[重賞回顧]秒速の決断、差し脚交錯の府中決戦~2026年・NHKマイルカップ~

長かったゴールデンウィークも、いよいよ最終直線に差し掛かった。
東京競馬場ではGⅠレースが5週連続で行われ、その幕開けを飾るのが3歳マイル王を決めるNHKマイルCである。

このレースでは、春のクラシック戦線を目指した馬たちと、マイル・短距離路線を歩んできた馬たちが東京芝1600mに集う。

まず皐月賞組からは、2歳時に朝日杯FSを制したカヴァレリッツォ、デイリー杯2歳S勝ち馬アドマイヤクワッズが参戦。2400mの日本ダービーではなく、得意のマイル戦に舞台を戻して巻き返しを狙う。

今年は桜花賞から参戦する馬はいないものの、フィリーズレビューを勝利したギリーズボールが、優先出走権を使わずにこのレースへ照準を定めてきた。鋭い末脚で阪神競馬場を沸かせた一方で、デビュー以来馬体を減らしていたが、今回は回復に時間を充てて馬体重を8キロ戻し、G1の大舞台へ挑む。

年始のシンザン記念を制したサンダーストラック、ニュージーランドトロフィーを先行押し切りで勝利したレザベーション、新馬戦から連勝でチャーチルダウンズCを差し切ったアスクイキゴミ、ファルコンSで重賞2勝目を挙げたダイヤモンドノット、同舞台のサウジアラビアロイヤルCを追い込んで勝っているエコロアルバ、18頭中8頭が重賞ウィナーという豪華なメンバーが揃った。

その影響もあってか、レース直前まで上位人気のオッズは変動し続け、どの馬にも期待が集まっていることがうかがえた。

2歳重賞から走り続けてきた経験値か。それとも、この舞台に照準を定めてきた“狙い撃ち”の馬たちか。
今年のNHKマイルCは、どちらの組に勝利の女神がほほ笑むだろうか。

レース概況

比較的揃ったスタートからエコロアルバは後方へ下げ、ユウファラオが押して押して先頭を目指す。

前を行くユウファラオを追いかける位置にダイヤモンドノット、内にリゾートアイランド、外からハッピーエンジェル、レザベーションが続いて先行ポジションを形成。その後ろでサンダーストラックが控え、さらに一列後ろにジーネキング、カヴァレリッツォ、アドマイヤクワッズが横並びとなる。その間で掛かるギリーズボールを、西塚洸二騎手が手綱を引いて抑え、同じ勝負服を纏うローベルクランツの後ろへ誘導した。

前半600mを33.7秒で駆け抜けるユウファラオに、先行馬たちも離れず追走する。ギリーズボールの後ろでは、末脚勝負のアスクイキゴミ、アンドゥーリル、ロデオドライブ、バルセシートが数馬身差で続き、出たなりに後方を選択したオルネーロ、最後方ではフクチャンショウが追い込みの機をうかがっていた。

逃げるユウファラオを先行馬たちがぴったり追いかけることで、ペースは緩まない。息を入れる間もないままコーナーへ入ると、先行外目からレザベーションと原優介騎手が後続を確認し、早めに追い出して先頭を狙った。

残り400m、ここでレザベーションにダイヤモンドノットが並びかける。重賞2勝馬が直線の坂越えで何とかレザベーションを捉えるが、その外からアドマイヤクワッズが脚を伸ばす。

抜け出したダイヤモンドノットをアドマイヤクワッズが差し切ろうとした、そのさらに外。ピンク帽子の2頭、アスクイキゴミとロデオドライブが後方から末脚を爆発させ、前の各馬を一気に飲み込んでいく。

ゴール寸前にアドマイヤクワッズがダイヤモンドノットをかわし、さらにアスクイキゴミが前へ出る。その外からロデオドライブも脚を伸ばし、数秒の間に先頭争いは目まぐるしく入れ替わった。最後はアスクイキゴミとロデオドライブが並んでゴールへ飛び込んだ。

勝ち時計1分31秒5は、ダノンシャンティのレコードに0.1秒まで迫るもの。過去10年では最も速いタイムでの決着となった。写真判定の末、最後にダミアン・レーン騎手が首を伸ばすように導いたロデオドライブが勝利を手にした。

前の2頭から1馬身1/4差でアドマイヤクワッズが3着。その後ろから追ってきたローベルクランツが4着に入り、直線で最後は苦しくなったダイヤモンドノットも5着に粘った。早めに仕掛けて一度はダイヤモンドノットに交わされながら、もう一度脚を使ったレザベーションも6着と健闘した。

各馬短評

1着 ロデオドライブ レーン騎手

皐月賞で騎乗したカヴァレリッツォではなく、ニュージーランドトロフィー2着から参戦したロデオドライブに騎乗したレーン騎手。ロデオドライブはここまでの3戦すべてが中山競馬場で、今回が初の東京競馬場出走だった。高い末脚能力を持つこの馬の力を、レーン騎手がどのように引き出すかにも注目が集まった。

8枠から出たなりに後方外目を追走。これまでの3戦すべてで上がり最速を記録してきた末脚を、レーン騎手が引き出し始めたのは直線残り400m付近だった。後方2番手まで下がっても慌てることなく、前を行くアスクイキゴミを射程圏に入れながら大外から進出。最後の数完歩では、レーン騎手がロデオドライブの首を押すように導き、ハナが先にゴールラインを越えるよう瞬時にアクションを変えた。

その判断と馬の伸びが噛み合って、写真判定の末にGⅠタイトルを手にした。サートゥルナーリア産駒としては、カヴァレリッツォに続くGⅠ勝利。父譲りの一瞬の加速で全馬を差し切った、見事な末脚だった。

2着 アスクイキゴミ 戸崎圭太騎手

新馬戦からチャーチルダウンズカップまで連勝で勝ち上がった未知の新星、アスクイキゴミ。
デビューが2月の新馬戦だったことを思えば、わずかなキャリアで一気にGⅠの舞台まで駆け上がってきた素質の高さがうかがえる。

新馬戦は西村淳也騎手、前走は坂井瑠星騎手が手綱を取ったが、今回はそれぞれが別の馬に騎乗したため、戸崎圭太騎手との新コンビでの参戦となった。スタートの出にやや課題はあったが、勝ったロデオドライブと同じく末脚勝負を持ち味とする馬。無理に位置を取りに行かず、折り合いを重視しながら前に実力馬アドマイヤクワッズを見るポジションを確保したあたりは、さすが戸崎騎手というべきだろう。

直線ではロデオドライブよりも先に動き出し、大外で前に馬がいない形からじっくり加速。最後までしっかり脚を伸ばして2着に入った。着差が着差だけに惜しいレースではあったが、キャリア3戦目で重賞勝利に続くGⅠ2着。賞金面でも大きな加算となり、夏以降の選択肢は一気に広がった。

まだ伸びしろを残しながら、マイラーとしての素質をいかんなく発揮した好走だった。

3着 アドマイヤクワッズ 坂井瑠星騎手

坂井瑠星騎手が継続騎乗したアドマイヤクワッズ。弥生賞では先行策から後続を受け止める競馬で3着に入り、続く皐月賞ではロブチェンとリアライズシリウスによるレコード決着の流れについていけず15着に敗れた。しかし、舞台がマイル戦に戻れば、この馬本来のスピード能力が生きる。デイリー杯2歳Sをレコード勝ちした実績が、それを証明していた。

今回はルメール騎手騎乗のサンダーストラックを前に置き、後ろには前走で手綱を取ったアスクイキゴミが控える形。真ん中よりやや外目でリズム良く運びながら、最後の直線でもしっかり脚を使ってみせた。

一度はダイヤモンドノットに並びかけ、先頭争いへ加わる場面も作ったが、最後は外から飛んできた2頭の切れ味に屈しての3着。それでも、皐月賞大敗から条件替わりで巻き返し、“やはりマイルでは強い”ことを改めて示したレースだった。

5着 ダイヤモンドノット 川田将雅騎手

京王杯2歳S、そしてファルコンSと、“1400m重賞2勝”の実績を引っ提げて本番へ駒を進めたダイヤモンドノット。朝日杯でもあと一歩まで迫る2着があったが、前哨戦で距離を詰めたのは、この馬がよりスプリント寄りの適性を持つという福永調教師の考えもあってのものかもしれない。

それでも今回は、前半600m33.7秒の流れを先行しながら直線でもしぶとく脚を使い、一度は先頭へ立つ場面を作った。最後は外から差し勢に飲み込まれたものの、先行した馬たちの中では最先着となる5着。高速決着の中で地力の高さを十分に示した内容だった。

東京や阪神のように最後に急坂が待つコースでは、マイル戦で最後に甘くなる場面もあるかもしれない。
しかし、道中で坂を越えたあと直線へ向かう京都競馬場なら、マイルでも押し切れる可能性は十分に感じさせる。

もっとも、陣営の視線は今後スプリント路線へ向いていきそうだ。春にもう一戦使うなら葵ステークス、あるいは夏のサマースプリントシリーズへ向かう可能性もあるだろう。古馬相手にどこまで戦えるか、今後も楽しみな存在である。

6着 レザベーション 原優介騎手

原優介騎手とのコンビでニュージーランドトロフィーを制し、本番へ駒を進めてきたレザベーション。
前走では逃げるヒズマスターピースを射程圏に入れながら、後方からロデオドライブが迫ったところで迎え撃つ形でムチが入り、そのまま押し切って重賞初制覇を飾った。

今回も前走同様に先行馬の中で真っ先に馬群から抜け出し、直線では押し切りを狙う形。
外からダイヤモンドノットに交わされた後も、原優介騎手のもう一押しに応えて再び脚を使い、一度は開いたダイヤモンドノットとの差をクビ差まで詰めた。

結果は6着だったが、上位馬の中では最も前の位置でレースを進めながら、差し有利の展開で最後まで踏ん張った内容は高く評価できる。直線で苦しくなってもなお前を追い続けた姿からは、このコンビの勝負根性が伝わってきた。

今後も原優介騎手とともに、強気の競馬で勝利を狙っていってほしいコンビである。

レース総評

今年のNHKマイルカップは、クラシック路線から転戦してきた馬たちと、この舞台を狙って歩んできたマイラーたちが真正面からぶつかり合う一戦となった。
そして最後に栄冠を掴んだのは、“マイル路線を狙い撃ちした組”だった。
ロデオドライブが勝った新馬戦の日、阪神競馬場のメインレースは朝日杯FSだった。更に2着のアスクイキゴミは2月デビューでこの大舞台に辿り着いたのだから、遅れてきた大物というべきなのかもしれない。

前半600m33.7秒。先行各馬が互いを意識して息を入れられない流れとなり、直線では東京競馬場らしい瞬発力勝負へと変化した。レザベーション、ダイヤモンドノット、アドマイヤクワッズと、各路線の実力馬たちが早めに抜け出して押し切りを狙う中、最後方近くから一気に差し込んできたロデオドライブとアスクイキゴミの末脚は際立っていた。

勝ったロデオドライブは、これまで中山のみを走ってきた馬だったが、東京1600mという舞台でその瞬発力をさらに引き出した。レーン騎手の冷静な進路選択、そしてゴール前での瞬時のアクション変更も含め、人馬の集中力が写真判定を呼び込んだ勝利だったと言える。

惜しくも2着だったアスクイキゴミも、キャリア3戦目とは思えない完成度を見せた。デビューからわずか2か月ほどでGⅠ戦線にたどり着き、最後まで勝ち馬と並ぶ脚を使った内容は、今後の飛躍を十分に期待させるものだった。

また、3着アドマイヤクワッズは皐月賞大敗から条件替わりで巻き返し、やはりマイル戦で高い能力を持つことを証明。5着ダイヤモンドノット、6着レザベーションも、先行勢総崩れになりかねない流れの中で最後まで踏ん張り、それぞれの持ち味を示した。

2歳時から重賞戦線を歩んできた経験値か、それともこのレースへ向けて照準を絞った“狙い撃ち”のローテーションか。レース前から注目されたテーマに対し、今年は後者の勢いが勝った形となった。
しかし、皐月賞組のアドマイヤクワッズも上位争いに加わり、クラシック戦線のレベルの高さも同時に示された一戦だった。

東京競馬場のマイルGⅠシリーズは、次週のヴィクトリアマイル、そして6月初週の安田記念と続いていく。経験豊富な古馬たちは、同じ東京芝1600mでどのような走りを見せるのだろうか。世代トップクラスの3歳馬たちが繰り広げたこの高速決着と見比べながら、今後のマイル戦線にも注目していきたい。

写真:s1nihs、すばる、だいゆい、ぼん(@Jordan_Jorvon)

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