夏から大きく動いたスプリント路線
秋のG1シリーズ開幕戦となるスプリンターズS。
昨年のスプリンターズSの勝ち馬であるピクシーナイトが昨年の香港スプリントで落馬事故に巻き込まれて負傷したことにより、確固たる主役不在で始まった2022年のスプリント界。春の高松宮記念も実力伯仲の混戦の中、最内から抜け出したナランフレグが勝利し、丸田騎手と宗像調教師の感動の初G1制覇という名場面が生まれましたが、スプリント界の絶対王者と呼ぶほどまでには力が抜けているとは言いにくいように見えました、
ただ、夏競馬を経て大きく状況が動いたスプリント界。
夏競馬の中でスプリント界の新星も出てきたので、昨年のピクシーナイトのようにそのままG1を制する可能性も十分にあります。そういった新星が出てきたレースを時系列で紹介しつつ、スプリンターズSの有力馬について紹介していきます。
1200Mこそ我が本領
函館SS勝ち馬 ナムラクレア
夏競馬最初のスプリント重賞である函館SSを勝ったのは、3歳馬のナムラクレアでした。同馬は2歳時に阪神JFの5着を経て、3歳時にはフィリーズレビューでは2着と好走。続く桜花賞では3着と、あと一歩のところで結果が出ませんでしたが、1200Mに路線変更した函館SSで見事な勝ちっぷりを見せました。
開幕週の馬場で50キロの斤量も味方した点は否めませんが、前半600Mが32秒7の速い流れを3番手の外目を追走し、直線で楽に前を掴まえて最後は2着馬に2馬身半差をつけるのは完勝と言えます。その王道的な勝ちっぷりを見た競馬ファンは改めて「この馬の適性は1200Mにある」と確信したのではないでしょうか。
衝撃のレコードタイム
CBC賞勝ち馬 テイエムスパーダ
多くのファンにとって、夏競馬で一番衝撃だったのが、CBC賞かもしれません。
いかに速い時計の出やすい小倉の開幕週で負担重量が48キロだったとはいえ、日本レコードの1分05秒8で勝ったテイエムスパーダには驚いた方も多かったでしょう。
前半600Mを31秒8で逃げていきながらも後半の600Mを34秒0で押し切られては、後続にはどうすることもできません。開幕週の馬場と軽斤量をフル活用しての勝利でした。次走の北九州記念では斤量も増えた影響か7着と敗れてしまい「スプリンターズSへ出走できるかどうか?」という当落線上にいる本馬。ですが、もし出走できて今村騎手が騎乗することになれば大きな話題を呼ぶのは確かでしょう。スタートからガンガン先行するスプリンターらしい走りに、今後も含めて注目したい1頭です。
スムーズに回りさえすればどんな相手でも
キーンランドカップ勝ち馬 ヴェントヴォーチェ
札幌芝1200Mで行われたキーンランドカップも興味深いレースになりました。このレースには3歳の1200M重賞の葵Sを勝ったウインマーベルと1200Mでこそと期待をされたトウシンマカオの2頭の3歳馬が参戦。どんな走りをするか注目されましたが、勝ったのはルメール騎手騎乗のヴェントヴォーチェでした。
開催が進んだ札幌の芝で各馬が内を空けて進む中、ぽっかり空いていた内から抜けてきての勝利でした。2着のウインマーベルが外々を回りつつも早め先頭から押し切ろうとした理想的な競馬をしていただけに鮮やかなイン突きが目を引きました。元々、能力は持っている馬ですが力を出し切れるかどうかという点でムラっ気のあるタイプと言えます。アイビスサマーダッシュでは1番人気に推されるも9着と敗れていただけに、いかに能力を発揮できるかどうかが鍵になるのは間違いないでしょう。この日騎乗していたルメール騎手は、スプリンターズSの日には凱旋門賞に遠征中。誰が騎乗するのかを含めて注目です。
また、このレースでは敗れてしまったとはいえ2着のウインマーベルと1番人気のトウシンマカオも存在感を示しました。ウインマーベルは道中内目の5番手を追走していましたが、直線で馬を外に出しつつ早め先頭に立つ立ち回りを見せています。勝ち馬が鮮やかに内を抜けてこなければ、それこそ勝ち負けだったはず。対古馬でも実力上位であるところを見せました。スプリンターズSでも上積みが期待できるので注目でしょう。
また、4着だったトウシンマカオは大外の16番枠で尚且つ各馬が外に馬を出してきたので余計に外々を回らされる競馬になりました。それでも残り100Mからの伸びは1200Mの適性の高さを感じましたし、もう少し内枠だったならと惜しく思います。
良き旅に立ちはだかる坂
北九州記念勝ち馬 ボンボヤージ
8月21日に小倉で行われた北九州記念は、CBC賞の勝ち馬テイエムスパーダと函館SSの勝ち馬ナムラクレアが顔を合わせるレースになりました。前走で強い勝ちっぷりだった2頭の対決ですし、スプリンターズSに向けた前哨戦という意味合いも含まれたレースになりましたが、勝ったのは1番枠をいかして内から抜けてきたボンボヤージでした。
レースはCBC賞と同様にテイエムスパーダが逃げ、前半600Mを32秒8で進んで少し外に出して直線に入りましたが伸びず。道中内目の7番手辺りを追走していたボンボヤージが内から抜けて先頭に立ち、さらに内から伸びてきたタイセイビジョンと内に切れ込んできたナムラクレアを抑えて勝利しました。51キロの軽ハンデ、1番枠から進んで直線で内が空き、ロスなく回れたことなどが噛み合っての勝利であり、同馬がこれまでにあげた5勝は小倉・京都といった直線に登り坂の無い平坦コース。直線に登り坂のある中京で行われたセントウルSでは敗れているように、今後は登り坂の克服が課題になりそうです。
2着のタイセイビジョンはCBC賞と同様に内ラチ沿いから伸びてきての2着。差し馬ながらも安定した競馬ぶりは評価すべきですし、G1でも川田騎手騎乗なら2,3着の可能性も十分でしょう。3着のナムラクレアは直線で外に出しましたが前が壁になり、そこから内に進路を切り替えて伸びてきましたが3着まで。『うまく誘導できなかったことに尽きます』という浜中騎手のコメントからは悔しさを感じます。G1で巻き返す可能性は大いにあると言っていいでしょう。
一方でCBC賞の勝ち馬テイエムスパーダは7着。『ポジション争いが厳しくなってしまいました』と国分恭介騎手。斤量増に加えて、お昼過ぎまでやや重だった水分を含んだ馬場では厳しかったのかもしれませんが、G1でのガチンコ勝負となるとまだ少し力不足なのかもしれません。
人馬一体でG1勝利を
セントウルS勝ち馬 メイケイエール
スプリンターズSの前哨戦ラストは、中京競馬場で行われたセントウルS。
メイケイエールが圧倒的な1番人気でしたが、その期待に応えての勝利でした。レースではシャンデリアムーンとファストフォースが積極的に先行し、前半600Mは32秒5というHペースで進みましたが、道中5番手を進んでいたメイケイエールが残り200Mを過ぎて先頭に立ち、最後は2着に2馬身半差をつける完勝でした。
勝ちタイムの1分06秒2はレコードタイムですが、例年以上に芝の張替えを行った今年の中京の馬場の開幕週だったので、はやいタイムが出ること自体に驚きはありません。しかし、今回プラス14キロ増で5番手からのスムーズな競馬ぶりには肉体的・精神的な成長と現段階の充実ぶりが見受けられた点が大きいでしょう。かつては気性的にイレ込み過ぎる点がありましたが、池添騎手とコンビを組んで以降、段々と競馬ぶりがスムーズになって高い能力を存分に発揮できるようになってきたかと思います。
スプリンターズS直行組と他路線からの参戦組
高松宮記念の覇者ナランフレグはスプリンターズSへ直行。同馬は安田記念以来のレースになりますが、2021年の4月から長い休みを挟まずに使ってきて、今回が4か月ぶりのレースでそれがG1の舞台。状態面で不安なところがありますし、前半からかなり飛ばしてくだろうメンバー構成なので追走できるかどうかが鍵になりそうです。
マイル界の中心的存在のシュネルマイスターは、秋初戦がスプリンターズSを予定しているようで話題となりました。最大目標はマイルCSだと思うのですが、1200Mのスピード競馬を経験することで1600Mの距離で楽に追走できるようにするのが狙いでしょうか。マイル馬のスプリンターズS参戦は20年のグランアレグリアが出走し、ゴール前でものすごい脚を見せて勝ち切ったレースがありましたが、同様に勝ち切ることができるでしょうか?
まとめ
ここまでレースと有力馬を紹介してきましたが、人気中心になるのはメイケイエールで、それに対抗勢力の筆頭格が3歳馬のナムラクレア、という構図でしょう。ただしその他にも有力馬が多数いますので、近年稀に見る好メンバーでのレースになることは間違いないでしょう。
その中からスプリント界の新たな王者が誕生する可能性が高く、後に一時代を築くような名馬が飛躍するレースになるかもしれません。はたし秋のG1シリーズ初戦・スプリンターズSは、どのような一戦になるでしょうか?
写真:hozhoz、かぼす、安全お兄さん、よぴ@UMAYOPI