[重賞回顧]王者、再び春風を切る~2026年・高松宮記念~ 

2026年の高松宮記念は、20℃を超える晴天に恵まれた。ファンも人馬も、やわらかな春の日差しに包まれながら中京競馬場に集う。春のG1シーズン開幕戦にふさわしい、絶好の競馬日和だった。

注目を集めたのは、前年の上位3頭がそろって再び顔を揃えたことだ。サトノレーヴ、ナムラクレア、ママコチャ。昨年の激戦を彩ったスプリンターたちが、今年もまた中京芝1200mに集結した。

サトノレーヴは中東情勢を考慮して春の遠征を見送り、国内に専念。堀厩舎に2010,11年の連覇をもたらした名馬キンシャサノキセキに続く連覇を狙う。昨年はモレイラ騎手とのコンビだったが、今年はルメール騎手との新コンビで参戦。ルメール騎手自身も、このレースはまだ勝利がなく、初制覇がかかっていた。

2歳時の小倉2歳ステークスを皮切りに、重賞に22戦挑んで5つのタイトルを積み重ねてきたナムラクレア。前走の阪神カップを経て、この高松宮記念を最後に引退することも事前に発表されていた。重賞23戦目の鞍上には、これまで最も多く手綱を取ってきた浜中俊騎手が戻る。競走馬としてのラストランを、勝利で締めくくれるかにも大きな視線が注がれた。

シラユキヒメ一族のG1馬ママコチャは、昨年と同じくオーシャンステークスをステップに参戦。鞍上はスプリンターズステークスをともに制した川田将雅騎手だ。前走は差し馬が台頭する速い流れの中で4着。先行して3着に踏ん張ったルガルが、前夜のアルクォーツスプリントで僅差2着に好走していたことを思えば、内容は決して悪くない。雨の馬場は歓迎ではないが、この日は快晴。1勝、2着2回、3着2回と好相性の中京コースで、2つ目のG1タイトルを狙ってきた。

他にも、昨年のスプリンターズステークスで8歳にして三浦皇成騎手とともに悲願のG1初制覇を果たしたウインカーネリアン、その2着馬ジューンブレア、昨年のNHKマイルカップ勝ち馬パンジャタワーなどが参戦。18頭のうち15頭が重賞ウィナーという、春の開幕戦にふさわしい濃密な顔ぶれが揃った。

例年より早く咲いた桜の花びらが舞う中京で、春を切り裂く6ハロンの決戦が幕を開けた。

レース概況

スタートこそ各馬ほぼ揃って出たが、ヤマニンアルリフラ、ママコチャ、ララマセラシオンはダッシュがつかず後方から。先行争いではまずウインカーネリアンが前を主張するが、外からピューロマジック、さらにインビンシブルパパが抜群のダッシュを決め、一気にハナを奪った。

時速75km近い極限のスピードで飛ばすインビンシブルパパの後ろは数馬身離れ、ピューロマジックが馬群の先頭。さらに大外枠から前へ出したジューンブレアが続き、その内にヨシノイースター、5番手付近にパンジャタワーとウインカーネリアンが並ぶ。サトノレーヴは馬群の中ほど、ナムラクレアは後方3-4番手でコーナーへ入った。

そのサトノレーヴの後方では、インに入れようとした岩田康誠騎手のペアポルックスと、外へ持ち出そうとしたレッドモンレーヴが接触する場面もあった。さらに前を行く先行勢のペースがあまりに厳しいと見て、後方の差し馬たちは外へ進路を求め、直線での攻防に備える。

直線に入ると、逃げるインビンシブルパパを目標に先行馬群からパンジャタワーとウインカーネリアンが抜け出す。残り200mでウインカーネリアンが先頭へ立ち、一度は押し切るかに見えた。

だが、その外からサトノレーヴが末脚を一気に解き放つ。高速決着の中でも脚勢はまるで鈍らず、力でねじ伏せるように前を交わし去った。さらに大外から追い込んできたレッドモンレーヴにも2馬身差をつけ、堂々の連覇達成となった。

3着争いは最後まで際どくなったが、パンジャタワーをもう一度差し返したウインカーネリアンが意地の3着。パンジャタワーは4着、そしてラストランとなったナムラクレアは直線で進路が開かず、6着で現役生活を終えた。

各馬短評

1着 サトノレーヴ ルメール騎手

ルメール騎手との初タッグで挑んだサトノレーヴ。ジョッキーカメラの映像でゴール後に語られた通り、「馬が自らハミを取って」加速し、後続を寄せ付けない快勝で高松宮記念を連覇した。

先行勢の激しいポジション争いを見送り、自身より外の枠の馬たちが前へ行くのを確認してから、ルメール騎手は冷静に外目の進路を選択。コーナーでの接触事象にも巻き込まれず、余力を残して直線へ向いた。

そのスムーズなレース運びは、ジョッキーカメラのスピードメーターにも表れている。スタート直後の加速から、コーナーで一瞬だけスピードを緩め、フィオライアの内を通って直線で進路を確保すると再加速。ゴールまで大きく減速することなく、スピードで押し切ってみせた。

上がり3ハロン32.4秒は、1200mのJRA・GI史上、そして1200mのJRA重賞勝ち馬史上でも最速。現役屈指のスピード能力でルメール騎手にこのレース初制覇をもたらし、自身は史上2頭目の高松宮記念連覇を達成した。

日本を代表するスプリンターとして、再び香港のチェアマンズスプリントプライズ、そしてイギリス・アスコット競馬場のクイーンエリザベス2世ジュビリーステークスへ。昨年に続く海外挑戦にも期待が高まる。

2着 レッドモンレーヴ 酒井学騎手

最後の勝利は2023年の京王杯スプリングカップ。それ以降も後方一気の末脚で見せ場を作り続けてきたレッドモンレーヴが、今回は15番人気の低評価を覆す激走を見せた。

スタートをしっかり決めて後方で脚を溜める形。3コーナーでは内に寄ってきたペアポルックスに応戦し、直線ではこれを押し返すようにして大外へ進路を取った。両馬とも過怠金の対象となり、決してクリーンな攻防ではなかったが、結果として前に壁のない進路を確保できたことが、この馬の持ち味を引き出す形にもなった。

直線ではサトノレーヴ、そして前で粘る先行勢を目標に鋭く加速。上がり2位の32.5秒で一気に差を詰め、2着まで追い上げてみせた。ハイペースが差し馬向きの流れを生んだことは確かだが、それでも最後まで脚勢を鈍らせずに伸び切った点は高く評価したい。

スプリントからマイルまで対応できる馬だけに、展開ひとつで京王杯スプリングカップ2勝目、さらにはその先の安田記念まで視野に入ってくる。まだ大舞台で一撃を秘めた存在だ。

3着 ウインカーネリアン 三浦皇成騎手

9歳を迎えた今年も、先行勢の中で力強く駆け抜けたウインカーネリアン。2024年に重馬場の高松宮記念で4着に好走していたが、今回はスプリンターズステークス、高松宮記念の両GIを1分6秒台で走破した史上初の馬となった。しかも8歳秋から9歳春にかけて成し遂げたのだから、その価値は大きい。

直線ではサトノレーヴ、レッドモンレーヴの決め手に屈したものの、最後まで闘志は衰えず、パンジャタワーを差し返して3着を確保。「9歳以上馬のJRA平地GI最高着順」も更新した。

ここまで挙げた9勝すべてが三浦皇成騎手とのコンビ。今回もまた、その判断が光った。スタートを決めながらも無理にハナを奪いに行かず、テンの速いインビンシブルパパ、ピューロマジックを先に行かせて先行馬群の外で脚を溜める形を選択。この一瞬の判断が、最後まで踏ん張る余力につながった。

パンジャタワーとともに抜け出す場面では、手前を替えてもうひと伸び。勝負に向かう馬の気持ちと、それを最後まで引き出した鞍上の呼吸が噛み合っての3着だった。

サトノレーヴが中山1200mを得意とはしないだけに、この馬の持つスピードと持続力があれば、秋も再び主役級の走りを見せて不思議はない。元気はつらつ9歳馬、スプリンターズステークス連覇もまだ夢ではない。

6着 ナムラクレア 浜中俊騎手

ナムラクレアはこの高松宮記念をラストランに選んでの最後のGI挑戦だった。過去このレースで3度2着、スプリンターズステークスでも3度3着。2歳夏から7歳春まで、25戦中23戦を重賞で走り抜いた世代屈指の名牝である。

浜中俊騎手のジョッキーカメラからも、「最後こそ勝利を」という意志を持って臨んでいたことが伝わってくる。今回レースを分けたのは、ルメール騎手騎乗のサトノレーヴを後ろでマークする位置にいたことそのものではなく、そこから理想の進路を維持できなくなった点にあった。

もともとナムラクレアは、サトノレーヴより後ろで脚を溜め、直線で末脚勝負に持ち込む形を得意としてきた。今回もその形に持ち込もうとしていたが、ペアポルックスが内へ入ってきたタイミングで位置を下げざるを得なくなる。さらにレッドモンレーヴとペアポルックスが大外へ向かい、続いてダノンマッキンリーも外へ進路を取ったことで、ナムラクレアは馬群の外へ出すタイミングを失った。

その後、エーティーマクフィとダノンマッキンリーの間を抜けようとした時には、すでにサトノレーヴが加速を開始しており、その背中は4-5馬身前にあった。この超高速戦で、その一瞬の遅れはあまりにも大きい。だからこそ浜中騎手は、無理に外を大きく回すのではなく、馬群と外の馬の間、つまりサトノレーヴの後ろを追う本来のプランに近い進路を貫くほかなかったように見える。

最終的に上がり3位の32.7秒で追い上げていただけに、序盤の位置取りとコーナーでの不運が悔やまれる。勝利には届かなかったが、最後までナムラクレアらしい鋭さは失われていなかった。

レース総評

穏やかな陽気とは裏腹に、レースは一瞬の判断も許さない超高速戦となった。前半600m32.5秒、1000m55.2秒、そして勝ち時計1分06秒3。フルゲート18頭が春の中京で叩き出したのは、息を入れる間もない電撃の6ハロンだった。

こうした競馬では、単純な末脚の鋭さだけでは足りない。どこで脚を溜め、どこで進路を取り、どのタイミングで加速に移れるか。そのわずかな差が、着順に表れた。連覇を果たしたサトノレーヴは、速い流れの中でも自らハミを取って伸びる完成度の高さを見せ、レッドモンレーヴは不利のある攻防を経ながらも最後まで脚を削がれずに追い込んだ。ウインカーネリアンは9歳春でもなおGIで堂々と渡り合い、ナムラクレアは勝利こそ届かなかったものの、最後までその鋭さを失わなかった。

高松宮記念は、ただ春のGI開幕を告げるだけのレースではない。短距離路線の頂点を争う馬たちが、それぞれの持ち味と課題を浮かび上がらせる舞台でもある。今年はその輪郭が、時計の速さとともにいっそう鮮明になった一戦だった。

そして春のGI戦線は、ここから舞台を仁川へ移す。古馬中距離の大阪杯、牝馬三冠初戦の桜花賞、桜が揺れる阪神競馬場では、また新たな主役たちの物語が始まる。中京で火ぶたを切った春の競馬は、ここからさらに熱を帯びていく。

写真:@gomashiophoto、突撃砲

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