新しい時代、令和の幕が開いた。
希望にあふれる時代の始まりは険しい自然の脅威にぶつかった。観測史上例を見ない巨大な台風、複雑な気象要件が揃ったことで大地を打ちつけた大雨。川が狂い、山が泣き崩れ、人々は日常と安らぎを奪われる。
令和とは未知なる世界。我々は前例踏襲を捨て、新世界を生きることとなった。
これは競馬の世界もまたしかり。
前史を打ち破り、新しい価値観を伝える象徴がアーモンドアイとサートゥルナーリアの2頭。
トライアルレースに出走せず、GⅠからGⅠを勝ち抜く姿はこれまでの日本競馬の常識では考えられないものだった。
天皇陛下御即位慶祝第160回天皇賞(秋)。
未知なる時代・令和の門出を祝うレースらしく、GⅠタイトルホルダーが10頭という超豪華メンバーが揃った。
その主役はやはり令和の象徴アーモンドアイとサートゥルナーリア。
これが初対決の4歳女王と3歳の挑戦者、さあどちらが強いのか。
ほかにも主役級が大勢いる。
ダノンプレミアム、ワグネリアン、スワーヴリチャード、アエロリット、アルアイン、ウインブライト、ケイアイノーテック、マカヒキとGⅠ馬がズラリ。
新潟記念を勝ったユーキャンスマイル、オールカマーを勝ったスティッフェリオ、京都大賞典で復活したドレッドノータスなど、伏兵に至るまでため息が出るほどの豪華さである。
レースは常にスタイルを崩さないアエロリットがスタートを決め、先手を奪う。
番手もオールカマーを逃げ切ったスティッフェリオと予定通り。
驚くべきは、やや出遅れたサートゥルナーリアが馬群をかいくぐるように3番手のインを取った場面。
スミヨン、恐るべしである。
外からドレッドノータス、間からダノンプレミアムが来て、枠なりから最内にいたアーモンドアイは2角で一歩引いた6番手あたりにつけた。
中団前に春に香港であっと言わせたウインブライト、直後のインに昨年の1番人気馬スワーヴリチャード、外にランフォザローゼスがつけ、さらに外から2000mGⅠ2勝のアルアインが押しあげていく。
ゴーフォザサミット、ワグネリアンが続き、大きな集団を形成。
やや離れてユーキャンスマイル、3年前のダービー馬マカヒキ、昨年のNHKマイルC馬ケイアイノーテックが続き、カデナが最後方。
最初の1000m通過タイムは59秒0。
アエロリットにしてはかなりスローに落とした。
ベストは1800mの同馬にとって2000mは極力ゆっくり、体力を使わずに進めたい距離だけに理想的なペースとなった。
一方、先行勢にとっては我慢を強いられる流れとなり、特に前半でポジションを取りに行ったサートゥルナーリアはスミヨン騎手との折り合いがなかなかつかない。
アーモンドアイは対照的に静かにその背後を脅かす。
後半800mからアエロリットがペースアップする。
これもこの馬の形。
先に先にペースを上げ、レースを持久力戦に持ち込んでいく。
しかし、背後のダノンプレミアムもサートゥルナーリアもペースアップに置かれるような馬ではない。
そう簡単にアエロリットから離れない。
そして、最後の直線に入る。
先頭アエロリット、外に行ったダノンプレミアム、アエロリットに並ぶサートゥルナーリア、横一線になった3頭の叩き合いが演じられ、その直後のアーモンドアイは進路がない。
ダノンプレミアムの外に出せなければ、同馬とサートゥルナーリアと間はスペースがあるようだが、ここは突けない。
どちらもアーモンドアイが入らんとすれば、必ずスペースを消しに来る。
ルメール騎手もそれは承知の上。
狙うなら、内ラチ沿いとサートゥルナーリアに併せに行ったアエロリットの間しかない。
それもサートゥルナーリアがアエロリットに競り落とされれば、次はこのスペースも消されるにちがいない。
逡巡する暇はない。入るならこの瞬間しかない。
迷わずアーモンドアイはインに突っ込んだ。
この一瞬の出来事がレースを決めた。
アエロリットのインから一気にギアをあげたアーモンドアイが突き抜ける。
案の定、アエロリットに競り落とされたサートゥルナーリアが勢いを失い、ダノンプレミアムはアエロリットの二枚腰に差し返されかける。
外から後方にいたユーキャンスマイルとワグネリアン、同じ勝負服が迫る。
しかし、アーモンドアイはそれら攻防の前方。
あっという間に2着以下に3馬身という決定的な差をつけて先頭でゴール板を駆け抜けた。
2着は最後の攻防をしのいだダノンプレミアム。
3着は差しかえしに行ったアエロリットが粘った。
勝ち時計は1分56秒2(良)。
各馬短評
1着アーモンドアイ(1番人気)
2角でインに押し込められ、ポジションを下げ、直線では行き場を失う場面がありながら、突き抜ける。
スローペースの3馬身差はメンバーを考えても記録以上の完勝。
比類なき女王。
令和のはじめ、時代を作るスーパーホース。
これ以上の讃える言葉はない。
2着ダノンプレミアム(3番人気)
ベストの舞台、ベストの距離、ベストなローテーション。
これ以上ない状況だっただけに今回は完敗の内容。
それでも強気な競馬から最後までアエロリットに競り勝ち、後続も完封。
現状のポテンシャルは十分発揮した印象。
気性的にどうしても道中に引っ掛かる場面がある馬で、下げてタメが効かない点は今後に向けた課題だろう。
3着アエロリット(6番人気)
アーモンドアイが表舞台の主演女優であるなら、この馬は陰に咲く名女優。
自身が勝つにはもう少し速いペースを刻んだ方がいいかもしれないが、そこは距離2000mに対する不安があってのことだろう。
強気になれなかった分、ダノンプレミアムを差しかえせなかった印象もあり、適正距離で彼女らしい後続の脚を削るような競馬が見たい。
5歳牝馬、3歳以来のタイトルまで時間は多くない。
なんとか助演女優だけでなく、主演の座を射止めたい。
総評
時代は前例なき令和。
安田記念から直行で天皇賞(秋)を制したのはアーモンドアイが初で、最長間隔勝利記録となる。
そして、2着ダノンプレミアムもまた同じローテーション。
やはり時代は変わった。
短期間で200mの距離延長となったアエロリットがその課題に対してラップバランスを変えたように、もはや克服すべきは短期間の変化ではなく、レース間隔の方が組しやすいというのは以前の競馬の常識では考えられない現象だ。
しかしこれが新たな時代なのだ。
競馬は着実に変化している。
同じレースは2度とはなく、変化は進化に等しく、そのシンボルがアーモンドアイ。
昭和にも平成にもない競馬が令和にはある。
これから先、ともに思う存分、令和の競馬を楽しみたい。
写真:shin1