[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]授業参観&種牡馬展示会(シーズン2-24)

2月吉日、ダーレー・ジャパンの種牡馬展示会に合わせて、北海道まで飛びました。今年はダーレー・ジャパン繋養の種牡馬(サンダースノーかファインニードル)を配合しようと考えていたので、せっかくなら目の前でその姿を見ておきたいと思いました。実は種牡馬の展示会に行くのは初めてです。

この数週間、大雪の影響で札幌の交通網がストップしてしまい、観光客や地元の住民が新千歳空港に足止めされてしまう事態が何度も起こっていたので、行く前は心配していました。無事に到着できるのか、予定通りに飛行機が飛んで帰って来られるのか。翌日は川崎競馬のパドック解説がありますので、なおさら帰らないわけにはいきません。僕の中では針の穴に糸を通すようなスケジュール(碧雲牧場→エクワインレーシング→ダーレー・ジャパン種牡馬展示会)での一泊二日の旅でした。

新千歳空港に着くと、例年どおりの冬景色が広がっているだけで、それほど大雪が積もっているわけではなさそうです。慈さんが迎えに来てくれて、腹ごしらえに、新千歳空港にある『天丼てんや』でオールスター天丼を食べました。北海道には新千歳空港にしか『天丼てんや』はないらしく、慈さんは「久しぶりにてんやで食べた」と嬉しそう。僕たちは雪道をスムーズに走り、碧雲牧場に到着しました。

翌朝4時半から馬出し(馬房から放牧地へ)を撮影させてもらい、ダートムーアやスパツィアーレ、スパ治郎たちの順調さを確認しました。8時半からエクワインレーシングで福ちゃんの坂路トレーニングが始まりますので、余裕をもって7時半すぎには碧雲牧場を出発します。理恵さんの車に乗せてもらい、雪道をゆっくりと走ると、意外と時間がかかって8時半ジャストに到着しました。総務の松田さんが待っていてくださって、福ちゃんの馬房まで案内してくれます。

「こうして育成牧場の様子を撮影させてもらって感謝しています。僕にとっても、育成の過程をこんなにも追うのは初めてのことなので」と言うと、「うちにとっても初めてですよ。これだけ来られるオーナーさんもいないので」と松田さんから返ってきます。生まれた瞬間から牧場で成長する日々の記録がここまで残っているサラブレッドはいませんし、育成牧場の記録も同じことではないでしょうか。福ちゃんのことを知ってもらいたいと思って始めたYouTubeチャンネルですが、碧雲牧場やエクワインレーシングの協力のおかげで、実は壮大なドキュメンタリーを制作しているのです。福ちゃんのチャンネルの視聴者さんは、福ちゃんと同時代を生きつつ、歴史の目撃者でもあります。

馬房を訪れると、担当チーフの八木さんがすでに福ちゃんの馬装を始めています。エクワインレーシングから毎月送られてくるレポートに書かれている内容をもとに、僕は八木さんに質問をしつつ実際のところを確認していきます。

「気持ちが乗っているときは、坂路入りも嫌がらなくなってきたようですね?」

「そうですね、少しずつ慣れてきてくれています」

「重心が低くてフットワークが大きいと書いてありましたが、それゆえに背中が痛くなりやすいのですかね?」

「そうですね。あまり無理しないように気をつけて乗ってます」

など、馬装をしながら、僕の質問に快く答えてくださる八木さんはさすがです。実際に乗っている人の口から聞けると安心しますね。この日のハイライトは、福ちゃんがゲートを通れるようになっているのか、そして坂路入りを嫌がらないようになっているのか、の2点です。

馬装を終えた福ちゃんは、他の馬たちの先頭に立って練習場に向かいます。「前に馬がいると気にすることが分かってきました」と八木さんは言います。自分のペースやリズム、空間を守りたいタイプなのでしょうか。その気持ちは良く分かりますが、競馬に行くとそうも言っていられないので、我慢する必要もあるのだよ、福ちゃん。

練習場に着くと、円運動が始まります。常歩から速歩へと少しずつペースを上げて行きながら、8頭の馬たちが円を描くようにして走ります。馬をコントロールして走らせなければ綺麗な円にならないため、乗り役にとっても練習になるそうです。円運動が終わると、次はゲートを通る練習です。

置いてあるゲートは3つの入口があって、それぞれに少しずつ幅の広さが異なります。福ちゃんたちから見て、いちばん右側が狭く、いちばん左側が広いゲートです。右端と左端のゲートでは、2倍ぐらいの幅の違いがありそう。福ちゃんは以前、ゲートの手前で立ち止まってしまい、テコでも通ろうとしなかったのですが、あれから2か月が経って成長しているのでしょうか。

福ちゃんがゲートに向かってきました。あっという間に通り抜けたので、感嘆する暇もないぐらいです。何となく得意げな顔をしている福ちゃんが可愛い。それに続いて、他の馬たちは列になって、いちばん右側のゲートを通り抜けていきます。あの狭いところを良く通るなと驚きつつ、そういえば福ちゃんが通り抜けたのはいちばん左側のゲートだったことに気づきました…。

あれっ、他の馬たちは狭いゲートを通れているのに対し、福ちゃんは広いゲートを通っているではないですか!(笑)福ちゃんなりに成長は見せてくれましたが、他の馬にゲートの面では遅れを取っている現実を突きつけられました。福ちゃんの片目が見えないからではなく、慎重で納得しないと動かない性格ゆえの行動だと思いたい。ゲートを通ることは怖くないと納得してくれたら問題ないはずです。

その後、僕は松田さんに連れられて、坂路の真ん中地点まで行き、坂路調教の様子を撮影しました。理恵さんには下でスタート地点の様子を撮ってもらうことに。前回は坂路入りを嫌がり、尻っぱねやソッパをして迷惑をかけたようですが、今回は大丈夫でしょうか。下での様子も気になりながら、中腹で福ちゃんが駆け上がってくるのを待ちます。

「スタートしました」と松田さんが教えてくれてから、馬の蹄音と息遣いが少しずつ大きくなってきて、僕の真下を駆け抜け、頂上を目がけて登っていきます。頂上まで到達すると、ぐるっとUターンして、歩いて降りてきます。東京から半日かけてここまでやって来ましたが、わずか数分間で授業参観は終了。この後はシャワーで身体を洗ってもらい、馬房に戻ってご飯タイムです。

ご飯タイムの前に、福ちゃんの立ち写真を撮影させてもらいました。12月にも撮影しているので、あとで帰ってから、馬体の成長を確認してみたいと思います。相変わらず、腹回りもトモの身入りも寂しさは感じますが、暖かくなるにつれてグッと良くなる下地は整っています。

マネージャーの新平(しんひら)さんに「福ちゃんが(坂路入りを嫌がったりして)迷惑をかけてしまってすみません」と言うと、「いや、全然問題ないですよ。もっと大変な馬もいますから(笑)寒い時期なので牝馬はゆっくりとやっていますが、順調に来ているので安心してください」と言ってくれました。

新平さんの友人の息子さんが福元大輔騎手という話をしてくれました。福元大輔騎手は隻眼のマイティハートに乗って、カナダ版ダービーのクイーンズプレートを日本人として初めて制したジョッキーです。隻眼の馬、そして福つながり、縁を感じざるを得ません。

わざわざ帽子を取って挨拶してくれる松田さんと新平さんに見送られながら、僕と理恵さんは帰途に就きました。エクワインレーシングを選んで良かったと思える瞬間でした。あと半年後、福ちゃんはエクワインレーシングを卒業して、いよいよ競馬場に向かうのです。

エクワインレーシングから戻り、ひと息ついてから、ダーレー・ジャパンの種牡馬展示会に向かうことにしました。お昼ご飯は福ちゃんファンの方が送ってくださった、松阪牛のすき焼きです。最近、牛肉を食べるとすぐにお腹が痛くなるので、遠慮して2枚ぐらいしか食べられないのが残念ですが、ほっぺたが落ちそうなぐらい美味しい。お肉をガツガツ食べられていた子ども時代に戻りたい…。

碧雲牧場からダーレー・ジャパンまでは通常で15分ぐらい、雪道をゆっくりと走っても30分で到着します。理恵さんだけではなく、ミヅキさんとコーセーさんも見学に行くそうです。2台の車に分かれ、僕たちは出発しました。到着するとまだ前の組(他のスタリオンと違い、ダーレー・ジャパンは少人数に分けて複数回開催してくれます)が終わっておらず、カフェのような場所で待つことにしました。

種牡馬たちの現役時の写真が大きなパネルになって、迫力満点に飾られています。席に着くと、コーヒーが出てきました。あまりに美味しかったので、これはインスタントではないと思い、聞いてみると札幌に数店舗構えている「丸美珈琲店」の出張サービスのようです。それに加えて、プリンとスタバのサンドイッチまで出てきて、種牡馬を見る前からおもてなしの心に大満足です。

寛いでいると、「そろそろスタートします」と呼ばれ、展示場に行くと、さっそくレモンポップが入ってきました。写真や動画は撮ったのですが、「個人的な使用であれば」と言われたので、皆さまにお見せできずにすみません。レモンポップは非常に大人しく、性格の良さが伝わってきました。種牡馬展示会に参加するメリットのひとつは、種牡馬の普段の様子や性格を見ることができることです。最近は種牡馬の写真やウォーキング動画はネット上でも見られますが、展示会という生の舞台で見る何気ない挙動こそが、その種牡馬の素顔であったり本質であったりするからです。レモンポップはこの寒い時期にもかかわらず光り輝く毛艶で、筋肉量の豊富さも目立ちました。気の良さも相まって、スッと先行して押し切る競馬をする産駒が多そうです。

続いてパレスマリス。ミヅキさんが「首が太いですね」と言うように、レモンポップと比べてもゴツゴツしていて、筋肉のブロック塊の集まりが動いているように映るほど、パワフルな馬体を誇っています。産駒の1頭であるジャンタルマンタルこそ芝を走ったものの、本質的にはダート馬を出す種牡馬だと思います。年齢的にすでに16歳、あと何年、種牡馬生活を続けられるか分かりませんが、産駒がデビューしてからはダートの大きな舞台で活躍する馬たちがボコボコと登場しそうです。

ウィルテイクチャージ、ヨシダと続き、ついに僕の本命のサンダースノーがやってきました。登場からすでにテンションが高く、「これどっちにつけるの?」と理恵さんが聞くので「スパツィアーレです」と答えたところ、「うるさいにうるさいをつけるんだ(笑)」と返ってきました。育てる牧場としては、産駒たちの性格も気になるようです。僕がスパツィアーレにサンダースノーを選んだ理由は、スピードが足りないスパツィアーレにサンダースノーのスピードを補強したかったからです。

さらに言うと、馬体が分厚くて、パワータイプのスパツィアーレにスラリとしたサンダースノーを配合することで、重苦しくないスラっとした馬体の産駒が誕生するのではという設計です。案の定、目の前を歩くサンダースノーは決してごついパワータイプではなく、薄さを感じさせる馬体をしています。いかにもスピードがありそうですし、シュッとしています。

次はファインニードルです。これまでに登場した馬たちに比べると、中肉中背のこれといった特徴のない馬体。とはいえ、産駒はコンスタントに走っており、ダーレー・ジャパンの石澤さんいわく、「他の種牡馬に比べて繁殖牝馬に恵まれていない中でも産駒は走っている」とのこと。たしかにエイシンフェンサー、カルチャーデイ、アブキールベイ、そしてエイシンディードと種牡馬デビューから4世代続けてJRA重賞勝ち馬を送り出しています。GⅠを勝つような大物が出てもおかしくはないぐらい、種牡馬としての能力は高いものがあります。比較的細身の産駒が多いため、やはりダートよりも芝の短距離でこそと思われるのか、購買者が限られてしまうのです。

ラストから2頭目のフクムにも注目していました。だいぶ先の話ですが、福ちゃんの花婿候補をイメージしていた際、福ちゃんにフクムを配合したら面白いのではないかと思いました。説明するのも恥ずかしいのですが、福ちゃんの福とフクムのフクがかかっているという、おやじギャグにもならない話です。

そんなシャレを思いついてからフクムのことが気になり始め、現役時代のレースを見てみると、全盛期のコロネーションCの勝ちっぷりは素晴らしいですし、脚元の不安から1年レース間隔が開いたにもかかわらずウエストオーバーとの叩き合いを制したキングジョージ6世&クイーンエリザベスSもフクムの真価を物語っています。

血統的には、あのバーイードの全兄ですし、母の父がKingmambo、母の母の父がSingspielと日本の競馬に合いそうな血が母系に入っています。そして、「Stallions in Japan」で馬体や歩きを見てみると、意外にも馬体が薄くて、おそらく馬体は中サイズ。同じ時期に種牡馬としてダーレースタリオンにやってきたアダイヤーは馬格があってゴツさのあるタイプですが、それとは真逆のタイプです。

実際に目の前で見ても、フクムは良い意味で軽さがある馬体で、一瞬のスピード勝負にも強そうな馬体の薄さをしています。アダイヤーは日本の芝レースではスピードが足らずに長距離戦やダートに活路を見出す産駒が多そうですが、フクムは日本の芝1600m~2400mぐらいのレースでサンデーサイレンス系と良い勝負ができそうな種牡馬です。欧州的な血統からイメージされるような重さは全く感じられないという意味です。

パワータイプで大柄な福ちゃんにフクムを配合し、生まれた牡馬が皐月賞から日本ダービーと進む中央競馬のクラシック戦線を目指す未来を想像しながら、僕はダーレースタリオンをあとにしました。

(次回へ続く→)

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