[重賞回顧]新種牡馬の産駒が描いた、血統の未来予想図~2022年・皐月賞~

大混戦、そして波乱の決着が続く春のGIレース。例に漏れず、牡馬クラシック第一弾の皐月賞も、主役不在の混戦となった。

2022年に行なわれた、ほぼすべての前哨戦の勝ち馬が集結。それに、ホープフルSと東スポ杯2歳Sの勝ち馬が加わり、思い浮かぶ3歳牡馬はすべて揃ったといっても過言ではない好メンバー。実に、6頭が単勝オッズ10倍を切り、主役不在の混戦であるかを如実に表していた。

その中で、1番人気に推されたのはGI馬のドウデュース。デビューから3連勝で朝日杯フューチュリティSを制し、鞍上の武豊騎手に悲願のタイトルをもたらした。今季初戦となった前走の弥生賞は、クビ差の2着に惜敗したものの内容は上々。2つ目のビッグタイトル獲得なるか、注目されていた。

2番人気は、同じハーツクライ産駒で、最内枠に入ったダノンベルーガ。新馬戦を上がり3ハロン33秒1の末脚で完勝すると、休み明けの共同通信杯も勝利し、重賞のハードルもあっさりとクリアしてみせた。右トモに不安があり、直前まで出否は発表されなかったものの、1週前に出走を表明。潜在能力の高さは疑いようがなく、無敗での戴冠が期待されていた。

ダノンベルーガとは対照的に、大外枠を引いたのが3番人気のイクイノックス。デビュー戦では、後の2歳女王、サークルオブライフらを相手に6馬身差で圧勝し、一躍注目を集める存在となった。その後、東スポ杯2歳Sも完勝し、今回はそれ以来の実戦。前例のない中147日のブランクと大外枠を克服できるか、注目が集まっていた。

2つ目のGIタイトル獲得を目指すのは、4番人気のキラーアビリティも同じ。前走のホープフルSは、3番手追走から直線抜け出すソツのないレース運びで完勝。GIの舞台で重賞初制覇を飾った。今回は、それ以来3ヶ月半ぶりの実戦。ディープインパクト産駒として4頭目の皐月賞馬となるかも、注目されていた。

以下、3走前の札幌2歳Sを完勝したジオグリフ、弥生賞でドウデュースに競り勝ったアスクビクターモアが人気順で続いた。

レース概況

ゲートが開くと、逃げると思われたデシエルトが躓くようなスタート。一方、内から先手を切ったのはアスクビクターモアで、挽回したデシエルトが2番手につけ、1コーナーから2コーナーへと入った。

以下、ボーンディスウェイとビーアストニッシドが1馬身間隔で続き、イクイノックス、ジオグリフ、ダノンベルーガが5番手で横一線。その1馬身後ろにキラーアビリティが続き、ここが中団。対して、1番人気のドウデュースは、なんと後ろから2頭目でレースを進めていた。

前半1000mは1分0秒2で、馬場を考えると平均ペース。先頭から最後方まではおよそ12、3馬身の隊列で、レースは3コーナーへと入った。

勝負所を迎えても、依然として軽快に逃げるアスクビクターモア。残り600の標識を過ぎたところで、デシエルトがこれに並びかけ、イクイノックスが一つポジションを上げた。すると、直後にいたジオグリフもこれに合わせるように上昇。ダノンベルーガは、内を突いて前を射程に捉え、ドウデュースもようやく中団まで進出したところで、レースは最後の直線を迎えた。

直線に入るとデシエルトが脱落し、坂下でダノンベルーガ、アスクビクターモア、イクイノックス、ジオグリフの4頭が横一線。しかし、坂を上りきるあたりから脚色の差が徐々に出始め、1枠の2頭を振り切ったイクイノックスとジオグリフのマッチレースに。

そこから叩き合いになるかと思われたものの、残り50mでジオグリフが前に出ると、最後は1馬身差をつけ、見事1着でゴールイン。2着にイクイノックスが入り、直線で猛然と差を詰めたドウデュースが、1馬身4分の1差の3着に続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分59秒7。近2走、連敗していた札幌2歳Sの覇者が、見事巻き返しに成功。この世代が初年度産駒となる父ドレフォンに、初のGIタイトルをプレゼントした。

各馬短評

1着 ジオグリフ

良馬場とはいえ、やや渋った馬場。さらには、枠を味方につけて快勝。朝日杯フューチュリティSで5着に敗れ、実力にケチがつきかけていたが、巻き返しに成功した。

それを強力に後押ししたのは、陣営とノーザンファーム天栄のバックアップ。そして、フェブラリーSのカフェファラオに続き、またも初騎乗の関東馬でGIを制した福永騎手の手腕だった。

ダービーに向け、距離延長は問題にならなさそうだが、良馬場で行なわれた際の瞬発力勝負は、正直やや分が悪そう。積極的な競馬から、持久力勝負に持ち込むのか。再度、福永騎手の手腕に期待がかかる。

2着 イクイノックス

ほぼ完璧なレースを見せたものの、直後につけていたジオグリフに競り負け、惜しくも戴冠はならなかった。

この馬も、どちらかといえば持久力勝負に強そうなタイプ。距離延長は問題なさそうだが、ダービーで求められるスピードと瞬発力でライバルたちを上回ることが出来るか。それが、世代最強馬になるためのポイントになりそう。

3着 ドウデュース

自身より外枠からスタートした差し馬が積極的なレースをし、気がつけば、後方を追走していたというような、ややもったいないレース。それでも、地力の高さで3着まで追い込んできた。

一見、最もダービーに繋がりそうなレースをし、ハーツクライ産駒で距離延長も問題なさそうだが、ピッチ走法のため、2400mは長い可能性がある。ただ、管理するのは、東京2400mを最も得意にする友道調教師。同じハーツクライ産駒で内枠に泣いたダノンベルーガとともに、巻き返しがあっても全く不思議ではない。

レース総評

前半1000mが1分0秒2、同後半は59秒5。やや後傾ラップとはいえ、ほぼイーブンペースで、最後もほぼスピードが落ちない、底力と持久力が求められるレースになった。

その中で、結果を大きく左右したのが、週末の空模様。金曜日に降り続いた雨で、土曜日は重馬場でスタートし、その後、稍重へ。そして、日曜日の昼過ぎには良馬場へと回復したものの、実際は稍重に近い渋った馬場だった。それに加え、前開催から実に15、16日目の開催。日曜日になると、馬場の内側の痛みが目立ち始め、9レースの野島崎特別では、全馬、直線は内から2~3頭分を開けて走っていた。

好走馬の枠順を見てもそれは顕著で、皐月賞までに行なわれた芝、平地の競走は、土日で計7レース。土曜日の第6レースこそ、3、4枠の馬が3着内を占めたものの、それ以外のレースは、すべて5枠から8枠の外枠に入った馬が3着内を独占。一方、1、2枠から3着内に好走した馬はおらず、皐月賞も同様の結果。内枠に入った馬や、スピード、瞬発力を武器にする馬にとっては、厳しい馬場状態だった。

皐月賞の1、2着馬も、どちらかといえば持久力勝負に秀でたタイプ。レース内容などを踏まえると、ダービーでも好勝負間違いなしとは言い切れず、まだまだ混戦模様は続きそう。最内枠でも4着に健闘したダノンベルーガや、少し負けすぎの感はあるものの、内にこだわった結果、伸びを欠いたキラーアビリティは、ダービー4連覇中のディープインパクト産駒という点でも、巻き返しがあって不思議ではない。

一方、1、2着馬の血統面にも目を向けると、父はドレフォンとキタサンブラック。この世代が初年度産駒となる新種牡馬のワンツーで、3、4着がハーツクライ、5着がディープインパクトの産駒だった。

また、桜花賞の1着から5着馬の父も、産駒がデビューから3世代目以内の比較的新しい種牡馬たち。この1週間で、血統の未来予想図は確実に書き換えられ始めている。

2010年代を引っ張ってきたスーパーサイヤーのディープインパクトとキングカメハメハが相次いでこの世を去り、ハーツクライも種牡馬を引退。3歳馬、そしてあと1ヶ月半後にデビューを控える2歳世代の種牡馬リーディングは、群雄割拠の時代を迎えようとしている。

その乱世を制するのは、果たしてどの馬だろうか。その前に、ディープインパクトやハーツクライの産駒が、ダービーで最後の意地を見せるのだろうか。5月29日の頂上決戦が、なんとも待ち遠しい。

写真:かぼす

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