
競走馬にも、それぞれ得意不得意がある。
距離の長短や馬場の重さ、コース形態でいえば坂の有無など、レースを取り巻く条件はさまざまだ。そうした条件への向き不向きが、いわゆる“適性”と呼ばれるものであると、私は思う。
平地の競走でももちろん重要となる要素ではあるが、こと障害競走となれば、話はさらに複雑になる。
例えば、障害競走において求められるコースへの適性は、平地のそれとはやや異なる。専門のコースに常設された固定障害を越えていくものもあれば、障害競走の開催に合わせて芝コース上に設置される置き障害を飛越するものもあるのだ。これらの障害は、高さや幅にも差がある。
つまり、出走するレースや使用されるコースによって馬に求められる能力も変わってくる。さらに、馬場を斜めに横断する襷コースが設置されている競馬場もあり、競馬場ごとにそれぞれ特色がみられる。
これだけ条件に違いがあれば、得意とする舞台が馬によって違うのも何ら不思議ではない。そんな障害競走において、近年、特に東京競馬場にて行われる2つの障害重賞で好成績を重ねてきた馬がいる。彼の名は、ジューンベロシティ。
■ 東京で積み重ねた強さ
東京競馬場では、6月に東京ジャンプS、10月に東京ハイジャンプが開催される。
どちらも障害芝3110mで行われるが、飛越する障害の構成には一部違いがある。その両方でジューンベロシティは勝利を挙げるなどめざましい活躍を見せてきた。
もちろん、彼の活躍は東京競馬場に限ったものではない。それでも、近年の東京ジャンプS・東京ハイジャンプの結果を振り返れば、ファンの間で東京の障害重賞とジューンベロシティが強く結びつけて語られるのも不思議ではなかった。
始まりは、2023年の東京ジャンプSに遡る。6番人気ながら、自身初の重賞タイトルを掴み取ったジューンベロシティ。その後、中山グランドジャンプへの挑戦などを経て、翌2024年には連覇を果たした。同じ競馬場、同じ重賞で異なる騎手を背に先頭でゴール板を駆け抜けた。

ひとつの勝利だけなら、展開や条件などがたまたまかみ合ったものと見ることもできるかもしれない。しかし、同じ舞台でもう一度勝てば話は変わる。“東京で強い馬”という印象は、こうして少しずつファンの間で形を持ち始めていた。
とはいえ、東京競馬場の重賞だからといって常に思い通りにいったわけではない。2023年秋には1番人気に支持された東京ハイジャンプで4着に敗れ、惜しくも東京ジャンプSに続く勝利を挙げることはできなかった。
それから1年。3連休の中日に行われた東京ハイジャンプには多くの観客が詰めかけていた。この日、東京ジャンプS連覇の実績もあり、ジューンベロシティが1番人気に支持された。
期待に応えるように、積極的にハナを切りレースを引っ張った。そのまま一度も先頭を譲ることなく、後続を退けた。まさに横綱相撲といった勝ち方であった。東京で行われる障害重賞の春秋制覇を達成したジューンベロシティは、ここに“東京巧者”としての地位を築いた。
そしてその2着に入ったのが、エコロデュエルだった。
■ それぞれが手にした勲章
この時点で、エコロデュエルもすでに障害重賞を制していた。2頭は、その後も同じ重賞戦線を歩み、時にはJ・GⅠの舞台でも顔を合わせながら、それぞれさらに実績を積み重ねていく。
2025年の春、エコロデュエルは中山グランドジャンプを制覇。ついにJ・GⅠタイトルを手にし、障害界の頂点へと上り詰めた。

一方のジューンベロシティも同年6月の東京ジャンプSを勝利。前人未到の3連覇を成し遂げ、東京での強さをさらに確かなものとした。

前年に東京ハイジャンプの舞台で競い合っていた2頭。しかし、1年を経て、それぞれが背負う肩書はより鮮明なものとなっていた。
■ 再び、東京で
そして迎えた10月。2頭の姿は再び、東京競馬場にあった。
東京ジャンプS3連覇を成し遂げ、東京の障害重賞で2度目の春秋制覇を目指すジューンベロシティ。中山グランドジャンプを制し、J・GⅠ馬として臨むエコロデュエル。人気も2頭に集中し、ジューンベロシティが1番人気、エコロデュエルが2番人気に支持された。
ゲートが開くと、ジューンベロシティがやや後手を踏んだ。しかし、この馬の強みのひとつは飛越の速さにある。スタートしてから2番目に飛越する障害である、向こう正面に設置された6号障害を飛越する頃には、一時的に先頭に立った。すぐ後にインディゴブラックにかわされたものの、前でレースを進めることとなった。
対するエコロデュエルは、後方から2番手に構え、末脚を温存する形となった。序盤から、2頭のレース運びは対照的だった。
インディゴブラックが軽快に逃げを刻み、レースは順調に進んでいく。そのまま、2周目の向こう正面を進む頃になると徐々に隊列が圧縮されていった。
実績を重ねてきた東京で、淡々とレースを運ぶジューンベロシティ。後ろから虎視眈々と位置を押し上げていくエコロデュエル。何度も東京で結果を出してきた馬と障害界の新王者が、いよいよ同じ視界の中へと入ってきた。
ダートコースを横切り、最後の直線へ。5頭の先団がほぼひと塊となって駆け込んでくる。その中には、ジューンベロシティとエコロデュエルの姿もある。芝コースに設置された最終障害となるハードルの9号障害を先団が続々と飛越する。ここで先頭に立ったのはジューンベロシティだった。

しかし、新王者も黙ってはいない。草野太郎騎手の鞭に応えると、併せていたインディゴブラック、前を走っていたサイードを交わし、ジューンベロシティとの差を詰めていく。最後は2頭が激しい叩きあいを見せ、ほとんど並ぶようにしてゴール板を駆け抜けた。どちらが前に出ているのか。勝負の行方は、写真判定へと持ち込まれた。
結果は…1着ジューンベロシティ。2着エコロデュエル。両者の間の着差はハナ差であった。
競走馬には、それぞれに得意不得意がある。こと障害競走となれば、飛越する障害の種類や配置までレースによって異なる。同じ東京競馬場であっても、求められるものが常に同じとは限らないのだ。それでもジューンベロシティは、東京ジャンプSと東京ハイジャンプ、その双方で結果を重ね、2年連続の春秋制覇という偉業を成し遂げた。
王者を相手に、最後まで譲らなかった東京巧者。2025年の東京ハイジャンプは、ジューンベロシティが積み重ねてきた「東京での強さ」を、改めて証明する一戦となった。
写真:@QZygbdf8L1kEB9U、だいゆい、ぼん(@Jordan_Jorvon)
