[連載・馬主は語る]馬体の良さ≒競走成績(シーズン2-20)

繁殖牝馬選びの基準としては、昨年、下村獣医師に教えてもらった、胸の深さがあって、トモにしっかりと実が入り、顔つきが良い馬を狙うという前提は変わりありません。その3点は母から仔に強く遺伝しますので、良い産駒を出そうと思うならそこは譲れないところです。ところが、昨年からその3点を意識しながら母馬を調べているうちに、とあることに気がつきました。それは胸の深さがあって、トモにしっかりと実が入り、顔つきが良い繁殖牝馬と実際のレースで活躍した馬はニアリーイコールであることです。

どういうことかと言うと、胸に深さがなくて、トモの実の入りが物足りず、顔つきから気難しさが伝わってくるような馬は、レースでも走っていないし、勝ち星を挙げることができていないということです。その逆も然り。つまり、アスリートとして優れた肉体を有している牝馬は、実戦でも活躍している馬が多いということ。何らかの事情があって、肉体的には優れていたけれどレースでは走れなかった馬もいるとは思いますが、馬体の優秀さと実績(成績)は相関関係にあることは間違いないのです。

昨年、ウインレーシングクラブの岡田義広氏にインタビューさせてもらった中で、繁殖牝馬について、「お父さんとお母さんから50%ずつ能力を受け継ぐからこそ、うちにいる繁殖牝馬は自身の成績が良い馬が多いのです。シンプルな話ですが、競走成績が良いお母さんの方が良い仔を産む確率は高いと私は思っています」と言及されていて、僕は非常に共感しました。

そう言われて、ウインレーシングクラブの母馬を見てみると、たしかにどの馬も実戦で何勝かしている馬がほとんどです。お世辞にも良血とは言えない馬も多くいますが、成績が良い牝馬を残しているので血統には多様性があります。そしてたしかに成績が良いお母さんは走る産駒を産んでいるのです。たとえば、2022年のスプリンターズステークスを2着したウインマーベラスの母コスモマーベラスは、ターコイズSを2連覇して、計7勝を挙げた馬でした。ウインキートスの母イクスキューズは、デイリー杯クイーンカップを勝ち、計3勝を挙げて1億5000万円以上を稼いだ名牝です。ウインカーネリアンの母コスモクリスタルは芝の短距離戦を中心に4勝を挙げた実績馬です。さらに挙げると、ウインマイティの母アオバコリンは、南関東で40戦走って7勝を挙げ、東京大賞典でも5着の実績があります。キリがないのでこの辺にしておきますが、とにかく血統は全く関係ないと言わんばかりに、安い馬でも走った馬は繁殖牝馬として残し、その産駒たちから走る馬が続々と誕生しているのです。アスリートとしての肉体に優れている馬を繁殖牝馬としても評価していると言っても過言ではありません。

これを言ってしまうと元も子もないかもしれませんが、胸の深さがあって、トモにしっかりと実が入り、顔つきが良い繁殖牝馬を探す手っ取り早い方法として、成績が良い馬を探すことから入るのは具体的なのです。成績が良いとは、実際のレースで何勝かを挙げていて、賞金を多く稼いでいるということ。生涯獲得色金額が高いということは、健康に長く走り続け、高いレベルのレースで活躍したことを意味します。成績が良くない馬は、たとえ血統が良くてもアスリートとしての肉体を有していなかった、もしくはアスリートとしての肉体は持ち合わせていたけれど脚元が弱かったり、どこかに欠陥を抱えていたということ。逆に言うと、競走成績が良かったということは、能力があって健康でもあったことを意味するのです。

若くて成績が良い馬が繁殖牝馬セールに出てくるわけねーじゃん、というド正論の直球が今、僕に向けて投げられたのは分かっています(笑)。もしそんな馬が上場されたとしても、高くなってしまうことは目に見えていますね。そのとおり。結局のところ、日本ダービー馬を誕生させようと思って、良い繁殖牝馬を手に入れようと思えば、それなりの金額を出さないと難しいのです。僕のように予算が500万円程度しかない場合は、どこかで妥協しなければいけません。ダートムーアは13歳の高齢だったからこそ、中央競馬で4勝を挙げ、エンプレス杯で3着に入ったような牝馬が700万円(税抜き)で手に入ったとも言えます。今年は血統を全く考慮に入れていませんが、若い繁殖牝馬を手に入れるとすれば、もしかすると何かで妥協しなければならないのかもしれません。

(次回へ続く→)

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