[連載・馬主は語る]今日もどこかで馬は生まれる(シーズン1-11)

ここまでセリ市とオークションサイトで馬を購入する方法を示してきました。この先もこれら2つの方法が主流になっていくことは間違いありませんが、庭先取引という方法もいまだにあることは確かです。ひと昔前は、この庭先取引が主だったのですから、時代は変わるものです。現在はセリ市に馬を出した方が高く売れることが分かっていますので、よほどお付き合いの深い人から良い条件を提示されない限り、セリまで待って売りに出す方を選択する生産者が多いはずです。そもそも庭先取引とは、良くも悪くも、仲間内で行われる透明性の少ない売買の方法です。

庭先取引を少しでも透明化しようと、「UMAKAU.COM」とい競走馬販売サイトもあります。こちらはセリ市に出る前の1歳馬が出品されていて、即決価格が決まっているので、オークションというよりは庭先取引をオープンにしたサイトということでしょうか。販売予定馬を繋養先の牧場で実際に見学・閲覧することができ、セリに出てしまうと競り上がってしまうような馬を早めに抑えておくことができるメリットが馬主サイドにはあり、逆に生産者側としては早い段階で自分の納得いく価格で馬が売れるメリットがあるということですね。

もうひとつ、友人知人から馬を譲り受けるという方法もあります。さすがにデビューする前の競走馬を譲る人はあまりいないと思いますので、基本的には現役馬を譲渡する形となります。新しく馬主になった友人知人に対して、馬主としての経験を早く積めるよう、自分の所有している競走馬を安価でプレゼントするという主旨が強いはずです。これから先、個人間の競走馬の売買は増えると思いますが、それはオークションサイト等を通してであって、個人間での売買は限られた人たちの間だけでしょうね。

僕がオークションサイトで馬を買おうと考えたのは、ここまで挙げてきたようなメリットが多いからではなく、馬の一生というもう少し深い理由もあります。

ちょうど馬主になって、馬を走らせようと思っていた時期に観た「今日もどこかで馬は生まれる」という映画があります。この映画はサラブレッドの末路を描いたドキュメンタリーであり、競馬ファンにとっては目を逸らしたくなるような内容になっています。毎年生まれてくる頭数(およそ7000~8000頭)と同じだけの頭数の馬たちが、毎年競走生活を終えて引退していくという事実があり、その一部の馬たちは、乗馬や誘導馬として活躍したり、功労馬として養老牧場で生涯を終えることができますが、ほとんどの馬たちは廃用となってしまうのが現実です。

馬をと殺する仕事をしている人の生の声を聞くと、いたたまれない気持ちになります。馬以外の動物にも僕たちの食卓に届くまでには同じことが起こっているのですし(僕たちが直接見ないだけで)、馬だけを特別視して動物愛護を焚きつけるのも視野が狭いとは思います。サラブレッドは経済動物だから仕方ないと言ってしまえばそれまでですが、家族の一人として馬と接すればするほどに割り切れなくなってしまうのは当然ですし、そんな流れに少しでも歯止めをかけようと奮闘している人たちもいます。

僕が馬主としてできることは、せめて自分が関わった馬だけは、何とか引退後も幸せな余生を過ごさせてあげることです。きれいごとかもしれませんし、全ての馬たちを救うことなど僕にはできませんが、自分の手の届く範囲でそうしていくつもりです。そういう意味もあって、僕は牝馬を買おうと考えています。引退後も繁殖牝馬として活躍することができるからです。オークションサイトに是々非々があることも知っていますが、この僕がオークションサイトで馬を買うことは、たった1頭かもしれませんが、競走馬としての命を永らえさせ、血をつなぐことにもなるのではないでしょうか。

(次回へ続く→)

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