中山金杯は毎年およそ1月5日、年の初めに行われる名物重賞である。1952年に中山競馬場芝2600メートルの条件で開催されて以来、今年は記念すべき70回目を迎えることとなった。
過去にグルメフロンティア(1998年)やシャドウゲイト(2007年)、ラブリーデイ(2015年)やウインブライト(2019年)などが、後に同じ年のJRAGIまたは海外GIを勝利。新年早々、今年の古馬GIを占う見逃せない一戦である。
ここ3年は、既に重賞ウィナーとなっている馬が戴冠していて、ハンデキャップ競走とはいえ上位人気馬の勝利が目立っている。
2021年最初のJRA重賞を制し、大きく飛躍するきっかけをつかむ馬、ジョッキー、トレーナーは果たして誰であろうか。
21頭が出馬登録を行い、うち17頭が出走、オープン競走勝利経験のあるミラアイトーンなどが除外された。
京都新聞杯を勝利したディープボンドは、ダービー5着や菊花賞4着と上位入線を果たし、クラシック三冠皆勤。有馬記念を賞金不足により除外され、1週間スライドでの出走となるが、4.3倍の2番人気に推された。
コントレイルやデアリングタクト、サリオスといった昨年クラシック戦線を賑わせた旧3歳世代からは、ディープボンドに加え、共同通信杯を勝利したダーリントンホール、福島で3勝したココロノトウダイが参戦。
有馬記念ではバビットやオーソリティが惨敗していることから、パフォーマンス次第で他の世代との実力差を推しはかることができるかもしれないと注目が集まった。
対するは、2勝クラスから2連勝でオープンクラスに昇格した上がり馬、ヒシイグアス。昨年は4戦2勝2着2回と安定した走りを見せた。ラジオNIKKEI賞で1番人気ながら9着に敗れた3歳夏以来の重賞挑戦で、ファンは3.1倍の1番人気に推した。
3番人気に推されたのはテリトーリアル、前年の中山金杯で11番人気ながら0.1秒差の3着、福島記念でも3着と重賞でも好走していた。
テリトーリアルまでの3頭が単勝オッズ一桁台に推された。
その他、重賞3勝のカデナやロードクエストを始め、小倉記念を制したアールスター。重賞初制覇となった福島記念から臨むバイオスパークは20.5倍の9番人気という評価であった。
レース概況
揃ったスタートを見せるも、カデナがショウナンバルディから不利を受けて後方から進んだ。内からテリトーリアル、外からウインイクシードから先手を主張。しかし中央からロザムールが制し、ハナを奪った。
その後ろの中位グループに、バイオスパークやヒシイグアス、ココロノトウダイ、ディープボンドなどが密着。後方にはアールスター、ロードクエストがおり、最後方は不利を受けたカデナであった。
大勢が変わらないまま、1000メートルを62秒で通過。第3コーナーからカデナ、ディープボンド、ロードクエストが外から追い上げを開始、馬群が凝縮した。
逃げるロザムールにウインイクシードが並び第4コーナーに進入。馬群の2列目は、ヴァンケドミンゴやココロノトウダイが内側に、バイオスパークとヒシイグアスが外側にポジションをとる。
残り200メートル手前からココロノトウダイとヒシイグアスが追い上げを開始。粘るウインイクシードらを残り100メートルで捕らえ、並んだまま先頭に躍り出た。
最後は、ヒシイグアスがココロノトウダイとの競り合いをクビ差制して、先頭で入線した。
そこから1馬身4分の3馬身離された3着は先に抜け出していたウインイクシード。3番人気のテリトーリアルは直線で伸びあぐねて6着。2番人気のディープボンドは進路を見いだせずに14着と大きく敗れた。
各馬短評
1着 ヒシイグアス
2勝クラスから3連勝で重賞初制覇。ハーツクライ産駒は、11年連続でJRA重賞制覇となった。
母ラリズは、アルゼンチン産馬でバーンスタインを父に持つ。競走馬としては、コンデッサ賞、オクレンシア賞というアルゼンチンのGIIIを2勝しているほか、CEスプリントというGIで2着の実績もある。
引退後は、繁殖牝馬として日本のノーザンファームにて繋養された。半姉となるダイワメジャー産駒、スミレは通算4勝を挙げてオープンクラスに出世を果たした。
ヒシアマゾンやヒシミラクルに代表される「ヒシ」を冠名に持つ馬による重賞制覇は、ヒシアトラスが勝利した2006年のエルムステークス以来15年ぶりの勝利であった。
30歳となった松山弘平騎手は、サウンドキアラで勝利した京都金杯に続く、「金杯2連覇」を達成。
昨年の1、2月は、東海ステークス(エアアルマス)やきさらぎ賞(コルテジア)、京都牝馬ステークス(サウンドキアラ)と重賞4勝と好スタート。その後は、デアリングタクトの牝馬三冠、キャリアハイの年間127勝を達成し、「特別な一年」となった。
現役を続行するデアリングタクトとともに、更なる飛躍が期待される。
2着 ココロノトウダイ
福島の3勝クラス勝利から参戦。負担重量53キログラムと他より恵まれたものの、クビ差屈し、2着。コントレイルとは未対戦の4歳馬が上位に食い込んだ。
所有する星野壽市氏は、群馬県高崎市にて本業を営んでいる。「心の灯台 内村鑑三」――群馬県民にお馴染み、上毛かるたの「こ」の札である。
こちらも30歳となる丸山元気騎手は、前年45勝、おととしの71勝から大きく下回ってしまった。前年の重賞勝利もレパードステークス(ケンシンコウ)のみであり、2021年初めの勝利を強く望んでいただろう。今回の走りを考えれば、デビュー以来ココロノトウダイのすべてのレースで騎乗してきた主戦騎手として、コンビで重賞勝利を狙えるはず。飛躍の年にできるか。
3着 ウインイクシード
最後の直線で逃げ馬に取り付き、残り100メートルまで先頭で粘ったものの3着。上位2頭にはあっさり差されたが、他を寄せ付けなかった。前年の中山金杯で2着の実績があるが、11番人気の低評価であった。
前年は、中山金杯から日経賞に進み8着敗退。その後は、勝利を挙げられなかった。しかし、福島競馬場では掲示板を外した経験はない。七夕賞や福島記念あるいは来年の中山金杯が、重賞勝利の舞台であろうか。
14着 ディープボンド
道中は後方から進んだために、位置取りが悪く最後の直線では伸びることができなかった。不本意な競馬であろうことからも、現時点で4歳世代と他の世代との力関係の比較することはできない。
レース総評
ゴール前での30歳の騎手同士による叩き合いは、見事なものであった。1月9日から再び新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、中山競馬が無観客開催となることが残念でならない。
5歳馬が中山金杯にて初重賞制覇といえば、2015年優勝のラブリーデイが記憶に新しい。彼はその後京都記念に進み、連勝を果たしている。2戦敗退ののち、宝塚記念や天皇賞(秋)を含む重賞4連勝。その年の最優秀4歳以上牡馬に選出されている。
ヒシイグアスはラブリーデイに続くことができるのか、注目したい。
写真:たなかゆうき