夏競馬特有のトピックスといえば『初重賞制覇の人馬』が挙げられるでしょう。
たとえば、2022年の夏競馬でも今村聖奈騎手、杉原誠人騎手など初重賞制覇の騎手、馬では長い休養期間を経て初重賞制覇したウインカーネリアンがいました。
新潟記念も初重賞制覇の馬が多いレースです。
今回は2016年にアデイインザライフが制した新潟記念を振り返りたいと思います。
波乱の重賞 新潟記念
多くの競馬ファンからすると新潟記念というレースは『夏競馬最後の難解な芝中距離のハンデ重賞』という印象が強いのではないでしょうか。新潟芝外回り2000Mというコースはスローペースからの瞬発力勝負という傾向にありますし、実際に下級条件ではそういうレースが多いです。
しかし、中距離重賞に出るメンバーは道中の追走スピードのある馬が多くなります。スタートして3コーナーまでずっと平坦の長い向正面が続くコース形態という面もあって、軽ハンデ馬の伏兵陣が大逃げをするという展開も珍しくありません。
そんな独特の展開になるので、新潟記念は波乱の決着になり、これまで重賞を制覇できなかった馬、長く重賞を勝てなかった馬がこのレースで重賞制覇できるケースにつながっています。
2016年 新潟記念レース回顧
レースはメイショウナルトがジワッと先頭に立ち、その後2番手以降を引き離して逃げて3コーナーに入る頃には2番手に10馬身ほどの差をつける大逃げの展開に。前半1000Mは58秒5。開催最終週で速めの時計が出る馬場という点を考慮しても、かなり速いペースと言えるでしょう。
ただ、大きく離れた2番手以降は平均ペースかやや遅め。直線に入ると逃げていたメイショウナルトは一杯になり、各馬が横に広がっての大接戦となります。
その中で外ラチ沿いに馬を出して先に抜け出したアデイインザライフが、内から迫るアルバートドックを4分の3馬身凌いで嬉しい初重賞制覇になりました。
名伯楽の忘れ形見 アデイインザライフ
アデイインザライフは2011年生まれのディープインパクト産駒。母ラッシュライフは桜花賞にも出走したことのある馬で、兄弟には2021年のCBC賞を勝ったファストフォースがいる血統です。
今では、血統面はどちらかというと短距離血統のように思えますが、同馬のデビューは2013年12月の中山芝2000M。そこで後方から大外をぶん回して勝つというド派手な勝ちっぷりで「クラシック級の大器ではないか?」という期待をされました。
管理する鈴木康弘調教師はダイナフェアリー・ダイナマイトダディ・ローゼンカバリーなどを育てた名伯楽。一方で鈴木調教師はG2勝ちはあるものの、G1勝利はありませんでした。2015年2月に引退を迎える鈴木調教師は、2014年が最後のクラシック。そのキャリアの最後に出た大物として大いに期待された馬でもありました。
年が明けた2014年の京成杯は後方から追い込むも3着。
皐月賞TRの弥生賞では後方からではなく道中5,6番手からの競馬をして、最後はエアアンセムとの3着争いを制し、皐月賞出走の権利を得ました。
しかしその皐月賞、出遅れが響いて16着に終わってしまいます。
その後、6月の1勝クラスに出走したものの出遅れて3着と敗戦。
これで鈴木調教師のG1制覇の夢は断たれてしまいました。
アデイインザライフはじっくりとキャリアを積み重ねたものの、鈴木調教師は2015年2月いっぱいで引退。同馬は萩原厩舎へと転厩することになりました。馬体重が560キロ近いこともあって調整には苦労したかと思いますが、その素質が花開いたのが2016年・新潟記念。3連勝で重賞制覇となり、その勝ちっぷりは新馬の時を彷彿とさせるような大外からの豪快な差し切りでした。それは同時に、名伯楽の最後の大物の素質がようやく花開いた瞬間でもありました。
同馬はその後も期待されましたが、この重賞制覇が最後の勝利となります。
新潟記念を制してから1年以上の休養を経て復帰したアデイインザライフは、その後3戦しましたが結果が出ず引退。御殿場の乗馬クラブで人々に愛されながら余生を過ごしていたようですが、2020年に亡くなっていたようです。2011年生まれだったのでまだまだ元気な余生を送ってほしかったと思いますが、引退後の日々も幸せなものであったはずです。「3歳春の時期に京成杯、弥生賞と短いレース間隔で使わなかったらどうだったか?」といった仮説に想いを巡らせながら、過ぎ去っていく夏競馬を楽しむのはいかがでしょうか?
写真:そら