ウオッカとダイワスカーレットという2頭のライバル対決の熱も冷めやらぬ中、2009年の3歳牝馬クラシック戦線は幕を開けた。
その中心となっていたのは2頭であった。
古馬になってから天皇賞・秋やジャパンカップを制することになる名牝ブエナビスタ、そしてこちらも古馬になってドバイでG2レースを勝利するレッドディザイアである。
2頭の初対決の舞台となったのは、牝馬クラシック初戦の桜花賞(G1)。
ブエナビスタは前年の暮れに阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)を楽々と制して2歳牝馬チャンピオンになると、その勢いのまま桜花賞トライアルのチューリップ賞(G3)を制し、堂々の主役として駒を進めてきた。
一方のレッドディザイアは年明けデビュー。1月に新馬戦・2月にエルフィンステークス(OP)を勝ち進み2戦2勝、無敗での桜花賞出走となった。
その桜花賞、最後の直線に入ると、後方で待機していたレッドディザイアと、さらに後方に位置していたブエナビスタの末脚勝負が繰り広げられた。
大外から他馬をかわして追い込んでくる2頭。ゴール前100メートル程のところでレッドディザイアが抜け出し「勝ったか!?」と思われた瞬間、ブエナビスタがもの凄い脚でレッドディザイアを差し切ってゴールイン。
初戦は単勝オッズ1.2倍という断然の1番人気に応えたブエナビスタに軍配が上がったのであった。
クラシック2戦目の舞台となるのは、東京競馬場の芝2,400メートルで行われる優駿牝馬・オークス(G1)。
3歳牝馬にとっては経験のない未知なる距離での戦いとなるが、この舞台でもレースは2頭の一騎打ちとなる。
ゲートが開くとレッドディザイアは若干掛かり気味になりながらも桜花賞よりも前方のポジションを取っていった。
桜花賞では最後の直線、後方からよーいドンの末脚勝負で負けてしまったので、オークスでは同じ轍を踏まないようブエナビスタより早めにスパートして粘り込もうという陣営の作戦なのだろうか。
一方のブエナビスタは桜花賞同様に後方待機策。直線の長い東京競馬場で、ラストスパートに賭ける。
直線に入り先に抜け出したのはレッドディザイア。残り200メートル付近で先頭に立つ。ブエナビスタも後方から大外一気で追い込んでくるが差はまだ十分にある。
──今度こそレッドデザイアの勝利なるか!?
ゴール版目前まで先頭を守り切るレッドディザイア。猛然と追い込んでくるブエナビスタ。2冠達成か、雪辱なるか、どっちだ──。
最後は馬体を合わせ2頭並んでのゴールイン。
結果はハナ差でブエナビスタの2冠達成。レッドディザイアはまたしても苦渋を飲まされることとなってしまった。
そして夏を越し、牝馬三冠の最終戦・秋華賞(G1)で、両者は再び相まみえることとなる。
ブエナビスタは夏の札幌記念(G2)で一線級の古馬を相手に2着に敗れつつも、その経験を糧に牝馬三冠の達成へと挑んできた。
レッドディザイア陣営も、最後の一冠こそは……と雪辱に燃えていたことだろう。
牝馬三冠の達成か雪辱を晴らすのか──競馬ファンの注目がこの1点に注がれる中、秋華賞のファンファーレが鳴り響いた。
ゲートが開くとレッドディザイアは中団内目のポジションを取り、抑えきれないくらいの抜群の手応えでレースを進めていく。
ブエナビスタもレッドディザイアを意識してか、これまでよりも前のポジションで虎視眈々と勝利を狙っている。
4コーナーを曲がる頃にはレッドディザイアの真後ろにブエナビスタが迫ってきていて、完全に射程圏内にとらえられられてしまっていた。
──ように見えた。
直線に入るとレッドディザイアが先に抜け出し、後ろからブエナビスタが猛然と迫ってくる。最後は2頭並んでゴールイン。オークスと全く同じ展開にも見えた。
観衆が掲示板を見守る中、1着に表示された数字は5番。
そう、レッドディザイアがブエナビスタをハナ差抑え込み、最後の一冠を手にしたのである。
ただ、このレースでは最後の直線でブエナビスタはブロードストリートの進路を妨害してしまうという場面があった。その際、ブエナビスタに騎乗していた安藤勝己騎手も後ろを振り返り、一瞬だがそっちに気を取られてしまっていたようにも、見える。
その一瞬の意識の妨げがなければ、もしかしたらブエナビスタが……というのは、神のみぞ知ることである。
そんな2009年の秋華賞は、プライドを賭けた2頭の素晴らしいレースであったとともに、勝負の綾も感じさせるレースとして記憶に刻まれているレースでもある。
写真:Horse Memorys、ふわまさあき