったひとりだ。
昨年は91勝、移籍以来4年連続で記録していた年間100勝に届かなかった。年間91勝のどこが不調なものかと思うが、デムーロ騎手のポテンシャルを考えれば、こんな成績の騎手ではないという認識は誰もが一致するところであろう。
昨春はJRAGⅠ2勝と順風満帆だったが、秋にリズムを大きく崩した。自身から乗り替わったアドマイヤマーズが香港でGⅠを勝つなど、結果的にあまりよくないイメージが残ってしまった。
2020年はエージェントを外し、関東に拠点を移すという新たな道を模索する。
トリオンフを巡るたった数時間の物語。
それは新たな12年、リスタートを象徴する子年を思わせるものだった。
さて、レースはそのトリオンフがスタンド前で番手を奪い、その前には内枠から先頭に立ったブラックスピネル。背後のインにノーブルマーズ、控えたタニノフランケルは4番手の外で流れに乗る。直後にウインイクシード、ラチ沿いでテリトーリアルが虎視眈々。中団馬群の先頭にギベオン、その外にイレイション、同じく外目にザダル、後方のレッドローゼス、クレッシェンドラヴが得意のマクリを狙って控えている。
前半1000m通過60秒2。ここから加速ラップに転じ、11秒8-11秒7-11秒7-11秒4。後方でマクリの機を伺うレッドローゼス、クレッシェンドラヴが差を詰め切れず、番手にいたトリオンフが逃げるブラックスピネルを捕らえ、背後にいたウインイクシード、ノーブルマーズがそれを追う。ラチ沿いから直線入口でタイミングよく外へ持ち出したテリトーリアルの脚色もいい。抜け出すトリオンフに迫るウインイクシード、差を詰めるテリトーリアル。3頭の叩きあいは先に抜けた順番にゴールを迎えた。1着トリオンフ、2着ウインイクシード、3着テリトーリアル。勝ち時計1分59秒5(良)。
各馬短評
1着トリオンフ(2番人気)
2年前の小倉記念勝ちから屈腱炎で1年4か月の休養を経ての復活。三浦皇成騎手、ミルコ・デムーロ騎手同様にこちらもリスタートを感じさせる金杯勝利だった。休養前同様に好位から安定したレース運び、58キロの斤量を考えれば快勝だった。母父は先日他界したダンスインザダーク。競馬には不思議なめぐり合わせというものがある。
2着ウインイクシード(6番人気)
小回りコースへの高い適性を改めて証明。中山金杯に強い年男・松岡正海騎手らしい無駄がない競馬だった。勝ったトリオンフとは位置取りのわずかな差に過ぎず、今後も小回りの中距離重賞では目が離せない。
3着テリトーリアル(11番人気)
1枠1番を最大限生かすような競馬だった。4角から直線入口の進路取りは見事。マイネルハニーに押し込められる場面も自力でこじ開けてきた。小回りコースでは力を発揮できないこともあったが、その意味でも収穫が多いレースだった。
総評
トリオンフに騎乗予定だった三浦皇成騎手は左肩の骨折が判明し、残念ながら再度の戦線離脱となる模様。キャリアハイの昨年をきっかけにリスタートが期待できるタイミングだけに悔やまれるが、スタートは復帰してからでも可能だ。リスタートに終わりはなく、いつでもはじめられる、それが人生というもの。
「まだまだこれからだ」この言葉をトリオンフやデムーロ騎手が中山金杯で我々に教えてくれた。2020年子年。競馬関係者に限らず、競馬ファンも新たな気持ち、リスタートを切る勇気をもって一歩を踏み出したい。
写真:AG_in_PHY